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『猟奇的、美形兄は』

2:弟、溺愛につき

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「お兄ちゃんッ」
 入学式が終わり校門に出ると兄が待ち受けていた。
「まな」
 走りよれば、背の高い兄がむぎゅっと抱き締めてくれる。
 大好きな兄の香水の香りが、この先のこと想像させる。

──エッチ! エッチ! 
 お兄ちゃんとエッチ!

 愛都の心の中はムード台無しであったが。
「何食べたい?マンモスか?」
 そんなものを食べたがるのは兄だけである。愛都は可愛らしく口元に指をあて、兄に対し可愛さアピールをする。上目遣いで。
「うーん、寿司がいいなあ♡」
 寿司なら食べやすいし、量も調節できる。だが兄は大食いというか……ワイルドが好きだ。そのためケーキも手づかみで食べるのである。
「よし、寿司だ!セック……おおっと」
 口が滑ったらしい。愛都は空気を読み、聞かなかったことにした。

──うん、僕最高の弟♡
 おにいちゃんもこれで僕にメロメロ!

 喜んでいたのも、つかの間。場所は眺めの良いホテルの展望レストランの個室。なんで個室なんだろう? と思っていたら……、
「まな。これを」
と、なんだかどこかのブランドの小さな手提げの紙袋を渡される。
 なんだろうと中身を覗けば、綺麗に包装された……、
「お、おにいちゃ……」
スケスケのエロっちい下着である。
「今日はこれをつけるんだ」
「えーっ」
 しかもエロピンク。兄の変態趣味丸出しで、紐パンである。

「初夜だぞ!」
 結婚じゃあるまいしと愛都は思ったが、面倒なことになるので黙っていた。愛都の前には高級寿司。兄は骨付き肉にかぶりついていた。ワイルドである。
「あー早く、まなの下着姿が見たいな」
 肉を食いながら何を言っているんだと、ツッコミたくなったが黙っていた。
「おいしいか? あーんしてやろうか?」
「あーん」
 愛都はいったん考えることを放棄し、イチャつく事にした。

──ちょっと待って!
 あーんが手づかみ?!
 ワイルド過ぎるんだけど……でも好き!
 大好きッ!

「まな。指は食べちゃダメだぞ」
 なんていいながら、舐めさせる兄。

──もうめっちゃエロいんですけど!

 この後のことを考えると、期待に胸どころか股間が膨らみそうと思いながら、兄と食事を楽しんだ。予約してあった部屋はスイートルーム。初めてのラブには最高のシチュエーションだ。変態だが、ロマンチックには煩い兄にうっとりする瞬間でもある。

「早くおパンティを履くんだ!まな」
 部屋に入るなり急かす兄に、前言撤回。ムード何処行った! おい。
「ピンクのスケスケおパンティを……ぐふっ」
 あまりにも煩いので、無言で腹にパンチをお見舞いする。
「お兄ちゃん。僕ぅ、お風呂に入りたいな」
 可愛く頬を両手で包み、アイドルさながら可愛いポーズを決めた。殴っておいて可愛いもクソも無いが。
「こういうところって、素敵なお風呂なんでしょ?」
 愛都は、腹をさすり前かがみになっている兄を無視して、風呂場に向かった。案の定、ピンクな壁にメルヘンな雰囲気のハートのバスタブ。SNSに映えそうだ。

「そうだな、楽しい時間の前に、楽しいお風呂だ」
 兄は気を取り直したらしく、風呂場を覗き込むと湯を張り出した。
「お! 泡風呂が楽しめるぞ。泡まみれのまなも良いな」
と、見ているのは愛都の股間である。
 ”何処見てんだ! おい。”と言いたかったが、愛都は気付かないフリをした。
「楽しみだな、まな」
「うん」
 兄は愛都の尻をさわさわしている。ただの痴漢のようだ、と思いながらも兄の胸に擦り寄れば、
「早くピンクのスケスケおパンティ」
と呟いている。
 これで見かけが禿親父だったらただの変態だな、と愛都は複雑な気持ちになったのだった。


