44 / 77
8.5話 あの日の記憶、思い出の宝箱【Side:花穂】
3 花穂の恋心【微R】
しおりを挟む
「な、なあ。痛くないの?」
”凄くきついけど”と不安そうな声で問う奏斗。
「大丈夫。ゆっくり挿れて」
彼の首に腕を絡め、その体温を感じる。ここでやめさせたら、この先チャンスを失うに違いない。
指で慣らしてくれたものの初めてはきつい。
「んん……」
痛みに耐えながらぎゅっと抱き着けば、彼が優しく抱きしめてくれた。
たっぷりと時間をかけ、ようやく奥までたどり着いた彼はホッとした顔をしため息をつく。
「女性って……こんな大変なの」
と彼。
その言い方が”初めて”であることを証明していた。
「初めてだから」
と花穂。
奥がジンジンする。
「え?」
花穂の言葉に驚いた奏斗が固まった。
「わたししたことないの」
ニコッと笑うが、もどかしさにきゅっと奥が閉まる。
「えっと……良かったの?」
それは”俺で”という意味だろう。女性の初めては特別なもの。彼はそう思っているに違いない。
だが彼の言う”特別”は一般の男が想像している”特別”とは違うと感じた。
女性にとって初めての性経験はその後の人生に影響する。
愛のない間柄なら、男性の愛を信じることはできなくなるだろうし、愛の存在を感じなくなるだろう。もしかしたら異性が苦手になるかもしれない。
男性にとっては本来の価値観が影響するので、初めての経験が新たに影響を及ぼすのは相手からの反応によるものの可能性は高いだろう。
下手だと言われて傷つけばEDになるかもしれないが、そもそも男性の性欲は”愛がある関係”かつ”子を成したい”と相手が感じない限り、そんなに重要視されないと思われる。
男性が軽視されるのは、性交が愛と直結しない生き物だから。それは本能であり、愛があるかどうかは言葉ではない。相手を大切にしているかどうかは行動に出るもの。
ただし、愛を知るもの同士がくっつくかどうかは人それぞれ。
それは異性愛も同性愛も変わらないだろう。
「奏斗がいいの。ねえ、動いて」
「うん」
複雑な表情を浮かべていた彼が花穂の要望通り腰を引く。
彼の瞳には後悔の色。
奏斗はこんなこと望んでいなかったのかもしれない。そう感じたが、放してあげることはできなかった。
さらりとした彼の髪に手を伸ばす。自分は奏斗のことが好きだが、彼は自分を愛してくれることはないだろう。そう思うと胸の奥がズキンと痛む。
初めての交わりの日から、罪悪感を持たせたくないと何度も求めているうちに、彼は少しずつ慣れていったのだ。
──わたしは間違っている。
そんなこと自分が一番知っていたはずなのに。
期間限定のおつき合いが終わりを告げ、花穂は何もやる気が起きなくなっていた。好きな人と一緒にいるだけでどれだけ幸せを感じられるのかに気づく。
「ねえ、白石くんは元気?」
義弟と続いていると思っていた花穂は別れて半年以上たったころ、何気なく義弟に尋ねた。
「取ってる講義が違うから、あまり会う機会がないかな」
と彼。
「え? つき合ってるんでしょ?」
「いや……恋愛につかれたからしばらく一人になりたいって言うから高校卒業頃に別れたよ」
それはいつかは戻るという約束なのだろうか。
すこし羨ましくもある。
「そのうちヨリ戻すってこと?」
「どうかな、俺は好きだけど。最近、女の子と一緒にいるところをよく見かけるって噂だしさ」
彼女できたのかもね、と義弟。
どうしてそんなにあっさりしていられるのか理解に苦しむが、義弟がつき合っていた相手は奏斗だけではない。
自室に戻るとメッセージアプリを起動する。消せないままの彼のID。
拒否されているとは思い難いが、連絡先が消されていたり変わっている可能性はあった。
「愛花先輩なら、奏斗の近況知っているかしら」
──会いたい。
でも、彼女ができたならわたしはきっと邪魔よね。
同じ構内にいるものの、大学は人探しも楽ではない。会おうと思って簡単に会える場所ではない。それはこの半年、構内ですれ違うことがなかったという事実が証明していた。
