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12話 向き合うべきもの【Side:花穂】
46 あの日の想いと義弟
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「これ、奏斗に渡しておいてくれない?」
しばしの沈黙の後、義弟の和馬はCDのケースを差し出しながらそう言った。
「最近、義姉さんが奏斗と一緒にいるという噂をよく聞くから」
”有名人は大変だね”と言われ、花穂は複雑な心境になる。
だが、戸惑っている場合ではなかった。これはチャンス。
「和馬、わたし……」
あの頃の真実を話そうとして言葉に詰まる。涙が溢れそうになる花穂に向けて彼が傍らに立ててあった折り畳みの椅子を一脚拡げて座るように促す。
「ゆっくり話そうよ、義姉さん」
言葉に詰まりながらも、後悔について話し始める花穂を優しい音楽が包む。
「わたし、本当はあの頃よりもずっと前から奏斗のことが好きだったの」
会ったこともない。話したこともない写真の中の彼。噂に興味を持ち、気づけばいつの間にかどうにもならないほど彼にのめり込んでいたと思う。
「そっか。義姉さんが奏斗に気があることは、なんとなく気づいてたよ」
「そうなの」
気づかれていないとは思っていなかったし、それなら彼が奏斗へしたことも納得がいくと思った。
「俺も謝らないといけないね」
穏やかだが先ほどから沈んでいるように感じるのは彼が抱えている気持ちのせいなのだろうか。
「俺は義姉さんの悪い噂を真に受けて信じてた」
”バカだよね”と自嘲気味に笑う彼。
確かにあの頃の花穂には悪い噂があった。
”男をとっかえひっかえしているという噂”が。
だがそれは100%嘘というわけではなかった。合わなければ別れて次の人とつき合っていたのは事実。単にそこに身体の関係がなかったというだけ。
それは自衛のためでもあったが、周りからは男好きのように思われても仕方がない。否定しなかったのは半分が事実だったから。どの道否定しようが、噂を流してるのは元恋人なのだから収拾がつかない。
そう思って花穂は放っておく選択をした。
「あの日、俺は奏斗に義姉さんを諦めさせるつもりでいた」
「諦めさせる?」
「そう。だって奏斗は義姉さんを特別に思っていたから」
奏斗自身さえ気づいていなかった気持ちに彼は気づいていたと言うのだろうか?
「他に好きな人が出来るのは仕方ないことだよ。人の気持ちは変わる。努力だけではどうにもならないのが恋愛だと思っているし」
”けれども”と彼は続ける。
「義姉さんだけはだめだと思った。また奏斗が傷つくから」
奏斗が派手なのは見た目だけだということは、彼と話しているうちに理解した。奏斗は純情で一途。恋愛において、相手に対し責任も感じてしまう人。
「もちろんも嫉妬もあったとは思う。どう転んでも俺は男で義姉さんは女だ。その事実は変えられないし、奏斗の以前の恋人は女性なんだから何れ女性に惹かれてしまうかもしれないとは思ってたよ」
和馬の言葉に花穂は小さくため息をつく。
いろんな心のすれ違いから起きたあの事件。それは奏斗を深く傷つけた。
その証拠に、花穂とヨリを戻すまで”いつかは和馬のところへ戻るべき”だと思っていたのだ。あんなことがあったにも関わらずに、花穂も奏斗が戻ると思っていたのは、その性格と思想のせい。
「奏斗は、男とか女とかそういうものを基準に人を好きになる人ではないと思うの」
奏斗本人ですら異性愛者だと思っていたのは、”たまたま”好きになった相手が女性だったから。その後、男である義弟の和馬に惹かれたというのであれば異性愛者ではなかったのだろう。
「そうだね」
心と本能は別。
純粋な異性愛者なんてほんの一握りだと思う。
男女は身体に役割の違う特徴があり、社会の構成によっては考え方が合わない生き物だと思っている。だから、異性よりも同じフィールドにいる同性の方が話や考えが合うのは当然だと思えた。
そもそも男性の望む異性像も女性の望む異性像も”自分に都合のいい人間”でしかない。人は自分のために生きているのだから、それは当たり前に思えた。
しばしの沈黙の後、義弟の和馬はCDのケースを差し出しながらそう言った。
「最近、義姉さんが奏斗と一緒にいるという噂をよく聞くから」
”有名人は大変だね”と言われ、花穂は複雑な心境になる。
だが、戸惑っている場合ではなかった。これはチャンス。
「和馬、わたし……」
あの頃の真実を話そうとして言葉に詰まる。涙が溢れそうになる花穂に向けて彼が傍らに立ててあった折り畳みの椅子を一脚拡げて座るように促す。
「ゆっくり話そうよ、義姉さん」
言葉に詰まりながらも、後悔について話し始める花穂を優しい音楽が包む。
「わたし、本当はあの頃よりもずっと前から奏斗のことが好きだったの」
会ったこともない。話したこともない写真の中の彼。噂に興味を持ち、気づけばいつの間にかどうにもならないほど彼にのめり込んでいたと思う。
「そっか。義姉さんが奏斗に気があることは、なんとなく気づいてたよ」
「そうなの」
気づかれていないとは思っていなかったし、それなら彼が奏斗へしたことも納得がいくと思った。
「俺も謝らないといけないね」
穏やかだが先ほどから沈んでいるように感じるのは彼が抱えている気持ちのせいなのだろうか。
「俺は義姉さんの悪い噂を真に受けて信じてた」
”バカだよね”と自嘲気味に笑う彼。
確かにあの頃の花穂には悪い噂があった。
”男をとっかえひっかえしているという噂”が。
だがそれは100%嘘というわけではなかった。合わなければ別れて次の人とつき合っていたのは事実。単にそこに身体の関係がなかったというだけ。
それは自衛のためでもあったが、周りからは男好きのように思われても仕方がない。否定しなかったのは半分が事実だったから。どの道否定しようが、噂を流してるのは元恋人なのだから収拾がつかない。
そう思って花穂は放っておく選択をした。
「あの日、俺は奏斗に義姉さんを諦めさせるつもりでいた」
「諦めさせる?」
「そう。だって奏斗は義姉さんを特別に思っていたから」
奏斗自身さえ気づいていなかった気持ちに彼は気づいていたと言うのだろうか?
「他に好きな人が出来るのは仕方ないことだよ。人の気持ちは変わる。努力だけではどうにもならないのが恋愛だと思っているし」
”けれども”と彼は続ける。
「義姉さんだけはだめだと思った。また奏斗が傷つくから」
奏斗が派手なのは見た目だけだということは、彼と話しているうちに理解した。奏斗は純情で一途。恋愛において、相手に対し責任も感じてしまう人。
「もちろんも嫉妬もあったとは思う。どう転んでも俺は男で義姉さんは女だ。その事実は変えられないし、奏斗の以前の恋人は女性なんだから何れ女性に惹かれてしまうかもしれないとは思ってたよ」
和馬の言葉に花穂は小さくため息をつく。
いろんな心のすれ違いから起きたあの事件。それは奏斗を深く傷つけた。
その証拠に、花穂とヨリを戻すまで”いつかは和馬のところへ戻るべき”だと思っていたのだ。あんなことがあったにも関わらずに、花穂も奏斗が戻ると思っていたのは、その性格と思想のせい。
「奏斗は、男とか女とかそういうものを基準に人を好きになる人ではないと思うの」
奏斗本人ですら異性愛者だと思っていたのは、”たまたま”好きになった相手が女性だったから。その後、男である義弟の和馬に惹かれたというのであれば異性愛者ではなかったのだろう。
「そうだね」
心と本能は別。
純粋な異性愛者なんてほんの一握りだと思う。
男女は身体に役割の違う特徴があり、社会の構成によっては考え方が合わない生き物だと思っている。だから、異性よりも同じフィールドにいる同性の方が話や考えが合うのは当然だと思えた。
そもそも男性の望む異性像も女性の望む異性像も”自分に都合のいい人間”でしかない。人は自分のために生きているのだから、それは当たり前に思えた。
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