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15話 第三の選択【Side:奏斗】
57 この手に残ったもの
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あの日、自分は第三の選択をした。
こんな結末になるとは思わずに。
花穂が提示していたとしても、自分はその手を掴んだと思う。
後悔はしていない。この先、どんな試練が待ち受けようとも。
間接照明の淡い光に照らされた花穂の寝顔を眺めながら、その髪を撫でる。恐らく、ここからが二人のスタートなのだろうと思う。
自分はそれに耐えられるだろうか。
いや、失う方がずっと辛い。
久々に熱を分け合い、愛を確かめ合った。
明後日には帰らねばならない。明日はデートでもしようかと提案したが、一日家で一緒にいたいと言われてしまった。残念だが、デートはまたの機会にするしかない。
本来なら今頃日本で同棲しているはずだったのにと思いながら、ソファにかけてあったTシャツに手を伸ばす。片時も離れていたくないのに、また離れ離れだ。シャツに袖を通した奏斗は辛くなって両手で顔を覆う。
まだ自分はマシなのだ。
周りには友人もいる。花穂は日本から遠く離れた土地で二年も学業に励まなければならない。心細いことこの上ないだろう。
彼女と連絡を取るためにSNSのアカウントを取得した。本当なら毎日でも声を聞きたいところだが、生活を疎かにしていては共倒れだ。
「奏斗?」
不意に彼女の手が背中に触れた。
「ごめん、起こした?」
「ううん。泣いてるの?」
「泣きそうだけど」
彼女だって寂しいのを耐えているのに、自分が弱音を吐いてはダメだと思う。だから泣きたいのは山々だが耐えた。
「ねえ、昔話でもしましょうか」
「二千年くらい前の話?」
「生まれてないわよ」
花穂がぺしッと奏斗の背中を叩いて。
つい先日、想いを伝えあって一緒にいる選択をしたばかりだと言うのに。ただ一緒にいたかっただけなのに。
自分が何をしたんだと言いたくなるが、これは自分への罪と罰なのだ。
自分がしたことがこうやって返ってきただけ。
「やっぱり泣いてる」
「大丈夫」
「何が大丈夫なのよ」
たった数か月つきあっただけの相手に恋焦がれ、夢中になった。
そういうことなのだろう。
「愛してるわ。あなたが欲しかったの、どうしても」
「それは、か……」
「違うわよ」
すかさず否定され、再会したばかりの頃のことを思い出す。
──”いつも立ててあげてた”とか言ってなかったか?
「あ、でも……拘束プレイもいいわね」
「なにそれ、されたいの?」
苦笑いをしつつ振り返ると、彼女の手が奏斗の頬に伸びる。
「したいの」
「つまり、俺がされるの……」
なんだかゲンナリした。
どんなに愛していてもやはり奏斗は性的なことが苦手である。別に下手だと言われて自信喪失になっているからとか、行為に嫌悪を感じると言うわけでもなく。動物的な自分に嫌悪があるのだ。
「最近思うんだけど」
引き寄せられて口づける。
「うん?」
その唇の柔らかさに酔っていると、とんでもないことを言われた。
「以前は乗り気じゃないあなたをその気にさせたいなと思っていたのよ。でも最近は乗り気じゃないあなたがたまらないなって」
「は?」
言われている意味が全く分からない。
「いいの、いいの。まだ奏斗には早い話だったわね」
「何がいいんだよ、まったく」
呆れながらベッドに潜り込むと、彼女の指先が奏斗の髪を弄ぶ。
何を想像しているのか、嬉しそうに笑う彼女が愛しい。
「奏斗」
「うん?」
「そっち帰ったら、一緒に暮らしたいわ。今度こそ」
「そうだな」
彼女の言葉に奏斗も笑顔になる。
「二年後だけど、近くなったら物件探しておくよ」
以前の花穂のマンションはとても内装が好みだったなと思いながら。
「それまでは実家?」
「いや、家は出ようと思う」
「何故?」
「花穂との時間作りたいから」
「とか言って」
”浮気したら許さないんだから”と言われ、
「そんなことはしません」
と真面目に答える。
