61 / 77
11.5話 求め合う夜に【Side:花穂】
4 欲情という名の罪悪感を抱いて
しおりを挟む
「んん……ッ」
彼を奥に感じながらも、脳裏に過るのはあの日の事。
場所が良くないのか今日はいつにも増して思い出してしまうようだ。
あの日、花穂の目の前で奏斗は和馬に凌辱された。そんな中、確かに自分は欲情していたのだ。
そんな自分に対し、どうかしていると感じたもののその衝動を止めることはできなかったのである。
──わたしは奏斗としか、こういうことはしたことはないけれど。あの日が一番感じていたと思う。
どんなに世界が変わって社会が変わろうが。
意識改革が行われ、教育が変わろうが。
やはりこの社会に男女の格差は根付いている。
見た目や肉体的な構造が違う限り、どんなに環境や周りが男女平等としても根底は変わらない。一定数以上、”らしさ”を押し付ける人はいる。また、無意識にそうしている人もいるだろう。
だが内なる中にも劣等感というものは存在する。
どちらかと言えばそちらの方が厄介なのかもしれない。
──わたしは男には力では敵わない。
だから、和馬が羨ましかったのかも。
あの時の奏斗には恐怖と羞恥しかなかったかもしれないが、自分もあんな風に彼を欲情させ、善がらすことがことが出来たなら。
今でも時折、そんなことを考えてしまうのだ。
女性が男性に対しそんなことを思うのはやはり異常なのだろうか?
しかし仮に異常だったとしても、これが自分なのだ。そんな自分と向き合い、これからもつき合っていかねばならない。
──こんな気持ちになるのは奏斗に対してだけなの。
好きだからなのか……それとも奏斗にはそんなことを思わせる何かがあるのか。
「良くないの?」
「いいわ。とても」
集中していないことが感じ取れたのか、彼がそう問う。
彼は花穂のせいで自信を失ったと言っていたことを思い出す。安心させようと彼の頬を撫でれば、その手を握り込まれてしまう。
「何か別のこと考えてる?」
「別? どうかしら。少なくとも今わたしは、あなたのことを考えているわ」
花穂の言葉に奏斗は困ったように眉を寄せ、苦笑いをした。
それは一体どういう反応なのだろうか。
「あなたはとても不思議な人だと思うわ」
「不思議?」
「そう。自信家に見えて全くそんなことはないし、人から好かれることを自覚してはいても、それに対して嬉しいとは感じていない」
「他人は表面だけを見て人を評価しがちだ。そんなもの、嬉しくないだろ」
世の中には人から好かれたい、モテたいという人は数多くいる。
しかしそれは承認欲求を満たしたいという想いから来るモノかもしれないとも思う。そもそもモテる人はモテたいとは思わないものだし、モテたいと思う人は他人からどう思われるか考えるし研究もするだろう。
「俺が自信を無くしたのは、花穂が原因だってば」
「聞いたわ」
自分から近づいてきて、肉体関係になっても『好き』の一言も漏らすことなく、契約の時が来れば簡単に離れる。
つき合っている間は割と頻繁に会っていたにも関わらず。
女性から求められれば、自分は好かれているのではないかと感じてもおかしくはない。相手が男性であればただの身体目的であっても不思議はないが。
男女にはやはり思想の違いは存在する。
もちろん女性の全てが好意から性行為を求めるとは限らなくても。
「奏斗だって好きとは言わなかったわ」
「それは……」
きっと自分の気持ちに気づかないうちに終わりを告げたに違いない。
「意地悪だな」
気落ちした表情でスッと視線を逸らす彼の頬を両手で包み込むと花穂はその唇を奪う。
「わたしのこと大好きなのね」
「うん」
小さなことで一喜一憂する奏斗を愛しいと思う。
彼の全てが欲しかった。その心を自分だけのものにしておけたならどんなにいいだろうと思ったのだ。
そして今、欲しかったモノがここにある。
「わたしも、あなたのことが大好きなのよ」
背中に腕を回し優しく抱きしめると、彼がふふっと嬉しそうに笑ったのだった。
彼を奥に感じながらも、脳裏に過るのはあの日の事。
場所が良くないのか今日はいつにも増して思い出してしまうようだ。
あの日、花穂の目の前で奏斗は和馬に凌辱された。そんな中、確かに自分は欲情していたのだ。
そんな自分に対し、どうかしていると感じたもののその衝動を止めることはできなかったのである。
──わたしは奏斗としか、こういうことはしたことはないけれど。あの日が一番感じていたと思う。
どんなに世界が変わって社会が変わろうが。
意識改革が行われ、教育が変わろうが。
やはりこの社会に男女の格差は根付いている。
見た目や肉体的な構造が違う限り、どんなに環境や周りが男女平等としても根底は変わらない。一定数以上、”らしさ”を押し付ける人はいる。また、無意識にそうしている人もいるだろう。
だが内なる中にも劣等感というものは存在する。
どちらかと言えばそちらの方が厄介なのかもしれない。
──わたしは男には力では敵わない。
だから、和馬が羨ましかったのかも。
あの時の奏斗には恐怖と羞恥しかなかったかもしれないが、自分もあんな風に彼を欲情させ、善がらすことがことが出来たなら。
今でも時折、そんなことを考えてしまうのだ。
女性が男性に対しそんなことを思うのはやはり異常なのだろうか?
しかし仮に異常だったとしても、これが自分なのだ。そんな自分と向き合い、これからもつき合っていかねばならない。
──こんな気持ちになるのは奏斗に対してだけなの。
好きだからなのか……それとも奏斗にはそんなことを思わせる何かがあるのか。
「良くないの?」
「いいわ。とても」
集中していないことが感じ取れたのか、彼がそう問う。
彼は花穂のせいで自信を失ったと言っていたことを思い出す。安心させようと彼の頬を撫でれば、その手を握り込まれてしまう。
「何か別のこと考えてる?」
「別? どうかしら。少なくとも今わたしは、あなたのことを考えているわ」
花穂の言葉に奏斗は困ったように眉を寄せ、苦笑いをした。
それは一体どういう反応なのだろうか。
「あなたはとても不思議な人だと思うわ」
「不思議?」
「そう。自信家に見えて全くそんなことはないし、人から好かれることを自覚してはいても、それに対して嬉しいとは感じていない」
「他人は表面だけを見て人を評価しがちだ。そんなもの、嬉しくないだろ」
世の中には人から好かれたい、モテたいという人は数多くいる。
しかしそれは承認欲求を満たしたいという想いから来るモノかもしれないとも思う。そもそもモテる人はモテたいとは思わないものだし、モテたいと思う人は他人からどう思われるか考えるし研究もするだろう。
「俺が自信を無くしたのは、花穂が原因だってば」
「聞いたわ」
自分から近づいてきて、肉体関係になっても『好き』の一言も漏らすことなく、契約の時が来れば簡単に離れる。
つき合っている間は割と頻繁に会っていたにも関わらず。
女性から求められれば、自分は好かれているのではないかと感じてもおかしくはない。相手が男性であればただの身体目的であっても不思議はないが。
男女にはやはり思想の違いは存在する。
もちろん女性の全てが好意から性行為を求めるとは限らなくても。
「奏斗だって好きとは言わなかったわ」
「それは……」
きっと自分の気持ちに気づかないうちに終わりを告げたに違いない。
「意地悪だな」
気落ちした表情でスッと視線を逸らす彼の頬を両手で包み込むと花穂はその唇を奪う。
「わたしのこと大好きなのね」
「うん」
小さなことで一喜一憂する奏斗を愛しいと思う。
彼の全てが欲しかった。その心を自分だけのものにしておけたならどんなにいいだろうと思ったのだ。
そして今、欲しかったモノがここにある。
「わたしも、あなたのことが大好きなのよ」
背中に腕を回し優しく抱きしめると、彼がふふっと嬉しそうに笑ったのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる