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15話 第三の選択【Side:奏斗】
58 救い
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『白石、負けるなよ』
空港で友人の大崎圭一に言われた一言だ。
圭一は十年間も一心に想っていた相手と結ばれた。そんな彼が言う言葉だったからたった一言が重かったし、心にずしりと響いたのだ。
『奏斗くん、一緒に乗り越えようね』
自分が巻き込んでしまった大川結菜は笑顔でそう言った。
彼女は今では大切な親友。花穂が日本を離れている間の二年。なんとしてでも愛美から守らねばならないと誓った。
『色男は大変だねえ』
今回一番尽力してくれたはずの友人の古川悠は、相変わらずのんびりとした口調で。
『その呼び方はやめろって』
奏斗はゲンナリした。
『また僻んでんのか、古川』
圭一も呆れ顔だ。
『本当の試練は帰国してからでしてよ』
護衛という形で奏斗を花穂の元へ連れて行ってくれることになった先輩の【大里愛花】はモデル立ちで奏斗を眺めながら。
確かにその通りだと思う。まだ花穂に託されたことを成していない。奏斗には自分のトラウマの原因と対峙する必要があるのだ。
ずっと考えている。
向き合ってきた。
別れても約束は有効なのかということについて。
高等部時代につき合っていた【美月愛美】は確かに心から愛した相手ではあった。結婚したいくらいに好きだったことも認める。
けれども自分は彼女に理想を押し付けていたに過ぎない。そして理想でいて欲しいと思ってしまっている。
彼女との恋愛のカタチはそれだけでなく、そんな彼女に対しての在り方にも理想があった。彼女だけを一心に愛し、常に誠実でいたいという想いが。
それを壊したのは自分自身。
こんな自分では愛美とは釣り合わないと思っている。
自分を変えたのは【楠花穂】だ。
彼女は何処か掴みどころがなくて、自分に対してどう思っているのかもわからなかった。固定観念や先入観に囚われず、自分を貫く彼女の姿勢は奏斗を魅了したといっても過言ではない。
だが彼女は彼女なりに悩んでもいた。一般的な【女性らしさ】を求められ、合致しなければ期待外れと離れていく男たち。それでいて、自分から別れを切り出せばプライドを傷つけたと恨まれるのだ。
理想を押し付け合わない関係。
個を認め合う関係は奏斗にとっても心地よい関係だった。
だが期間限定のおつき合いは、その期間と共に終わりを告げたのである。花穂の方から近づいてきたのに、あっさりと。
自分ばかりが囚われているのだと思った奏斗はそれが恋だとは気づかづに、心に蓋をした。もう傷つかないように。
「どうしたの?」
瞳を揺らす奏斗を、じっと見つめる綺麗な二つの光。
彼女の瞳の中に映るのが自分だけであれば良いと願う。
全てを差し出した。
自分を曲げても良いと思った。
彼女が傍にいてくれるなら、たとえそれが愛じゃなくても。
ずっと必死だった。
泥沼の中でもがく。
たった一つの光に手を伸ばして。
花穂の言った言葉が脳裏を過る。
『奏斗が初めての相手』
『誰ともしてない』
彼女は知らない。あの時、自分がどんな想いで『俺はしたよ』と投げたのか。
せめて自分が花穂に対して恋をしていることに気づいていたら、こんなに苦しまずに済んだのかもしれないし、苦しませずに済んだのかもしれない。
「どうしてそんな悲しそうな顔をするの?」
問われても答えられない。
「二人で頑張ろうって言ったじゃない。永遠の別れじゃないわ」
「わかってる」
零れた涙。瞬きをすれば、彼女が微笑む。
「わたしたちはたくさん後悔した。でもそれだけじゃなくて、お互いが何を思っていたのかちゃんと伝えあったわ」
素直に気持ちを話すことが難しい時もある。人の心は複雑だから。相手に嫌らわれたくないと思い、口を噤んでしまうこともあるだろう。
「離れていても、いつも心は傍にある。わたしはいつでも奏斗のことを想ってる」
”もう、泣かないで”と花穂に抱きしめられた。
自分でも何がそんなに悲しいのか分からないでいる。