「実は結菜とルームシェアしようと思ってる」
「あの子を守るため?」
花穂の質問に奏斗は小さく数度頷いたのだった。
こんな結末になるとは思わずに。
花穂が提示していたとしても、自分はその手を掴んだと思う。
後悔はしていない。この先、どんな試練が待ち受けようとも。
間接照明の淡い光に照らされた花穂の寝顔を眺めながら、その髪を撫でる。恐らく、ここからが二人のスタートなのだろうと思う。
自分はそれに耐えられるだろうか。
いや、失う方がずっと辛い。
久々に熱を分け合い、愛を確かめ合った。
明後日には帰らねばならない。明日はデートでもしようかと提案したが、一日家で一緒にいたいと言われてしまった。残念だが、デートはまたの機会にするしかない。
本来なら今頃日本で同棲しているはずだったのにと思いながら、ソファにかけてあったTシャツに手を伸ばす。片時も離れていたくないのに、また離れ離れだ。シャツに袖を通した奏斗は辛くなって両手で顔を覆う。
まだ自分はマシなのだ。
周りには友人もいる。花穂は日本から遠く離れた土地で二年も学業に励まなければならない。心細いことこの上ないだろう。
彼女と連絡を取るためにSNSのアカウントを取得した。本当なら毎日でも声を聞きたいところだが、生活を疎かにしていては共倒れだ。
「奏斗?」
不意に彼女の手が背中に触れた。
「ごめん、起こした?」
「ううん。泣いてるの?」
「泣きそうだけど」
彼女だって寂しいのを耐えているのに、自分が弱音を吐いてはダメだと思う。だから泣きたいのは山々だが耐えた。
「ねえ、昔話でもしましょうか」
「二千年くらい前の話?」
「生まれてないわよ」
花穂がぺしッと奏斗の背中を叩いて。
つい先日、想いを伝えあって一緒にいる選択をしたばかりだと言うのに。ただ一緒にいたかっただけなのに。
自分が何をしたんだと言いたくなるが、これは自分への罪と罰なのだ。
自分がしたことがこうやって返ってきただけ。
「やっぱり泣いてる」
「大丈夫」
「何が大丈夫なのよ」
たった数か月つきあっただけの相手に恋焦がれ、夢中になった。
そういうことなのだろう。
「愛してるわ。あなたが欲しかったの、どうしても」
「それは、か……」
「違うわよ」
すかさず否定され、再会したばかりの頃のことを思い出す。
──”いつも立ててあげてた”とか言ってなかったか?
「あ、でも……拘束プレイもいいわね」
「なにそれ、されたいの?」
苦笑いをしつつ振り返ると、彼女の手が奏斗の頬に伸びる。
「したいの」
「つまり、俺がされるの……」
なんだかゲンナリした。
どんなに愛していてもやはり奏斗は性的なことが苦手である。別に下手だと言われて自信喪失になっているからとか、行為に嫌悪を感じると言うわけでもなく。動物的な自分に嫌悪があるのだ。
「最近思うんだけど」
引き寄せられて口づける。
「うん?」
その唇の柔らかさに酔っていると、とんでもないことを言われた。
「以前は乗り気じゃないあなたをその気にさせたいなと思っていたのよ。でも最近は乗り気じゃないあなたがたまらないなって」
「は?」
言われている意味が全く分からない。
「いいの、いいの。まだ奏斗には早い話だったわね」
「何がいいんだよ、まったく」
呆れながらベッドに潜り込むと、彼女の指先が奏斗の髪を弄ぶ。
何を想像しているのか、嬉しそうに笑う彼女が愛しい。
「奏斗」
「うん?」
「そっち帰ったら、一緒に暮らしたいわ。今度こそ」
「そうだな」
彼女の言葉に奏斗も笑顔になる。
「二年後だけど、近くなったら物件探しておくよ」
以前の花穂のマンションはとても内装が好みだったなと思いながら。
「それまでは実家?」
「いや、家は出ようと思う」
「何故?」
「花穂との時間作りたいから」
「とか言って」
”浮気したら許さないんだから”と言われ、
「そんなことはしません」
と真面目に答える。
「実は結菜とルームシェアしようと思ってる」
「あの子を守るため?」
花穂の質問に奏斗は小さく数度頷いたのだった。
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