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12話 向き合うべきもの【Side:花穂】
47 義弟の協力
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「それで」
義弟の和馬は一呼吸置き、改めて花穂に向き直る。
「それで?」
思わず聞き返してしまった花穂。
「本題はそこではないんでしょ? 義姉さんは、わざわざ奏斗のことが好きなんだと告げるためだけに俺を引きとめたの?」
彼の言葉に花穂は慌てる。
「ええ。違うわ」
”実は頼みがあってきたの”と告げれば、笑っていた彼が姿勢を正した。花穂が彼に頼み事するのは初めてのこと。話の流れからシリアスな内容だと察したのだろう。それならば話は早いと花穂は思った。
「そういうことになってるの」
花穂が現在の状況について話すと、和馬は顎に手をやって考え込む素振りを見せる。
「まずは、おめでとうと言うべきかな」
花穂が奏斗とお付き合いしているということに対して祝福の言葉を述べる彼。まさかそんな日が来るとは思わなかったので言葉に詰まった。
「それから、義姉さんの頼みについては奏斗と話が出来ないとどうにもできないと思う。俺は断るつもりはないけれどね」
「それは確かにそうよね。話す機会は作るつもりでいるわ。奏斗もいづれ話をすべきだと思っているみたいだし」
「そっか」
力なく笑う彼は、奏斗の気持ちを想像しているのだろう。
「和馬はどうなりたいと思っているの?」
「友達かな。友達に戻れたらいいなと思っている。もちろん、あのことは謝罪もしたいし」
”もっとも、謝って許されるようなことではないけれど”と彼は付け加えて。
奏斗に植え付けてしまった恐怖。それが二人を阻んでいることは確かだった。とても仲が良かった二人に亀裂が生じるようなきっかけを与えてしまったのは自分。
そしてそれは”美月愛美”にとっても。
──わたしが余計なことをしなければ、奏斗は”美月愛美”とヨリを戻せたに違いない。彼女が恨んでいるのはわたしだけではないだろうけれど。
彼女の恨みは間もなく義弟や義弟の恋人である岸倉にも向くだろう。奏斗の価値観を変えてしまうことがなければ二人はヨリを戻せたはずなのだから。
それでも花穂は後悔していなかった。奏斗の心を自分に向けることができたことに関しては。
人の縁は不思議なものだし、奇跡でできていると思っている。
価値観の合う人を探すのは難しいし、何よりも価値観が合わなくても一緒にいて楽な相手というのは稀だ。
探せばいい人はたくさんいると人は言うだろう。
けれども、その良い人とは何を指すのだろうか?
自分に都合の良い人?
それとも倫理道徳観がしっかりしている常識人?
価値観は人それぞれ違う。全く同じ人なんて存在しない。人はそれぞれ好悪も違うし、趣味だって違う。心地よいと思う音だって違うし、好きな色だって違う。そんな風に自分と異なる人だから惹かれるのであって、仮に全く自分と同じクローンのような存在を愛せるだろうか?
