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1話──遠く離れた場所でも君を想っていた【Side:花穂&奏斗】
1 切ない夕暮れ
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人は変わっていく。良くも悪くも。
そして時はいつだって前にしか進まない。
過去の自分自身にも予測のつかない今があって、その今を大切に思っている自分がいた。
会いたいなと思った、彼女に。
この世で一番大切にしている人に。
マンションのベランダから階下を見下ろせば木々は色づいて、秋の知らせ。
もうすぐ会いたい人が海の向こうから戻ってくる。自分はその日を心待ちにしていた。
『今日は用があってなかなか返信できないかもしれないわ』
事前にそう言われていたものの、そんな時だからこそ会話を望んでしまう自分がいる。
声が聴きたいと思っても容易ではないし、会いたいと願っても叶わぬ距離。
離れたくない泣きじゃくった彼女を心を鬼にして別れたのは2年前。
『白石、負けるなよ』
あの時、一緒に空港で見送りをしてくれた友人はそう言った。
もちろん遠距離恋愛ごときに押しつぶされてたまるかと思ったものだ。長期休みには会いに行った。会うたびに愛を確かめ合って、次の約束をしたのだ。
そんな日々ももうすぐ終わりを迎える。
「長かったな」
白石奏斗は欄干に覆いかぶさって空を見上げた。
空は何処までも繋がっている。
──いや。地球は丸いから本当は違う。
身体を反転させ、リビングに目をやった。
もうすぐ帰国する恋人と一緒に暮らすために借りた部屋。友人の会社が不動産も展開していたため、簡単に契約することが出来た。やはり持つべきものは友か。
そんなことを思いながらスマホの画面に視線を落とすと数件のメッセージ。
それは恋人の義弟からであった。
彼もまた奏斗にとっては元恋人なのだが。
「夜は家にいろ? 何か用でもあるのかな」
文面を読み上げ、ベランダからリビングへ入る。時計を見上げればもう16時を回っていた。
夜に自宅にいることを考えれば、そろそろ夕飯の材料を買いに行くべきだ。彼が来るなら一応二人分はあった方がいいだろう。
了解と承諾の旨を送信すると、奏斗は上着と車のキーを掴んだ。キーケースにはあの頃恋人から受け取った合鍵はもうない。部屋を解約してしまったためだ。
──どうして連絡が取れない時ばかり、こんなに思い出してしまうのだろう。
いくつも乗り越えてきた寂しい夜を今日も過ごさなければならない。
贅沢は言わない。声を聴いて、その温もりを感じたいと願った。
人の幸せとはホントに小さなもので、大層なことは求めていないのだと改めて思う。人には、代わりなんていない。愛する人ならなおさら。
人は恋をする。恋とは曖昧なもので、小さな積み重ねがないと壊れて消えてしまうもの。その曖昧な想いを信じることがどれだけ困難なことか知った。
十分すぎるほどに。
変わらない気持ちなんて、本当は何処にもないのかもしれない。
大きくなるか、小さくなるか、消えてしまうか。
だからこそ、恋ならば相手を大切にしなければならないのだ。愛という小さな炎が消えてしまわないように。
駐車場へ向かった奏斗は運転席に乗り込んで、ため息をつく。
愛する人の傍にいられることは、とても尊いことなのだ。それは永遠でもないし、当たり前でもない。
花穂と過ごした日々や時間があるから耐えていられることが分かっていても、やはりそこにいないのが辛いのだ。
そんな時に気を紛らわせてくれたのは元カノである『大川結菜』だった。別れてからも友人で、むしろ親友とも呼べる関係。彼女は資産家の娘だったが、今は作家として活動している。
見た目はギャル系だが奏斗と同い年。見た目とは異なり、真面目で純情な文学少女であった。
「夕飯の相談でもしてみるかな」
奏斗はそう呟くと彼女にメッセージを送る。すぐに返信があり文面に目を通すと『面倒な時は焼くだけステーキ』とのこと。
