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1 数年後の二人

2 雛本家

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 和宏はため息をつくと、再びテレビモニターに視線を移す。
 そういえば、あの年も要人が命を狙われ犠牲になった。

「別に嫌味で言ったわけじゃない。俺ももう子供じゃないし、俺のために遠慮しているならその必要はないよ」
 好奇心で聞いていると思われた彼の、心からの言葉に和宏は言葉を失う。知らないうちに随分大人になったものだと感心した。

 数年前、自分たちは両親を何者かに殺され孤児となった。
 我が雛本家は時渡ときわたりの能力を手に入れた一族の末裔。その祖先は、過去にではなく遠い未来にいるのだと母から聞かされていた。
 母は雛本本家の人間であり、父は母にとって遠い親戚にあたるらしい。どんな経緯で二人が結ばれたのかは知らないが、仲の良い夫婦だったと思う。

「和兄?」
 なんの返答もしない和宏を不思議そうに見上げる、優人。
「気にするな、そんなんじゃないよ。単にモテないだけだ」
 『お前と違って』という言葉を飲み込み、和宏は肩を竦《すく》めて苦笑いをする。
 次から次へと彼女をとっかえひっかえする優人は、大変おモテになるようだ。本人にはそのつもりはないようだが。
 別れてしまう理由を考えると、強くしかることもできないでいる。ただ、こんな姿を妹のカナが見たら、なんと言うだろうかと心を痛めるばかりだ。

 妹のカナは母親似で、強い能力の持ち主であった。
 時を渡り、過去や未来へ行くことが出来るとは言っても、私利私欲のために施行することはない。むしろ一族はその能力を手に入れたことにより、何者かに命を狙われたのである。
 今はその者から逃れるためにのみ、力を使うと言っても過言ではない。
 それに確実に狙った場所へ行けるとも限らなかった。

──恐らく両親が殺されたのも、それが理由に違いない。

 燃え盛る炎を目の前にして、何もできなかった自分。
 お母さんと泣き叫ぶ優人の手を引き、逃げるので精一杯だった。
『和宏! 優人を連れて逃げなさい。早く』
 あの時の母の悲痛な声。父は既に帰らぬ人となっていた。
 母は子供たちを逃すために、一人犠牲になったのだ。

 呆然と立ち尽くす自分の手を引いたのは、当時まだ高校生になったばかりだった妹のカナ。彼女とは二つ違い。
『お兄ちゃん、行こう!』
 カナに手を引かれ裏山へ走る途中で我に返る。
 長男の自分がしっかりしなくてどうするんだというように、カナと優人へ交互に視線を向けた。中学生になったばかりの優人は、何度も後ろを振り返っていたように思う。
 あの時三人で時を渡ったのは、
『何かあったら未来へ逃げなさいと母に言われているの』
とカナに言われたからだ。

 三人でしっかりと手を握っていたはずなのに、ついた先にカナはいなかった。茫然自失の状態からなんとか抜け出せたのは、事前に着いた先でどう行動するかをカナと話し合い、そのメモを所持していたからに他ならない。
 あれがなければ今頃、どうしていたのか想像もつかない。全てカナのお陰と言ってもいいだろう。

「ねえ、和兄。合コンとか行ってみたら?」
 モテなくて困っていると思われたのか、いつの間にかスマートフォンことスマホをじっと見つめていた優人がその画面をこちらに向けた。
「兄さんは、見た目は良いんだし」
と要らぬことまで言う始末。
「それは性格に難ありと言いたいのか?」
という和宏の言葉に、切なげな表情をする優人。
「そういうとこだと思う」
 きっとモテない理由のことだろう。
 要らぬお節介だということに気づかない優人は、着信音がなり自分の方へとスマホの画面を向ける。
「ちょっとコンビニ行ってくるよ」
 きっと誰かに呼び出されたのだろう。彼はスマホをポケットに入れると、そう言ってソファから立ち上がったのだった。
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