止めどなく溢れる涙。どんな想いを口にしたら、救われるのだろうか。
空港で友人の大崎圭一に言われた一言だ。
圭一は十年間も一心に想っていた相手と結ばれた。そんな彼が言う言葉だったからたった一言が重かったし、心にずしりと響いたのだ。
『奏斗くん、一緒に乗り越えようね』
自分が巻き込んでしまった大川結菜は笑顔でそう言った。
彼女は今では大切な親友。花穂が日本を離れている間の二年。なんとしてでも愛美から守らねばならないと誓った。
『色男は大変だねえ』
今回一番尽力してくれたはずの友人の古川悠は、相変わらずのんびりとした口調で。
『その呼び方はやめろって』
奏斗はゲンナリした。
『また僻んでんのか、古川』
圭一も呆れ顔だ。
『本当の試練は帰国してからでしてよ』
護衛という形で奏斗を花穂の元へ連れて行ってくれることになった先輩の【大里愛花】はモデル立ちで奏斗を眺めながら。
確かにその通りだと思う。まだ花穂に託されたことを成していない。奏斗には自分のトラウマの原因と対峙する必要があるのだ。
ずっと考えている。
向き合ってきた。
別れても約束は有効なのかということについて。
高等部時代につき合っていた【美月愛美】は確かに心から愛した相手ではあった。結婚したいくらいに好きだったことも認める。
けれども自分は彼女に理想を押し付けていたに過ぎない。そして理想でいて欲しいと思ってしまっている。
彼女との恋愛のカタチはそれだけでなく、そんな彼女に対しての在り方にも理想があった。彼女だけを一心に愛し、常に誠実でいたいという想いが。
それを壊したのは自分自身。
こんな自分では愛美とは釣り合わないと思っている。
自分を変えたのは【楠花穂】だ。
彼女は何処か掴みどころがなくて、自分に対してどう思っているのかもわからなかった。固定観念や先入観に囚われず、自分を貫く彼女の姿勢は奏斗を魅了したといっても過言ではない。
だが彼女は彼女なりに悩んでもいた。一般的な【女性らしさ】を求められ、合致しなければ期待外れと離れていく男たち。それでいて、自分から別れを切り出せばプライドを傷つけたと恨まれるのだ。
理想を押し付け合わない関係。
個を認め合う関係は奏斗にとっても心地よい関係だった。
だが期間限定のおつき合いは、その期間と共に終わりを告げたのである。花穂の方から近づいてきたのに、あっさりと。
自分ばかりが囚われているのだと思った奏斗はそれが恋だとは気づかづに、心に蓋をした。もう傷つかないように。
「どうしたの?」
瞳を揺らす奏斗を、じっと見つめる綺麗な二つの光。
彼女の瞳の中に映るのが自分だけであれば良いと願う。
全てを差し出した。
自分を曲げても良いと思った。
彼女が傍にいてくれるなら、たとえそれが愛じゃなくても。
ずっと必死だった。
泥沼の中でもがく。
たった一つの光に手を伸ばして。
花穂の言った言葉が脳裏を過る。
『奏斗が初めての相手』
『誰ともしてない』
彼女は知らない。あの時、自分がどんな想いで『俺はしたよ』と投げたのか。
せめて自分が花穂に対して恋をしていることに気づいていたら、こんなに苦しまずに済んだのかもしれないし、苦しませずに済んだのかもしれない。
「どうしてそんな悲しそうな顔をするの?」
問われても答えられない。
「二人で頑張ろうって言ったじゃない。永遠の別れじゃないわ」
「わかってる」
零れた涙。瞬きをすれば、彼女が微笑む。
「わたしたちはたくさん後悔した。でもそれだけじゃなくて、お互いが何を思っていたのかちゃんと伝えあったわ」
素直に気持ちを話すことが難しい時もある。人の心は複雑だから。相手に嫌らわれたくないと思い、口を噤んでしまうこともあるだろう。
「離れていても、いつも心は傍にある。わたしはいつでも奏斗のことを想ってる」
”もう、泣かないで”と花穂に抱きしめられた。
自分でも何がそんなに悲しいのか分からないでいる。
止めどなく溢れる涙。どんな想いを口にしたら、救われるのだろうか。
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