R18【異性恋愛】第三の選択─Even if it's not love─

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14話 愛美と花穂【Side:花穂】

56 世渡り下手な男

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「いい? このまま何の対策もせずにいたら『三股かけた挙句、本命の女に逃げられたバ……可哀そうな男』って言われるのは目に見えてる」
「なんでバカを可哀そうって言い直したんだ?」
 花穂の咄嗟とっさの気遣いに笑う奏斗。
「べ、別にいいじゃない」
 思わず目を逸らす花穂の頬を撫でる彼。その手は髪を伝い背中にあてられた。ちゅっと髪に口づけられ、花穂は再びその胸に顔を埋める。
「あなた、途轍とてつもなく世渡りが下手なんだもの。上手いこと断ればいいのに、塩だし」
 むぎゅっと抱き着けば、奏斗がため息をつく。

「勝手に見た目だけで理想を押し付けられた挙句、頼んでもないのに好きだと言われて優しく断れと?」
 ”何も喜ぶべきところがないのに、か”と不服そうだ。
「そうだとしても、波風立てないためには必要なことってあるでしょ」
 ”子供じゃないんだから”と続ければ、奏斗は唸った。
 人間とは不思議な生き物で、どんなに相手の人物像を話に聞いていても先入観を持ってしまうものなのだ。

 例えば黒髪なら真面目そう。ふくよかなら優しそう。髪色が明るければチャラそうなど。
 そして真面目そうな人が塩対応だったとしてもイメージに大差はないが、チャラそうな人が塩対応だと思った以上に冷たく感じるものなのだ。
 その先入観は無意識にあるもので、期待があるからこそ余計にダメージは大きい。
 
「人間は視覚から情報を得るものなの。色も識別できるし」
 色からのイメージに関しては国の文化によっても違いはあるだろうが、イメージがあるということ自体はどの国の人にもあると思われる。
「あれだけ噂まみれなのに、それでも『好き』だと言ってくる、よく知らない他人のことが俺には理解できないんだが」
「しょうがないじゃない。それだけあなたは有名なんだもの。K学園では」
 やれやれとため息をつく彼。
 奏斗はK学園であることないこと散々噂されているが、否定するでも肯定するでもなく”どこ吹く風”と言った風だ。それが周りからは余計に格好よく見えるのだろう。

「そもそもなんで否定しないのよ」
「したところで、他人は好き勝手言うものだろ。自分が信じたいことしか信じないんだから」
「それはそうかもしれないけど」
 奏斗の言うことは理解できないでもない。花穂も勝手な噂を流された口だから。元カレに『魔性の女』などと噂を流され、散々嫌な思いをした。
 『魔性の女』という言葉の意味自体にはマイナスイメージはないが、女性はそれを誉め言葉とは思っていない。
 よって誰に言われようとも良くは思わないのだ。
「花穂だって経験があるから俺を守ろうとするんだろ」
「そうね」

 奏斗は諦めているだけで、傷ついていないわけではない。
 それは自分と同じ。
 そして互いが必要だから惹きあったと言っても過言ではないと思う。

「ねえ、奏斗」
「うん?」
 自分たちは他人が勝手に用意した試練の前にいる。
 それを跳ねのけて駆け落ちするほど非現実的にはなれない。
「二年、耐えられる?」
「長期休みには会いに来るよ」
 それは耐えられないという意味であり、それでも耐えようという意思表示なのだろうと思った。
「俺が会いに来る分には何の問題もないんだろ?」
「そうだけど」
 ”大変じゃない?”と問えば、愛花たちが協力してくれるからと言う。

「それよりも、巻き込んでごめん」
「それはいいわ。奏斗が海外にやられるよりも、よっぽどいいから」
 愛美に拉致され海外に連れていかれることを想像するとぞっとする。そうなってしまってはどうにもならなかったかも知れない。
「一つ、良い知らせがあるの」
「何?」
 確かに原因を作ったのは奏斗だ。しかしこうなることを承諾したのは父。
「パパがね、わたしたちの結婚を許してくれるって」
「え」
 あの日、花穂は父と交渉をした。
 父の命《めい》に従い、美月の条件を呑む代わりに奏斗と結婚させて欲しいと。元々反対をするつもりはなかったようだが、父は快く承諾した。
「何、脅したの?」
「やーね。人聞きの悪いこと言わないの」
 花穂がニコッと笑って見せると、奏斗は眉を寄せ困った表情をしたのだった。
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