もちろんナルシストならば可能性はあるかもしれないが、ナルシストは自分が好きなのであって、コピーが好きなわけではないだろう。
自分とは違うけれど許せる部分、気にならない部分であるから一緒にいられるのだと思う。
花穂にとっては”一般的な思想に基づいた女性像”もしくは”男性の理想的な自己都合による女性像”を押し付けず、一緒にいて心地よい相手は奏斗だけだった。
同じ相手であっても、他の人にとってそうとは限らない。だから合う人はなかなかいないのだと思う。
「近いうちにまた連絡するわね」
「今度は直接連絡してよ」
義母を通して彼に連絡したのは、なにも連絡先を知らなかったからではない。気まずかったからだ。
「ええ、それはもちろん」
気まずさが解消された今、義母に頼る必要はないだろう。
「そうだ、これも渡しておいてくれない?」
”義姉さんが来るといっていたから”と言いながら封筒を差し出す彼。
「K学で義姉さんと奏斗が一緒にいるって噂はよく聞くし、だったら渡してもらえるかなと思ってさ」
それは奏斗への手紙であった。
”一緒に読んでも良いよ”というその手紙を花穂はしっかりと受け取ったのだった。
義弟の和馬は一呼吸置き、改めて花穂に向き直る。
「それで?」
思わず聞き返してしまった花穂。
「本題はそこではないんでしょ? 義姉さんは、わざわざ奏斗のことが好きなんだと告げるためだけに俺を引きとめたの?」
彼の言葉に花穂は慌てる。
「ええ。違うわ」
”実は頼みがあってきたの”と告げれば、笑っていた彼が姿勢を正した。花穂が彼に頼み事するのは初めてのこと。話の流れからシリアスな内容だと察したのだろう。それならば話は早いと花穂は思った。
「そういうことになってるの」
花穂が現在の状況について話すと、和馬は顎に手をやって考え込む素振りを見せる。
「まずは、おめでとうと言うべきかな」
花穂が奏斗とお付き合いしているということに対して祝福の言葉を述べる彼。まさかそんな日が来るとは思わなかったので言葉に詰まった。
「それから、義姉さんの頼みについては奏斗と話が出来ないとどうにもできないと思う。俺は断るつもりはないけれどね」
「それは確かにそうよね。話す機会は作るつもりでいるわ。奏斗もいづれ話をすべきだと思っているみたいだし」
「そっか」
力なく笑う彼は、奏斗の気持ちを想像しているのだろう。
「和馬はどうなりたいと思っているの?」
「友達かな。友達に戻れたらいいなと思っている。もちろん、あのことは謝罪もしたいし」
”もっとも、謝って許されるようなことではないけれど”と彼は付け加えて。
奏斗に植え付けてしまった恐怖。それが二人を阻んでいることは確かだった。とても仲が良かった二人に亀裂が生じるようなきっかけを与えてしまったのは自分。
そしてそれは”美月愛美”にとっても。
──わたしが余計なことをしなければ、奏斗は”美月愛美”とヨリを戻せたに違いない。彼女が恨んでいるのはわたしだけではないだろうけれど。
彼女の恨みは間もなく義弟や義弟の恋人である岸倉にも向くだろう。奏斗の価値観を変えてしまうことがなければ二人はヨリを戻せたはずなのだから。
それでも花穂は後悔していなかった。奏斗の心を自分に向けることができたことに関しては。
人の縁は不思議なものだし、奇跡でできていると思っている。
価値観の合う人を探すのは難しいし、何よりも価値観が合わなくても一緒にいて楽な相手というのは稀だ。
探せばいい人はたくさんいると人は言うだろう。
けれども、その良い人とは何を指すのだろうか?
自分に都合の良い人?
それとも倫理道徳観がしっかりしている常識人?
価値観は人それぞれ違う。全く同じ人なんて存在しない。人はそれぞれ好悪も違うし、趣味だって違う。心地よいと思う音だって違うし、好きな色だって違う。そんな風に自分と異なる人だから惹かれるのであって、仮に全く自分と同じクローンのような存在を愛せるだろうか?
もちろんナルシストならば可能性はあるかもしれないが、ナルシストは自分が好きなのであって、コピーが好きなわけではないだろう。
自分とは違うけれど許せる部分、気にならない部分であるから一緒にいられるのだと思う。
花穂にとっては”一般的な思想に基づいた女性像”もしくは”男性の理想的な自己都合による女性像”を押し付けず、一緒にいて心地よい相手は奏斗だけだった。
同じ相手であっても、他の人にとってそうとは限らない。だから合う人はなかなかいないのだと思う。
「近いうちにまた連絡するわね」
「今度は直接連絡してよ」
義母を通して彼に連絡したのは、なにも連絡先を知らなかったからではない。気まずかったからだ。
「ええ、それはもちろん」
気まずさが解消された今、義母に頼る必要はないだろう。
「そうだ、これも渡しておいてくれない?」
”義姉さんが来るといっていたから”と言いながら封筒を差し出す彼。
「K学で義姉さんと奏斗が一緒にいるって噂はよく聞くし、だったら渡してもらえるかなと思ってさ」
それは奏斗への手紙であった。
”一緒に読んでも良いよ”というその手紙を花穂はしっかりと受け取ったのだった。
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