R18【異性恋愛】第三の選択─Even if it's not love─

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11.5話 求め合う夜に【Side:花穂】

1 大切にしたいもの

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「人は安全のために自由を奪われる」
「そうだな」
 嵌め殺しの大きな窓から夜景を眺めながら。
 もし、この窓の向こう側に行くことが出来たならもっとロマンチックだろうと思う。
 だがホテルは落下防止などの理由からベランダなどに出られなかったり窓が開けられないことが多い。
「酔っ払って落下したら大惨事だしな」
 花穂の気持ちを汲み取って奏斗がそう言葉を添える。
「結局、ドラマチックでロマンチックな展開も演出も映画やドラマの中だけ。現実にはこうやって弊害が立ちはだかる」
「そんなに不満?」
 彼にそう問われ、
「だって、こんなに夜景が綺麗なのよ?」
と花穂は手のひらを上に向け人差し指を軽く窓の外へ向けた。

「日本という国は、至れり尽せりの国だからね」
 ”そうなった要因は”と彼は続ける。
「自己責任があってないようなものだからだと思う。例えばここにベランダやバルコニーがあって外に出られたとする。落下したら本人の責任。でも実際は出れるようにしていたホテル側が責められるわけだろう?」
 そう、どんなことも自己責任なはずなのにそれを他人に押し付けるような人間たちが人から選択の自由を奪ってきた。
 その結果、日本人は後退したと言っても過言ではない。自分で考えない、楽することばかり考える人が増えた。それでどうなったかというと社会格差が広がったのだ。
 考える者は上に行きやすくなったとも言える。

「世の中を変えるのは利口なやつじゃない。馬鹿にまともな奴らが虐げられるんだよ」
「そうね」
 他人の迷惑を考えない、社会に出たら自己責任であるということを理解できない頭の足りない奴らが人々から自由を奪うのだ。
「何が危ないのかわからない人たちが増えたのは確かよね」
「楽というのは本来、時間を作るために存在するはずなんだ。それを何もしたくない人たちが求める。その楽からは何も生まれない」
 苦労があるから楽が分かる。比べるべきものがなければ楽なこともわからないだろう。ひらめくこともないはずだ。
 考えることをやめた人間に何も生み出す力はない。だから何も得られない。
 自分が成功しないのは、人間であることをやめたから。
 誰のせいでもない、怠慢な自分のせい。

「便利とは不自由を指すのね」
 花穂は窓に手をあてて。
「日本は安全で親切で不自由な国なんだよ」
 そんな花穂を後ろから優しく抱きしめる奏斗。
「レトルトはレンチンできるし、缶詰は缶切りが要らないし。封を切るにもハサミを使う必要がないものね」
 便利だから道具すら要らない。
 料理をしなくても食べることはできる。
「そんなに何かに頼ってばかりだから、脳がツルツルになって簡単に詐欺に引っかかる人ばかりなんだわ」
と花穂はため息をつく。

 道具の使い方を知らない現代人。
 文明についていけない年寄り。
 しかし、どんな時代にもついていける人々は存在する。彼らは年齢を言いわけになんてしない。そういう人々だけが這い上がって自分の夢を叶えたり、いつまでも若々しく活動的でいられる。
 要は楽をしたいと生きている意味を捨てるか、生きることを楽しめるかの違いなのかもしれない。

「世の中を嘆いても仕方ないよ。俺たちは自分が楽しめる方法を探すだけ」
「そうね」
 花穂は自分を抱きしめている奏斗の腕を撫でると、身体を反転させその胸に顔を埋める。

 生きる意義は人それぞれ異なる。
 異なって当たり前だ。
 けれども、自分の人生には常に彼が共にあれば良いと願う。
 誰にも引き離されたくはない。

 背中を撫でる温かい手。
「明日は景色の良いところにドライブに行きたいわ。ご機嫌な音楽でもかけながら」
「いいね」
 人生は恐らくまだ長い。その長く続く道の途中で気の合う相手にであることは奇跡。心を許せ、なおかつ自分らしくいられる相手ならなおさら。
 その相手と恋人同士になれる確率はいかほどなのだろう。
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