──きゃっきゃウフフ!
 ラブラブ僕らのピンク世界。
 
 まあ、壁がピンクだし、バスタブもピンクだけどね。
 しかしなんで”いつも全裸を見てるのに、わざわざエロエロ下着履かなきゃなのか?”って聞いたら、”何言ってるんだ! 着てるのが一番エロいんだ!”って力説されたんだけど。どういうこと?
 全裸よりパンツ履いてるほうがいいの? 良くわからないんですけど。

 泡風呂に浸かりながら、股間をタオルで前後にゴシゴシ洗う兄を見ていた。
 それ、おじいちゃんがやるやつだよね? というツッコミを入れたいのを我慢し。その後兄は、広い洗い場で肉体美を見せ付けるため、腕立て伏せを始めるが、股間がペタポタいっているのが気になり、肉体美どころではなかった。

──やっぱり、お兄ちゃんはちょっと変だと思うんだよね。
 ちょっとだけ。

「まな! 俺の割れた逞しい腹筋を見よ!」

 ちょうど目線が股間の位置にあったので、腹筋どころではなかった。股間しか目に入らない。
 大きいね! と思わず言いそうになり、両手で口を押さえる。
 その仕草はどうやら”素敵!”と受け取られたらしく、ボディビルダーのようにポーズを決めるが、そもそもそこまでマッチョではないし、顔はジャニーズやモデルさながらの美形男子なので、違和感しかない。
 そして股間しか目に入らない。
 
 せめて前は隠そうよと言ったら”なま! 男は股間が命だ! ミロのヴィーナスだって出してるだろ!”と返って来たがそもそもはミロは女性だ。きっと兄が言ってるのはダビデ。しかもお小さい象徴のものがついているはずだ。

「まな、堪能したか?俺の肉体美」

──うん、馬鹿さ加減と股間は堪能したよ。
 早く、きゃっきゃウフフしたいんですけどー?

 しぶしぶ指定された下着をつけベッドで待ち構える兄の傍に行くと何故か、ポールダンスをせがまれる。

──ちょっとまって! 
 ポールダンスなんてやったことないし、まずポールどこだよ!

 愛都は困惑した。
 兄はスマホのカメラを待ち構えている。
「お兄ちゃん! ポールどこかな?」
 両手を可愛く合わせ首を傾げてみた。ホントはぶっ飛ばしたいところだが、ここは我慢。この先のハッピーな時間がアンハッピーになってしまう! それは阻止せねばならん。何としても。
「不備があったようだ」
 兄は意外とあっさり引いた。少し動揺しているものの、やっとたどり着いたゴールである。
 今日こそ兄と念願の!

「まな」
 手を掴みそっと引き寄せられ、胸の中に納まるとドキドキが収まらない。やっと素敵なムードだ! と喜んでいたら、ベットに押し倒され腰を持ち上げられた。いきなりか! と、思いきや……。
「この日を、どれだけ待ち望んだことか」
 兄の演説が始まった。
「ピンクのスケスケおパンティに咲くピンクの小さな蕾」
 
──兄は一体何に話しかけているんだ! 僕、ここなんだけど。
 
 兄は愛都のお尻を見つめている。
「まなが三歳の時からずっと、ずううううううっと待っていたんだこの日を! この瞬間を……ごふッ」
 あまりの変態演説に、愛都は兄の腹を蹴り上げた。

「もう!お兄ちゃんのばか!」
「まな!?」
「今日のこと凄く楽しみにしてたのに。全然ムード無いしさっ」
 ぷいっと頬を膨らませ横を向けば兄は慌てた。
「ご、ごめん。緊張してつい奇行に……」
 兄の奇行は今に始まったことではない。
「ねえ、お兄ちゃん。僕のこといっぱい愛してくれる?」
「もちろんだよ」
 ”大好きッ”といって抱きつけば、髪にちゅっと口づけられ、やっとそれらしいムードへと切り替わるのだった。
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