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2 事件を追う者たち
9 和宏の推理
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駅までたどり着くと和宏と優人は改札口にスマホをあて、人ゴミに紛れ込む。
電光掲示板を見上げると、直ぐに自宅方面に向かう電車が来ることが分かった。家に向かって逃げれば自宅の場所が分かってしまう。
ここは危険を冒してでも遠回りをするべきだと判断した。
「優人、こっちだ」
腕を掴み、自宅のある駅とは反対方面へ向かう列車のホームを目指す。
優人は和宏に黙って従った。
「兄さん」
「大丈夫、心配するな。次の駅で乗り換えて、別の路線を使うだけだ」
「うん」
心配そうにこちらを見ている優人に背を向け、和宏は自動販売機にスマホを向ける。
「何飲む?」
「途中でトイレに行きたくなったら困るよ」
優人はそう言いながらも、ペットボトルの水をチョイスして和宏のスマホの画面をスライドした。
ピピッと音がして、ガコンとペットボトルが落ちてくる。
優人は身体を折り曲げ、取り出し口に手を差し入れた。
そんな彼を見ながら、
「なあ、優人」
と声をかける。
「うん?」
取り出し口からペットボトルを出した彼は、和宏が背負っていた斜め掛けの三角の形をしているワンショルダーバッグを開けて、ペットボトルを挿入した。
和宏は、”俺のかよ!”と思いながらも、
「優人はあの日、何を見たんだ?」
と彼に問う。
不思議そうな顔をした優人。
ちょうどホームに列車が入ってくるところだった。
今のところ怪しい人影はない。
扉が開くのと同時に素早く乗り込み、車両を移動した。
「何って、何を?」
「俺たちがこっちに来た日、お前だけ何度も家の方を見ていただろう?」
車両を二つほど移動して追手がないことを確認すると、手すりに掴まり声を潜め、優人にそう問いかける。
「恐らく、相手は優人が何かを見たと思っているんじゃないかと思うんだ。それを確かめに図書館に行ったと」
それはただの推測でしかない。
優人はあの日、燃え盛る炎の向こうに何かを見たのではないだろうか?
それはもしかしたら、父や母を殺した犯人。
だとしたら、母がこの年代を選んだのは事件への何らかの手がかりがあるか、何かを伝えるためでなのではないか。
きっと意味はある。和宏はそう思っていた。
もちろん今回の事件がきっかけになることも、知っていたのだろう。
でなければ、年代指定の理由に説明がつかない。
──カナは全て知っていたのではないだろうか?
恐らく、母から聞かされていたに違いないとも思う。
これがただの一般人なら突飛な発想だが、雛本一族は『時渡の力』を持った者たち。未来から使者がやってきて、そのことを母に告げたということも考えられる。
「俺は何も見ていない」
何かを思案するように顎に拳を当てていた彼が、小声で呟くように言った。
「え?」
「何も見ていないんだ。むしろ……」
”何も見えなかったから、何度も振り返っていた”と彼は言う。
それは一体どういうことなのだろうか?
あの時、確かに母はいた。
和宏たちに逃げろと言ったのだ。
そのすぐ後に殺され、倒れたとでも言うのだろうか?
「母さんのことは見たんだろう?」
と和宏。
「うん。でも次に見た時はいなかった。犯人も見ていない」
彼はそれを何度も確かめていたと言う。
新聞の記事には確かに遺体は二体と書いてあった。
あの事件の記事を扱っていたのは一社のみ。しかも小さく、佇むように。
これには何か理由があるのかもしれない。
失踪した記者のことも気になる。だがその者を探し出すのは容易ではないだろう。
もちろん、担当の刑事に話を聞くこともできない。片織に聞いたところで不審に思われるかもしれないし、危険を冒しても何も得られない確率が高い。
今はまだ、その時ではないのだと思う。
「優人、実家のあった場所に行ってみないか?」
それは賭けであった。
行けば何か思い出すかもしれない。
「うん。そうだね」
彼は和宏の考えを察したのか、素直に頷いたのだった。
電光掲示板を見上げると、直ぐに自宅方面に向かう電車が来ることが分かった。家に向かって逃げれば自宅の場所が分かってしまう。
ここは危険を冒してでも遠回りをするべきだと判断した。
「優人、こっちだ」
腕を掴み、自宅のある駅とは反対方面へ向かう列車のホームを目指す。
優人は和宏に黙って従った。
「兄さん」
「大丈夫、心配するな。次の駅で乗り換えて、別の路線を使うだけだ」
「うん」
心配そうにこちらを見ている優人に背を向け、和宏は自動販売機にスマホを向ける。
「何飲む?」
「途中でトイレに行きたくなったら困るよ」
優人はそう言いながらも、ペットボトルの水をチョイスして和宏のスマホの画面をスライドした。
ピピッと音がして、ガコンとペットボトルが落ちてくる。
優人は身体を折り曲げ、取り出し口に手を差し入れた。
そんな彼を見ながら、
「なあ、優人」
と声をかける。
「うん?」
取り出し口からペットボトルを出した彼は、和宏が背負っていた斜め掛けの三角の形をしているワンショルダーバッグを開けて、ペットボトルを挿入した。
和宏は、”俺のかよ!”と思いながらも、
「優人はあの日、何を見たんだ?」
と彼に問う。
不思議そうな顔をした優人。
ちょうどホームに列車が入ってくるところだった。
今のところ怪しい人影はない。
扉が開くのと同時に素早く乗り込み、車両を移動した。
「何って、何を?」
「俺たちがこっちに来た日、お前だけ何度も家の方を見ていただろう?」
車両を二つほど移動して追手がないことを確認すると、手すりに掴まり声を潜め、優人にそう問いかける。
「恐らく、相手は優人が何かを見たと思っているんじゃないかと思うんだ。それを確かめに図書館に行ったと」
それはただの推測でしかない。
優人はあの日、燃え盛る炎の向こうに何かを見たのではないだろうか?
それはもしかしたら、父や母を殺した犯人。
だとしたら、母がこの年代を選んだのは事件への何らかの手がかりがあるか、何かを伝えるためでなのではないか。
きっと意味はある。和宏はそう思っていた。
もちろん今回の事件がきっかけになることも、知っていたのだろう。
でなければ、年代指定の理由に説明がつかない。
──カナは全て知っていたのではないだろうか?
恐らく、母から聞かされていたに違いないとも思う。
これがただの一般人なら突飛な発想だが、雛本一族は『時渡の力』を持った者たち。未来から使者がやってきて、そのことを母に告げたということも考えられる。
「俺は何も見ていない」
何かを思案するように顎に拳を当てていた彼が、小声で呟くように言った。
「え?」
「何も見ていないんだ。むしろ……」
”何も見えなかったから、何度も振り返っていた”と彼は言う。
それは一体どういうことなのだろうか?
あの時、確かに母はいた。
和宏たちに逃げろと言ったのだ。
そのすぐ後に殺され、倒れたとでも言うのだろうか?
「母さんのことは見たんだろう?」
と和宏。
「うん。でも次に見た時はいなかった。犯人も見ていない」
彼はそれを何度も確かめていたと言う。
新聞の記事には確かに遺体は二体と書いてあった。
あの事件の記事を扱っていたのは一社のみ。しかも小さく、佇むように。
これには何か理由があるのかもしれない。
失踪した記者のことも気になる。だがその者を探し出すのは容易ではないだろう。
もちろん、担当の刑事に話を聞くこともできない。片織に聞いたところで不審に思われるかもしれないし、危険を冒しても何も得られない確率が高い。
今はまだ、その時ではないのだと思う。
「優人、実家のあった場所に行ってみないか?」
それは賭けであった。
行けば何か思い出すかもしれない。
「うん。そうだね」
彼は和宏の考えを察したのか、素直に頷いたのだった。
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