【完結】タイムトラベル・サスペンス『君を探して』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
12 / 84
2 事件を追う者たち

10 手を繋ぐ理由

しおりを挟む
「握れ」
 和宏の言葉に、優人は視線を下ろす。
「まてまて、どこを握ろうとしてるんだ」
 慌てる和宏に、
「うん?」
と、優人。
「可愛く首を傾げるのはやめろ」
「兄さんのケチ」
「ケチって……何を言っているんだ、一体」
とため息をつく和宏。
「なんだか、あの時みたいだね」
と優人はクスリと笑う。

 閑静な住宅街。生家のあった場所はすぐそこへと迫っていた。
 ここから先は何があるかわからない。
 いざとなれば、時を渡る必要が出てくるかもしれないし、もしかしたらその最中さなかに逸れてしまうかもしれない。
 それを防ぐために手を繋ぎ、雛本一族は時を渡るのだ。

「あの時も?」
と不思議そうな顔をする和宏に、
「そうだよ。兄さん、忘れちゃったの?」
と優人は驚いた顔をした、

 自分たち三兄弟は何度も時渡の練習をした。
 それは数時間から数週間を、行ったり来たりするようなものだったが、いざという時に追手から逃れるためにである。
 初めは父母と共に。
 そのうち自分たちだけで練習をすることはあったが、いつだってカナが真ん中だったはずだ。
「兄さん。その話は後ですることにして、今は急ごう」
 優人は困惑する和宏の手を掴むと、生家のあった場所へ向かって歩き出す。
 今は人通りがないものの、いつ知り合いに遭遇するかわからないし、こんなところを見られては誤魔化すのが大変である。

 和宏は優人に引っ張られるままに着いていく。
 心はあの日に向いたまま。

「ここだね」
と、優人。
 生家のあった場所は今も立ち入り禁止のテープやロープが張られたままになっていた。雑草が生い茂り、燃えて朽ちた家屋の残骸が当時の恐ろしさを醸し出している。
 火事の現場はどうしてこうも、恐怖を感じるのだろう?
「怖い?」
と優人に問われ、和宏はただ視線を返す。優人はそれに対し何も言わず、再び家の方に視線を戻した。
 家の裏側はうっそうとした林となっている。誰も手入れをしなくなったからか、異次元への入り口のように感じた。

「俺たち、よく裏の林で遊んでいたよね。あの日は裏口に向かっていたのかな?」
と、優人。
「恐らく」
 和宏が頷くと『間取りは覚えてる?』と問われる。
「ああ」
 和宏は高校三年の春までここに暮らしていたのだ。確かな記憶があるかと問われたら、先ほどのこともあり自信はないが、間取りくらいは覚えていると断言できた。
「ねえ、兄さん。ちょっと後ろ向いて」
「なんだ急に」
 生家へ北方向である、右側に立っていた優人は、強引に和宏を横に向けると背中のバッグに手を伸ばす。

「喉乾いたのか? もうだいぶ温いぞ。外はこんなだし」
 背中のワンショルダーバッグの中に入っているのは、タオルハンカチと先ほど購入した水くらいだ。
 彼がペットボトルを取り出すのを確認すると、優人へ向き直った和宏は慌てる。てっきり、キャップを外すのだと思っていたから。
 しかし何故か彼はそれを振り上げた。
「おい! 何をする気だ」
 制止しようとする和宏。優人は険しい顔をして、二人が来た方角を睨んでいる。
「誰かいる」
 彼が言葉を口にするのとペットボトルを投げつけたのは、ほぼ同時であった。言葉を失いあんぐりと口を開けたままの和宏の目に、路地の塀にぶつかりペットボトルが破裂した光景が飛び込んでくる。
 柔らかく薄いプラスチックのペットボトルは水をまき散らし、道路にベチャッと落ちた。
「キャッ」
という悲鳴と共に。
 優人は生家の敷地内から朽ちて落ちた柱を掴むと、
「兄さんは後ろにいて」
と緊張感を高まらせたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

騙し屋のゲーム

鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。

処理中です...