R18【異性恋愛】第三の選択─Even if it's not love─

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
45 / 77
8.5話 あの日の記憶、思い出の宝箱【Side:花穂】

4 後悔という海に溺れても

しおりを挟む
「花穂」
 名前を呼ばれ、現実に戻される。
 彼の指先が髪に触れ、続いて腰を引き寄せられた。
 奏斗がボディタッチをしたがる相手は自分だけだと知った時、とても驚いたものだ。彼がそう言ったわけではないが。
「うん?」
 どうしたのと言うように見上げれば、軽く口づけられた。
「キスは好き?」
「花穂とするのは」
 彼は口が巧いなと思う。本心なのかもしれないが。
 嬉しいことばかり言う。
「なに、嫌なの?」
「ううん」

 花穂の言葉に一喜一憂する奏斗が愛しい。
 やっと手に入れたのだ。問題は山済みだが、その心がずっと欲しかった。
「花穂はあっちの方が好きなの?」
「そういうわけじゃないわ。ただ奏斗に抱かれていると幸せなの」
「ふうん」
 彼の胸に頬を寄せその心音に耳を傾ける。
 暖かなその体温に包まれて、目を閉じた。
「奏斗はあまり好きじゃないのね」
「うーん……どうかな」
「乗り気なあなたを見たことがないわ」
 ”そう?”と髪にちゅっと口づける彼。

「いつか見てみたいわね。あなたが理性を失う姿を」
 そこで奏斗は眉を寄せた。
「そんなの見て楽しい?」
 素朴な疑問なのだろうか。
「花穂は変なものばかり見たがるよね」
「変なもの?」
「ちょっと口にはしがたい」
 彼の様子を伺い、思い当たるものがあった。アレね、と思いながらクスリと笑う。

「ねえ、ちょっと出かけない?」
「今から?」
 時計を見上げた彼が”だいぶ遅い時間だよ”と口にする。
「夜景、見に行きたいの」
「んー。わかった」

 二人の出会い方にロマンチックさはなかった。
 ここまで来るのに遠回りもした。
 そして障害がまだ目の前にたくさん転がっている。

「なんで俺に運転させるの嫌なの?」
 ”安全運転だろ?”と彼。
「運転が好きなだけ」
「へえ」
 奏斗は花穂の言葉に”楽でいいけどね”と言いながら上着を羽織る。カウンターの上の小さな籠の中から車のキーを取り上げた彼は花穂の手のひらの上に落とす。
「奏斗」
「うん」
「あなたが好き、とても」
「俺も好きだよ」
 彼から手を差し出され、それを握る花穂。

──本当は違うの。
 あの頃のままでいられるような気がするから。

『俺はしたよ』
 奏斗以外と体の関係に至らなかった花穂。
 対照的に他の女性と関係を持った奏斗。
 何故あの時あんなふうに投げやりだったのか、今なら理解できそうな気がした。
 きっとそこには後悔と恨み言が詰まっている。
 彼の言葉を補足するなら、
『花穂が引きとめてくれなかったら、そうなった』
 とでも言えばいいのだろうか。

──自分の人生は自分のもの。だからどんなことだって自己責任。
 そんなこと奏斗だってわかっている。

 でも彼は望まなかったのだ。
 望まないことをせざるを得なかった。
 それは花穂が傍にいれば防げることだったのだろう。

「ねえ、奏斗はいつから好きになってくれたの?」
 夜は不思議だ。光の海は静かで、穢れから解放してくれるような錯覚すら起こす。
「さあ……」
 最近まで無自覚だったと零す彼に”らしい”と思ってしまう。
「辛いことばかりさせてしまって、ごめんね」
 小さく呟く。
「うん?」
「なんでもないわ」

 好きなら好きと言えばいい。
 愛は受け入れられることもあれば拒否されることもある。
 結果を恐れて口を噤んだところで、幸せになんてなれない。
 得られなければ、きっと辛いだろう。その時は悲しくてやりきれないかもしれない。それでも、いつか人は立ち直れるものだ。
 それよりも、心を偽り背を向ける方がずっと後悔するだろう。

 少なくとも自分は後悔ばかりしている。
 あの時、自分が素直になれたなら彼を苦しめなくて済んだのにと。

「花穂は会うなというけれど、構内でしょっちゅう会うし。そろそろ結菜とも話さないと」
「そうね」
 嵐の前触れ。そんな簡単に勝利の女神は微笑んではくれない。
 向き合うべき時が来たのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

社長の×××

恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。 ある日突然異動が命じられた。 異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。 不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。 そんな葵に課長は 「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」 と持ちかける。 決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。 果たして課長の不倫を止めることができるのか!? *他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...