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『猟奇的、美形兄は』

25:兄、印刷につき

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 どうにか変なキャップを被ることは阻止できたものの。
 家を出、車に向かう兄の背中にはデカデカと”桃尻”という文字がプリントされている。
 灰色系統の布地に、ショッキングピンクで。

──どこで買ってくるの、そんなTシャツ。
 どこに売ってるんだあああああ!

 愛都は頭を打ち付けたい気分になる。
 兄の膝丈のズボンはよく見るとパンツ模様。頭痛がした。
「んっんっ。まな、早く乗って」
 クッションだか、枕だか、ぬいぐるみだか定かではないが変な形の代物をこれから買いに行く。
 無事に部屋まで持って帰れればいいが、うちには最強の門番がいる。そう、母だ。
 お×××ん型の塊が無事に審査に通るだろうか?

──まあ、部屋にはお×××ん型の石膏もあるしね。

 兄の車に乗り込むと、兄はカーナビに手を伸ばす。
 お気に入りの曲を流しつつ、アクセルを踏んだ。
「今日行くところは、(株)原始人の本店なんだよ。日用品雑貨部門の。楽しみだね」
「それって十八歳未満は入店禁止とかじゃないの?」
「大丈夫、お腹に入っているときから、お墓に入った後までOKだよ」

──それ、どっちも商品見えなくない?

 愛都の心のツッコミをよそに、兄は鼻歌ルンルンである。
 車が駅付近の大通りまで来た頃、
「ここが株原の本社」
と、大きなガラス張りの高層ビルを指す、兄。
「でかっ!」

 本社の正面玄関前を車で通りかかった時、数人のサラリーマンが玄関から出てきた。一人は全身ブランドで綺麗な色の髪をした男性。明らかに周りから浮いている。
『ねえ、いいじゃん。呑み行こうよ』
 後ろからやって来た男性に呑みに誘われているようだ。
 と、そこへ、
『君たち呑みに行くの?もちろん僕も連れてくよね?』
と、バーコードの恰幅の良い男性が大股で彼らに近づいた。
 途端に彼らの様子が変わる。
 満面に笑みを浮かべ、
『ごちになります! 部長』
と、それぞれポーズを決める。
 どうやら、部長らしい。彼らはお喋りをしながら飲み屋がある通りのほうへ歩き出した。

──いいなあ、楽しそうな会社。

「そう言えば、お兄ちゃんは将来どんな職に就くの?」
「それはなってみないと分からんが、あの会社に就職を希望している」
 どうやら兄は、(株)原始人で働きたいらしい。
「おパンティ部門で活躍予定だ」
「え」
 まさか、食い破る気じゃ? と不安になる愛都。
「まなの素敵なお兄ちゃんはな。おパンティに囲まれていたいんだよ」
 家でも十分囲まれているが。
「そしてこの兄の棺には、一緒におパンティをぎゅうぎゅうに詰めておくれ」
 そんなもん棺に詰めるなんて話は聞いたことがない。その前に、母が発狂しそうである。
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