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『猟奇的、美形兄は』

1:兄、変態につき

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 それは、愛都がまだ五歳の時であった。

「まなーお風呂にいこう」
 いつでも兄は愛都と一緒に居たがり、愛都もそれ自体はいやではなかったのだが。
「やああだあああ」
「まな?」
「痛いのやだああ」
 幼稚園にもなるとお風呂でムキムキというのがある。そう、タートルネックにならないようにムキムキするのだ。
(実際にみたことはないが)
「大丈夫、ちょろっと”こんにちは”して、すぐ”またね”すれば大丈夫だよ」
 それを兄がするのである。しかも凄くじいっと見つめて。ド変態だ。



 あの頃のことを思い出し、愛都はため息をついた。
  子供部屋には愛都の写真が所狭しと貼ってあるが、ほぼ肌色だ。
「まなー」
「お兄ちゃん」
 ド変態な兄だが、見た目は美麗であり、文武両道で優秀。なぜド変態に育ったのか謎である。
「学校に送ってやるよ」
 兄は優しいし、カッコいい。変態な部分を除いては自慢だ。もちろん、大好きである。過保護すぎるが。
「スマホに、新しい高性能盗聴器をつけよう」
と、兄。
「え、いらないよ?」
「まなー。お前は可愛いんだから襲われたらどうするんだよ!」
 結局、無理矢理盗聴器をつけられた! これでは、ただのストーカーだ。

「京也! 今日の夕飯何がいい?」
 キッチンに居た母が、兄に夕飯の希望を聞く。
「マンモスの肉」
 兄は真面目な顔をし、愛都の手を取りキッチンの横を通ろうとして、母にスリッパでひっぱたかれる。
「いて」
「何時代だと思ってんの!」
 これはいつものことだ。兄は愛都以外にはまったく興味を示さず、返事が適当である。怒られる兄を尻目に、愛都はくすくす笑いながら玄関に向かったのだった。

「なければ狩ってくれば良かろう!」
「何バカな事いってんのよ」
 兄はどや顔をしたが、二発目を食らう。
「どのみち今日は、愛しいまなの特別な日だから。二人で展望レストランに行ってくるよ」
「あら、そう? じゃあパパとデートしてくるわ」
 母は呑気である。愛都はドキリとした。
「さあ、行こう。まな」

 車は一度、学校より少し手前で停車する。
「まな、おめでとう」
「あ、ありがとう」
 この日愛都は兄と約束していたことがあった。
「まな」
 顎を捉えられじっと見つめられると、ドキドキする。でも前から決まっていたこと。
 今日、自分は兄のものになる。恋人に。
 血の繋がらない兄は十年近くも自分だけを想いつづけ、変態行為を繰り返してきた。

 今夜いよいよ、兄に抱かれるのだ。

──せめて、変態なことが起きませんように!
 愛都は祈りながらファーストキスを捧げた。

「愛都、夜は覚悟しておくんだぞ」
「お手柔らかにお願いします」

 こんな愛都だが中学時代には王子様扱いを受けている。兄には内緒だ。
 車を降り校門へ向かうと、友人が待ち伏せしているのが見えた。彼は変態ではない。
「愛都、おはよう」
「おはよっ」
 眼鏡に黒髪、スラッとした賢そうな雰囲気をもち端整な顔立ちをしている彼は、中学時のクラスメイトであり、クラス委員をしていた。兄が唯一、友人であることを許してくれている相手でもある。
「課題は終わってるのか?」
「うん! お兄ちゃんが見てくれた」
「そうか」
 性格はかたいが、柔らかい表情を浮かべて。
「掲示板をみたら、同じクラスだったぞ。体育館へ向かおう」
「うんッ」
 愛都は早く今日が終わって、兄に逢いたいなと思っていた。

「愛都さまだわ」
 体育館に行くと、中学校で一緒だった先輩や同級生の注目を浴びる。愛都は極上の笑みを浮かべ、可愛らしく手を振って見せる。これは身を守るために覚えた術だ。みんなに注目されていればいるほど、犯罪に巻きこまれもするが、同時に犯罪から身を守れた。

──可愛いんじゃない。
 可愛くしてるんだ!

 中学校の時、愛都は変質者に誘拐されかけた。
 兄の盗聴器のお陰で、最悪の事態は避けることは出来たが。兄は鉄パイプを片手に全力で駆けつけ、犯人をぶっ飛ばし、危うく兄の方が御用になってしまうところだった。
 それは、大好きな兄に迷惑をかけたくない、愛都がそう思うようになったきっかっけであり。決してその後、兄が怒りに任せて鉄パイプを振り回し、廃工場内をめっちゃくちゃにしたからではない。
 それでも飽き足らず、スイカを頭に見立て次々と滅多打ちにしていたのにびびったからでも、家の壁にスプレーで罵詈雑言を書きなぐったからでも、わら人形を作ってお百度参りをしているのみて、チビったからでもなく……ry 。

 兄は怒らせてはいけない。クレイジー過ぎる。
 これは教訓である。

「大丈夫か? 顔が青ざめているが」
 唯一の友人に声を掛けられ、愛都はひきった笑いを浮かべつつ、
「ちょっと昔を思い出して。えへへ」
「まさか虐待されているわけじゃないだろうな」
「まさか! 過保護なくらいだよ」

 お風呂でじっと下半身のチェックをされるのは、性的虐待なのだろうか? と思いつつ。”嫌じゃないしな”と頬を染める。

──早くお兄ちゃんとラブラブしたいなー。

 心は躍る。可愛い愛都であった。
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