まずはスーパーに向かうかと車のキーに手を伸ばしたのだった。
そして時はいつだって前にしか進まない。
過去の自分自身にも予測のつかない今があって、その今を大切に思っている自分がいた。
会いたいなと思った、彼女に。
この世で一番大切にしている人に。
マンションのベランダから階下を見下ろせば木々は色づいて、秋の知らせ。
もうすぐ会いたい人が海の向こうから戻ってくる。自分はその日を心待ちにしていた。
『今日は用があってなかなか返信できないかもしれないわ』
事前にそう言われていたものの、そんな時だからこそ会話を望んでしまう自分がいる。
声が聴きたいと思っても容易ではないし、会いたいと願っても叶わぬ距離。
離れたくない泣きじゃくった彼女を心を鬼にして別れたのは2年前。
『白石、負けるなよ』
あの時、一緒に空港で見送りをしてくれた友人はそう言った。
もちろん遠距離恋愛ごときに押しつぶされてたまるかと思ったものだ。長期休みには会いに行った。会うたびに愛を確かめ合って、次の約束をしたのだ。
そんな日々ももうすぐ終わりを迎える。
「長かったな」
白石奏斗は欄干に覆いかぶさって空を見上げた。
空は何処までも繋がっている。
──いや。地球は丸いから本当は違う。
身体を反転させ、リビングに目をやった。
もうすぐ帰国する恋人と一緒に暮らすために借りた部屋。友人の会社が不動産も展開していたため、簡単に契約することが出来た。やはり持つべきものは友か。
そんなことを思いながらスマホの画面に視線を落とすと数件のメッセージ。
それは恋人の義弟からであった。
彼もまた奏斗にとっては元恋人なのだが。
「夜は家にいろ? 何か用でもあるのかな」
文面を読み上げ、ベランダからリビングへ入る。時計を見上げればもう16時を回っていた。
夜に自宅にいることを考えれば、そろそろ夕飯の材料を買いに行くべきだ。彼が来るなら一応二人分はあった方がいいだろう。
了解と承諾の旨を送信すると、奏斗は上着と車のキーを掴んだ。キーケースにはあの頃恋人から受け取った合鍵はもうない。部屋を解約してしまったためだ。
──どうして連絡が取れない時ばかり、こんなに思い出してしまうのだろう。
いくつも乗り越えてきた寂しい夜を今日も過ごさなければならない。
贅沢は言わない。声を聴いて、その温もりを感じたいと願った。
人の幸せとはホントに小さなもので、大層なことは求めていないのだと改めて思う。人には、代わりなんていない。愛する人ならなおさら。
人は恋をする。恋とは曖昧なもので、小さな積み重ねがないと壊れて消えてしまうもの。その曖昧な想いを信じることがどれだけ困難なことか知った。
十分すぎるほどに。
変わらない気持ちなんて、本当は何処にもないのかもしれない。
大きくなるか、小さくなるか、消えてしまうか。
だからこそ、恋ならば相手を大切にしなければならないのだ。愛という小さな炎が消えてしまわないように。
駐車場へ向かった奏斗は運転席に乗り込んで、ため息をつく。
愛する人の傍にいられることは、とても尊いことなのだ。それは永遠でもないし、当たり前でもない。
花穂と過ごした日々や時間があるから耐えていられることが分かっていても、やはりそこにいないのが辛いのだ。
そんな時に気を紛らわせてくれたのは元カノである『大川結菜』だった。別れてからも友人で、むしろ親友とも呼べる関係。彼女は資産家の娘だったが、今は作家として活動している。
見た目はギャル系だが奏斗と同い年。見た目とは異なり、真面目で純情な文学少女であった。
「夕飯の相談でもしてみるかな」
奏斗はそう呟くと彼女にメッセージを送る。すぐに返信があり文面に目を通すと『面倒な時は焼くだけステーキ』とのこと。
まずはスーパーに向かうかと車のキーに手を伸ばしたのだった。
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