だが再会は意外な形で訪れたのだった。
”凄くきついけど”と不安そうな声で問う奏斗。
「大丈夫。ゆっくり挿れて」
彼の首に腕を絡め、その体温を感じる。ここでやめさせたら、この先チャンスを失うに違いない。
指で慣らしてくれたものの初めてはきつい。
「んん……」
痛みに耐えながらぎゅっと抱き着けば、彼が優しく抱きしめてくれた。
たっぷりと時間をかけ、ようやく奥までたどり着いた彼はホッとした顔をしため息をつく。
「女性って……こんな大変なの」
と彼。
その言い方が”初めて”であることを証明していた。
「初めてだから」
と花穂。
奥がジンジンする。
「え?」
花穂の言葉に驚いた奏斗が固まった。
「わたししたことないの」
ニコッと笑うが、もどかしさにきゅっと奥が閉まる。
「えっと……良かったの?」
それは”俺で”という意味だろう。女性の初めては特別なもの。彼はそう思っているに違いない。
だが彼の言う”特別”は一般の男が想像している”特別”とは違うと感じた。
女性にとって初めての性経験はその後の人生に影響する。
愛のない間柄なら、男性の愛を信じることはできなくなるだろうし、愛の存在を感じなくなるだろう。もしかしたら異性が苦手になるかもしれない。
男性にとっては本来の価値観が影響するので、初めての経験が新たに影響を及ぼすのは相手からの反応によるものの可能性は高いだろう。
下手だと言われて傷つけばEDになるかもしれないが、そもそも男性の性欲は”愛がある関係”かつ”子を成したい”と相手が感じない限り、そんなに重要視されないと思われる。
男性が軽視されるのは、性交が愛と直結しない生き物だから。それは本能であり、愛があるかどうかは言葉ではない。相手を大切にしているかどうかは行動に出るもの。
ただし、愛を知るもの同士がくっつくかどうかは人それぞれ。
それは異性愛も同性愛も変わらないだろう。
「奏斗がいいの。ねえ、動いて」
「うん」
複雑な表情を浮かべていた彼が花穂の要望通り腰を引く。
彼の瞳には後悔の色。
奏斗はこんなこと望んでいなかったのかもしれない。そう感じたが、放してあげることはできなかった。
さらりとした彼の髪に手を伸ばす。自分は奏斗のことが好きだが、彼は自分を愛してくれることはないだろう。そう思うと胸の奥がズキンと痛む。
初めての交わりの日から、罪悪感を持たせたくないと何度も求めているうちに、彼は少しずつ慣れていったのだ。
──わたしは間違っている。
そんなこと自分が一番知っていたはずなのに。
期間限定のおつき合いが終わりを告げ、花穂は何もやる気が起きなくなっていた。好きな人と一緒にいるだけでどれだけ幸せを感じられるのかに気づく。
「ねえ、白石くんは元気?」
義弟と続いていると思っていた花穂は別れて半年以上たったころ、何気なく義弟に尋ねた。
「取ってる講義が違うから、あまり会う機会がないかな」
と彼。
「え? つき合ってるんでしょ?」
「いや……恋愛につかれたからしばらく一人になりたいって言うから高校卒業頃に別れたよ」
それはいつかは戻るという約束なのだろうか。
すこし羨ましくもある。
「そのうちヨリ戻すってこと?」
「どうかな、俺は好きだけど。最近、女の子と一緒にいるところをよく見かけるって噂だしさ」
彼女できたのかもね、と義弟。
どうしてそんなにあっさりしていられるのか理解に苦しむが、義弟がつき合っていた相手は奏斗だけではない。
自室に戻るとメッセージアプリを起動する。消せないままの彼のID。
拒否されているとは思い難いが、連絡先が消されていたり変わっている可能性はあった。
「愛花先輩なら、奏斗の近況知っているかしら」
──会いたい。
でも、彼女ができたならわたしはきっと邪魔よね。
同じ構内にいるものの、大学は人探しも楽ではない。会おうと思って簡単に会える場所ではない。それはこの半年、構内ですれ違うことがなかったという事実が証明していた。
だが再会は意外な形で訪れたのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる