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11話 愛美の狙い【Side:奏斗】
42 勘の良い彼女
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「でも、それって……」
部屋に戻った奏斗は花穂と結菜を前に事情を説明した。
顔を見合わせた二人は同じことを考えているのだろう。先に口を開いたのは結菜だった。
「美月さんが奏斗くんの好きな相手をわたしだと思っての行動なんですよね?」
「そうなるな」
奏斗はテーブルに置かれたリンゴケーキに手を伸ばしながら。
甘さ控えめであり、クルミとレーズンの入ったサクッとした口当たり。紅茶にも合う。
花穂が椅子の背もたれに手を置き、立ったままの奏斗に座ったらという視線を向ける。壁に備え付けられた一枚板のテーブルに寄りかかっていた奏斗は再び結菜に視線を戻しながら引かれた椅子に腰を下ろした。
「つまり、次の標的になるのは花穂先輩」
まるでお通夜のような雰囲気。しかし、今話し合っておかなければ後悔すると感じていた。
「やっぱり別れさせようとするのかしら」
と花穂。
「どうなのでしょう? わたしも美月さんと大川が関係していたなんて知りませんでした。そちらはどうなのですか?」
花穂は次期社長。その辺のことは現社長である彼女の父が知っているだろうし、花穂自身も何か聞いているのではないかと思ったのだろう。結菜がそんな質問をするのを奏斗はティーカップに口をつけながら聞いていた。
「一応取引先一覧なんかは閲覧可能なのだけれど、膨大な情報量だから把握しきれてないのよね」
社長となる人物にはいろんなルートがあるとは思う。
起業したのなら初めから会社に携わることになる。そうなると情報というのは少しづつ蓄積されていくものだ。結果として大企業になったとしても、やはり一度に情報が増えるわけではない。人の記憶とは毎日触れることで知らないうちに蓄積されていくものだと思う。
「パパは”美月”と言ったんですか?」
社長の名と会社名が違うところなんてごまんとある。
「そう言っていたな」
「それが会社名を含めるかは定かではないわよね」
花穂の相槌に奏斗は軽く頷く。
「だとしたら現時点ではお手上げね」
”父に確認しないと”と続ける花穂。
花穂が席を立つのを見届け、結菜の隣に移動した奏斗は、
「ごめんな」
と彼女に謝罪の言葉を述べる。
「な、なに謝っているんですか」
動揺する結菜。
「巻き込んで、こんなことになってしまったし」
「何言っているんですか。こんなの、”恋人のフリ”を引き受けた時点で覚悟済みですよ」
「そっか」
”ありがと”と呟くように礼を言うとフォークで刺したリンゴケーキを彼女の口元に持っていく。
「うぐ?」
「美味しいよ、これ」
まさか愛美がこんな風に強硬手段にでるとは思っていなかった。罪悪感に押しつぶされそうな自分。
結菜には迷惑をかけっぱなしだなと思いながら、リンゴケーキを食す彼女を眺めていた。
彼女と別れていること知った愛美が次にどんな行動に出るのか想像もできない。だが次の標的が花穂であることは間違いないだろう。
リンゴケーキを咀嚼し飲み込んだ結菜に、奏斗はよしよしと言うように頭を撫でられた。
「うん?」
「そんな顔をしなくても大丈夫なのですよ」
それはどういう意味だと思っていると、
「あの日、わたしは奏斗くんを守ってあげたいと思って協力することを決めたので」
”何が起きても自己責任”と笑って見せる結菜。
自分は”知らず知らずのうちに周りの人間に救われているんだな”と奏斗は感じていた。
「とは言え、ばっちり助けてもらってますが」
「まあ、いいんじゃないのか。助け合いってことで」
”そうですね”と明るく笑う彼女。
結菜との出会いはベンチに手帳を忘れたことがきっかけだった。
まさかこんなに仲良くなるとは思っていなかったし、気が合うとも思っていなかったのだ。むしろ合わないだろうなと思っていた相手。
人生とはいつどこでどう変化するかわからないものだなと改めて思ったのだった。
「くるみが絶妙ですね」
「そうだろ?」
この穏やかな日々が続くことを願いながら。
部屋に戻った奏斗は花穂と結菜を前に事情を説明した。
顔を見合わせた二人は同じことを考えているのだろう。先に口を開いたのは結菜だった。
「美月さんが奏斗くんの好きな相手をわたしだと思っての行動なんですよね?」
「そうなるな」
奏斗はテーブルに置かれたリンゴケーキに手を伸ばしながら。
甘さ控えめであり、クルミとレーズンの入ったサクッとした口当たり。紅茶にも合う。
花穂が椅子の背もたれに手を置き、立ったままの奏斗に座ったらという視線を向ける。壁に備え付けられた一枚板のテーブルに寄りかかっていた奏斗は再び結菜に視線を戻しながら引かれた椅子に腰を下ろした。
「つまり、次の標的になるのは花穂先輩」
まるでお通夜のような雰囲気。しかし、今話し合っておかなければ後悔すると感じていた。
「やっぱり別れさせようとするのかしら」
と花穂。
「どうなのでしょう? わたしも美月さんと大川が関係していたなんて知りませんでした。そちらはどうなのですか?」
花穂は次期社長。その辺のことは現社長である彼女の父が知っているだろうし、花穂自身も何か聞いているのではないかと思ったのだろう。結菜がそんな質問をするのを奏斗はティーカップに口をつけながら聞いていた。
「一応取引先一覧なんかは閲覧可能なのだけれど、膨大な情報量だから把握しきれてないのよね」
社長となる人物にはいろんなルートがあるとは思う。
起業したのなら初めから会社に携わることになる。そうなると情報というのは少しづつ蓄積されていくものだ。結果として大企業になったとしても、やはり一度に情報が増えるわけではない。人の記憶とは毎日触れることで知らないうちに蓄積されていくものだと思う。
「パパは”美月”と言ったんですか?」
社長の名と会社名が違うところなんてごまんとある。
「そう言っていたな」
「それが会社名を含めるかは定かではないわよね」
花穂の相槌に奏斗は軽く頷く。
「だとしたら現時点ではお手上げね」
”父に確認しないと”と続ける花穂。
花穂が席を立つのを見届け、結菜の隣に移動した奏斗は、
「ごめんな」
と彼女に謝罪の言葉を述べる。
「な、なに謝っているんですか」
動揺する結菜。
「巻き込んで、こんなことになってしまったし」
「何言っているんですか。こんなの、”恋人のフリ”を引き受けた時点で覚悟済みですよ」
「そっか」
”ありがと”と呟くように礼を言うとフォークで刺したリンゴケーキを彼女の口元に持っていく。
「うぐ?」
「美味しいよ、これ」
まさか愛美がこんな風に強硬手段にでるとは思っていなかった。罪悪感に押しつぶされそうな自分。
結菜には迷惑をかけっぱなしだなと思いながら、リンゴケーキを食す彼女を眺めていた。
彼女と別れていること知った愛美が次にどんな行動に出るのか想像もできない。だが次の標的が花穂であることは間違いないだろう。
リンゴケーキを咀嚼し飲み込んだ結菜に、奏斗はよしよしと言うように頭を撫でられた。
「うん?」
「そんな顔をしなくても大丈夫なのですよ」
それはどういう意味だと思っていると、
「あの日、わたしは奏斗くんを守ってあげたいと思って協力することを決めたので」
”何が起きても自己責任”と笑って見せる結菜。
自分は”知らず知らずのうちに周りの人間に救われているんだな”と奏斗は感じていた。
「とは言え、ばっちり助けてもらってますが」
「まあ、いいんじゃないのか。助け合いってことで」
”そうですね”と明るく笑う彼女。
結菜との出会いはベンチに手帳を忘れたことがきっかけだった。
まさかこんなに仲良くなるとは思っていなかったし、気が合うとも思っていなかったのだ。むしろ合わないだろうなと思っていた相手。
人生とはいつどこでどう変化するかわからないものだなと改めて思ったのだった。
「くるみが絶妙ですね」
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この穏やかな日々が続くことを願いながら。
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