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11.5話 求め合う夜に【Side:花穂】
2 これからの二人のために
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この場所は二人にとってとても深い意味のある場所だと思う。
彼にとっては決して思い出したくない出来事を含んでいたとしても。
そしてまた乗り越えなければいけない壁が立ちはだかっているとしても。
これが終わりではなくスタート地点になればいいなと花穂は思った。
人と他の生き物の違いが何であるかと問われたらきっと、『心』の有無であり、そこから何かを生み出す力だと答えるだろう。
自分はあの日以前よりも彼のことが好きだった。そのことが引き金となってあんな事件が起きてしまったのだ。
今回もきっと自分が原因。それでも彼は自分を選んでくれる。
素肌で抱き合い、その背中に腕を回しながら花穂は奏斗に問う。
「後悔してる?」
と。
「何を?」
「そうね。あの頃のこと」
奏斗は当時、花穂の義弟とつき合っていた。言葉にはしなかったものの脅して自分と二股をかけさせたようなもの。それは秘密にしていたはずだったが、義弟には何か思うところがあったのだろう。
当時の奏斗が花穂に対し、気があったとは思えない。だから義弟は花穂に奏斗を諦めさせるためにしたことだったのだと解釈してはいるが。
あんなやり方は間違っている。現にあれから二人が一緒にいるところを見かけたことがないのだから。
思い出さないようにしてきたことだ。それは彼を傷つけることだから。
それでも今、その傷に触れようとしているのは『過去を乗り越えたいから』だ。
「後悔はしてないよ」
少し間があった後に穏やかな声で。
「でも、あれからずっと和馬のこと避けてるんでしょ?」
和馬とは花穂の義弟のこと。
二年も前のことなのに未だに引きづっているのだとするなら、後悔していてもおかしくないと思った。もっとも、誰であってもトラウマになるとは思うが。
「そりゃ……まあ。花穂でも怖いだろ?」
奏斗の言葉に曖昧に頷く花穂。
義弟が彼にしたことを思い起こす。
義弟は花穂の前で奏斗を凌辱したのだ。
自分がされたのであれば確かに恐怖しかないだろう。しかしあの時の自分にはそれ以外の感情も確かに存在していた。だからこの場所で彼を慰めたのだ。その記憶を塗り替えるために。
──わたしがこの関係を素直に喜べないのは、純粋な関係ではなかったからかもしれない。
「今でも逢うのは怖い?」
もし自分に何かあったら義弟に頼ることになるだろう。それを思うと今のままでは不都合だ。
「一度ちゃんと話すべきだとは思っている」
「そうなの」
恋人とは信頼関係で成り立ってるものだと思う。その信頼していた相手に他の人の前で襲われたのだ。それでも向き合うべきだと思っている彼は凄いなと感じた。
──二人は仲が良かったと思う。和馬に他に相手がいても。
もし和馬が二股をかけていなければ諦めていたのかしら、わたしは。
自問自答してみるが、その選択肢はないように思う。
人は自分に無いものを求めながら、自分の価値観に合わないモノを否定し排除する生き物なのだ。らしさを押し付けられる苦しさを知りながら、他人にはらしさを押し付ける。
──肯定することは、否定することの何倍も難しいこと。
愛がなくてもいい。
ほんの一時でもいい。
どうしてもつき合ってみたいと思ったのは奏斗が初めてだった。
「ねえ、奏斗」
「うん?」
「この先。もし何かあったら和馬を頼らざるを得ない状況になると思うの」
このまま何も起きなければいいと願ってはいるが、美月愛美はそれを許さないだろう。
「難しいとは思うのだけれど、連絡くらいできる仲になってくれたら助かるわ」
「善処するよ」
彼の手が優しく花穂の頬を撫でる。
「いずれ家族になるのだろうし」
「え?」
愁いを含んだ奏斗の瞳が細められた。その笑顔にドキリとする。
「なんだよ。結婚してくれるっていったじゃん」
その笑顔をじっと見つめていると、彼は少し拗ねた口調で。
それがあまりにも可愛かったので花穂はふっと笑うと彼に口づけたのだった。
彼にとっては決して思い出したくない出来事を含んでいたとしても。
そしてまた乗り越えなければいけない壁が立ちはだかっているとしても。
これが終わりではなくスタート地点になればいいなと花穂は思った。
人と他の生き物の違いが何であるかと問われたらきっと、『心』の有無であり、そこから何かを生み出す力だと答えるだろう。
自分はあの日以前よりも彼のことが好きだった。そのことが引き金となってあんな事件が起きてしまったのだ。
今回もきっと自分が原因。それでも彼は自分を選んでくれる。
素肌で抱き合い、その背中に腕を回しながら花穂は奏斗に問う。
「後悔してる?」
と。
「何を?」
「そうね。あの頃のこと」
奏斗は当時、花穂の義弟とつき合っていた。言葉にはしなかったものの脅して自分と二股をかけさせたようなもの。それは秘密にしていたはずだったが、義弟には何か思うところがあったのだろう。
当時の奏斗が花穂に対し、気があったとは思えない。だから義弟は花穂に奏斗を諦めさせるためにしたことだったのだと解釈してはいるが。
あんなやり方は間違っている。現にあれから二人が一緒にいるところを見かけたことがないのだから。
思い出さないようにしてきたことだ。それは彼を傷つけることだから。
それでも今、その傷に触れようとしているのは『過去を乗り越えたいから』だ。
「後悔はしてないよ」
少し間があった後に穏やかな声で。
「でも、あれからずっと和馬のこと避けてるんでしょ?」
和馬とは花穂の義弟のこと。
二年も前のことなのに未だに引きづっているのだとするなら、後悔していてもおかしくないと思った。もっとも、誰であってもトラウマになるとは思うが。
「そりゃ……まあ。花穂でも怖いだろ?」
奏斗の言葉に曖昧に頷く花穂。
義弟が彼にしたことを思い起こす。
義弟は花穂の前で奏斗を凌辱したのだ。
自分がされたのであれば確かに恐怖しかないだろう。しかしあの時の自分にはそれ以外の感情も確かに存在していた。だからこの場所で彼を慰めたのだ。その記憶を塗り替えるために。
──わたしがこの関係を素直に喜べないのは、純粋な関係ではなかったからかもしれない。
「今でも逢うのは怖い?」
もし自分に何かあったら義弟に頼ることになるだろう。それを思うと今のままでは不都合だ。
「一度ちゃんと話すべきだとは思っている」
「そうなの」
恋人とは信頼関係で成り立ってるものだと思う。その信頼していた相手に他の人の前で襲われたのだ。それでも向き合うべきだと思っている彼は凄いなと感じた。
──二人は仲が良かったと思う。和馬に他に相手がいても。
もし和馬が二股をかけていなければ諦めていたのかしら、わたしは。
自問自答してみるが、その選択肢はないように思う。
人は自分に無いものを求めながら、自分の価値観に合わないモノを否定し排除する生き物なのだ。らしさを押し付けられる苦しさを知りながら、他人にはらしさを押し付ける。
──肯定することは、否定することの何倍も難しいこと。
愛がなくてもいい。
ほんの一時でもいい。
どうしてもつき合ってみたいと思ったのは奏斗が初めてだった。
「ねえ、奏斗」
「うん?」
「この先。もし何かあったら和馬を頼らざるを得ない状況になると思うの」
このまま何も起きなければいいと願ってはいるが、美月愛美はそれを許さないだろう。
「難しいとは思うのだけれど、連絡くらいできる仲になってくれたら助かるわ」
「善処するよ」
彼の手が優しく花穂の頬を撫でる。
「いずれ家族になるのだろうし」
「え?」
愁いを含んだ奏斗の瞳が細められた。その笑顔にドキリとする。
「なんだよ。結婚してくれるっていったじゃん」
その笑顔をじっと見つめていると、彼は少し拗ねた口調で。
それがあまりにも可愛かったので花穂はふっと笑うと彼に口づけたのだった。
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