【完結】タイムトラベル・サスペンス『君を探して』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
11 / 84
2 事件を追う者たち

9 和宏の推理

しおりを挟む
 駅までたどり着くと和宏と優人は改札口にスマホをあて、人ゴミに紛れ込む。
 電光掲示板を見上げると、直ぐに自宅方面に向かう電車が来ることが分かった。家に向かって逃げれば自宅の場所が分かってしまう。

 ここは危険を冒してでも遠回りをするべきだと判断した。
「優人、こっちだ」
 腕を掴み、自宅のある駅とは反対方面へ向かう列車のホームを目指す。
 優人は和宏に黙って従った。

「兄さん」
「大丈夫、心配するな。次の駅で乗り換えて、別の路線を使うだけだ」
「うん」
 心配そうにこちらを見ている優人に背を向け、和宏は自動販売機にスマホを向ける。
「何飲む?」
「途中でトイレに行きたくなったら困るよ」
 優人はそう言いながらも、ペットボトルの水をチョイスして和宏のスマホの画面をスライドした。
 ピピッと音がして、ガコンとペットボトルが落ちてくる。

 優人は身体を折り曲げ、取り出し口に手を差し入れた。
 そんな彼を見ながら、
「なあ、優人」
と声をかける。
「うん?」
 取り出し口からペットボトルを出した彼は、和宏が背負っていた斜め掛けの三角の形をしているワンショルダーバッグを開けて、ペットボトルを挿入した。
 和宏は、”俺のかよ!”と思いながらも、
「優人はあの日、何を見たんだ?」
と彼に問う。

 不思議そうな顔をした優人。
 ちょうどホームに列車が入ってくるところだった。
 今のところ怪しい人影はない。
 扉がくのと同時に素早く乗り込み、車両を移動した。

「何って、何を?」
「俺たちがこっちに来た日、お前だけ何度も家の方を見ていただろう?」
 車両を二つほど移動して追手がないことを確認すると、手すりに掴まり声を潜め、優人にそう問いかける。
「恐らく、相手は優人が何かを見たと思っているんじゃないかと思うんだ。それを確かめに図書館に行ったと」
 それはただの推測でしかない。

 優人はあの日、燃え盛る炎の向こうに何かを見たのではないだろうか? 
 それはもしかしたら、父や母を殺した犯人。
 だとしたら、母がこの年代を選んだのは事件への何らかの手がかりがあるか、何かを伝えるためでなのではないか。
 きっと意味はある。和宏はそう思っていた。
 もちろん今回の事件がきっかけになることも、知っていたのだろう。
 でなければ、年代指定の理由に説明がつかない。

──カナは全て知っていたのではないだろうか?
 恐らく、母から聞かされていたに違いないとも思う。

 これがただの一般人なら突飛な発想だが、雛本一族は『時渡ときわたりの力』を持った者たち。未来から使者がやってきて、そのことを母に告げたということも考えられる。

「俺は何も見ていない」
 何かを思案するように顎にこぶしを当てていた彼が、小声で呟くように言った。
「え?」
「何も見ていないんだ。むしろ……」
 ”何も見えなかったから、何度も振り返っていた”と彼は言う。
 それは一体どういうことなのだろうか?

 あの時、確かに母はいた。
 和宏たちに逃げろと言ったのだ。
 そのすぐ後に殺され、倒れたとでも言うのだろうか?

「母さんのことは見たんだろう?」
と和宏。
「うん。でも次に見た時はいなかった。犯人も見ていない」
 彼はそれを何度も確かめていたと言う。

 新聞の記事には確かに遺体は二体と書いてあった。
 あの事件の記事を扱っていたのは一社のみ。しかも小さく、佇むように。
 これには何か理由があるのかもしれない。
 失踪した記者のことも気になる。だがその者を探し出すのは容易ではないだろう。

 もちろん、担当の刑事に話を聞くこともできない。片織に聞いたところで不審に思われるかもしれないし、危険を冒しても何も得られない確率が高い。
 今はまだ、その時ではないのだと思う。

「優人、実家のあった場所に行ってみないか?」
 それは賭けであった。
 行けば何か思い出すかもしれない。
「うん。そうだね」
 彼は和宏の考えを察したのか、素直に頷いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

或ル古物商ノ話

すいせーむし
ミステリー
古物店"No admittanc"。 そこで手にしたモノにより、人々の生活は狂っていく。

小説探偵

夕凪ヨウ
ミステリー
 20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。  男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。  そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。  小説探偵、と。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...