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8話 変化していく日常【Side:花穂】
31 不本意な顛末
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「イチャイチャしたいとは確かにいったけど」
”帰るなり、俺に馬乗りになるのはどうかと思うぞ”と奏斗。
「いいじゃないの」
たくし上げたシャツの中に手を滑り込ませ直に肌を撫でると、彼が切なげに眉を寄せる。
「こんな直接的なことを求めたわけじゃ……昨日だってしたのに」
したいという割には淡白な彼。
だが『草食系』と言うわけではない。
恋愛至上主義と言うわけでもなさそうだが。
ちょっとしたきっかけから、奏斗は自分の欲望を理性で抑えこみ、我慢しているだけなのだと気づいた。
そんなこと知ったら煽りたくなるもの。
ふと、初めての夜を思い出す。
義弟とのことを知っているから経験自体は初めてではないことはわかっていた。
躊躇いがちに紡がれた言葉。
『俺……こういうことは、ちょっと』
乗り気でないなら、その気にさせるだけ。花穂は経験がないながらも、収集した知識でなんとか彼を”うん”と言わせた。
彼がしたくないという理由をちゃんと知っていたなら、強引にことに及んだりはしなかっただろう。
花穂に煽られ、上気した頬。
彼は潤んだ瞳をこちらに向けた。
その瞳はまるで『こうなって満足か?』とでも言っているように感じる。花穂はそんな彼に興奮を覚えた。
だから追い詰めることになるとも知らずに、言葉で奏斗を押さえつけたのだ。
『恋人になることが、どんなことかくらい理解しているんでしょう? もちろんこうなるのも覚悟の上よね?』
瞳を揺らす彼。不本意だと言わんばかりに花穂から顔を背ける。
『俺にこんな……ことして、楽しいのか?』
浅く息をする彼の髪に触れた。サラリとした感触。
花穂は奏斗の髪に触れるのがとても好きだった。
プライドを捨てきれずに、なんとか花穂を留めさせようとする彼が可愛いと思う。嫌がる彼を押さえつけ、言いなりにさせるのは気持ちが良かった。
素直になればいいのだ、ただ欲望に。
今だって変わらない。奏斗は欲情することをとても嫌がる。理性的であることを望み、それを美徳と信じている。
そんな彼がたまらなく愛しい。
「まだ若いのに。ねえ、枯れてるの?」
「花穂はすぐそうやって挑発する。そんな手には乗らない。なんとでも」
自分からは動かない。そう宣言されても花穂は一向に気にしなかった。だったら好きにするだけ。どうせ思い通りになるのだ。
結局思惑通りになってしまった奏斗は、立てた膝の上に腕をだらりと伸ばしうなだれていた。
「良くなかったの?」
下着を身に着けながら奏斗の方を伺えば、
「良かったよ」
と不貞腐れている。
「何が不満なのよ」
下着の上からロング丈のTシャツを身に着け、ベッドに腰かけると彼の髪を撫でながら。
「なんでそんなにしたがるのが、わからないよ」
「一度や二度くらいじゃ、満足できないから」
花穂の言葉に眉を寄せ切なげな表情でこちらを見た奏斗は、
「何、俺。そんな下手?」
と顔を覆った。
どうやら言い方がまずかったようだ。
「やーね。違うわよ」
ショックを受ける彼。花穂は笑いながらその背中を撫でた。
「大好きだから、いっぱいしたいだけ」
「そーですかー」
どうやら完全にいじけてしまっている。
「もー、奏斗ってば」
”機嫌直してよ”と花穂は彼の肩にすり寄った。
「奏斗は小学生みたいなお子様のおつきあいが良いんでしょ?」
「バカにしてる?」
ようやく顔を上げた彼に抱き寄せられ、脇をくすぐられる。
「ちょ……くすぐるのは反則!」
抗議する花穂を面白そうに見ていた彼は、目が合うと微笑んだ。
「奏斗はいっぱいするの、嫌?」
「そういうわけじゃないけど。罪悪感であまり夢中になれないかも」
いくら本気だろうが、周りから見たらただの”浮気”なのだ。
真っ当に生きたいと思っている奏斗にはストレスなのかもしれない。
「だから、早くけじめつけてきなさいよ……って言いたいところなんだけれど」
「ん?」
「会って欲しくない。妬いちゃうから」
「へ?」
正直、妬けるくらいに仲が良いのだ、奏斗と結菜は。
”帰るなり、俺に馬乗りになるのはどうかと思うぞ”と奏斗。
「いいじゃないの」
たくし上げたシャツの中に手を滑り込ませ直に肌を撫でると、彼が切なげに眉を寄せる。
「こんな直接的なことを求めたわけじゃ……昨日だってしたのに」
したいという割には淡白な彼。
だが『草食系』と言うわけではない。
恋愛至上主義と言うわけでもなさそうだが。
ちょっとしたきっかけから、奏斗は自分の欲望を理性で抑えこみ、我慢しているだけなのだと気づいた。
そんなこと知ったら煽りたくなるもの。
ふと、初めての夜を思い出す。
義弟とのことを知っているから経験自体は初めてではないことはわかっていた。
躊躇いがちに紡がれた言葉。
『俺……こういうことは、ちょっと』
乗り気でないなら、その気にさせるだけ。花穂は経験がないながらも、収集した知識でなんとか彼を”うん”と言わせた。
彼がしたくないという理由をちゃんと知っていたなら、強引にことに及んだりはしなかっただろう。
花穂に煽られ、上気した頬。
彼は潤んだ瞳をこちらに向けた。
その瞳はまるで『こうなって満足か?』とでも言っているように感じる。花穂はそんな彼に興奮を覚えた。
だから追い詰めることになるとも知らずに、言葉で奏斗を押さえつけたのだ。
『恋人になることが、どんなことかくらい理解しているんでしょう? もちろんこうなるのも覚悟の上よね?』
瞳を揺らす彼。不本意だと言わんばかりに花穂から顔を背ける。
『俺にこんな……ことして、楽しいのか?』
浅く息をする彼の髪に触れた。サラリとした感触。
花穂は奏斗の髪に触れるのがとても好きだった。
プライドを捨てきれずに、なんとか花穂を留めさせようとする彼が可愛いと思う。嫌がる彼を押さえつけ、言いなりにさせるのは気持ちが良かった。
素直になればいいのだ、ただ欲望に。
今だって変わらない。奏斗は欲情することをとても嫌がる。理性的であることを望み、それを美徳と信じている。
そんな彼がたまらなく愛しい。
「まだ若いのに。ねえ、枯れてるの?」
「花穂はすぐそうやって挑発する。そんな手には乗らない。なんとでも」
自分からは動かない。そう宣言されても花穂は一向に気にしなかった。だったら好きにするだけ。どうせ思い通りになるのだ。
結局思惑通りになってしまった奏斗は、立てた膝の上に腕をだらりと伸ばしうなだれていた。
「良くなかったの?」
下着を身に着けながら奏斗の方を伺えば、
「良かったよ」
と不貞腐れている。
「何が不満なのよ」
下着の上からロング丈のTシャツを身に着け、ベッドに腰かけると彼の髪を撫でながら。
「なんでそんなにしたがるのが、わからないよ」
「一度や二度くらいじゃ、満足できないから」
花穂の言葉に眉を寄せ切なげな表情でこちらを見た奏斗は、
「何、俺。そんな下手?」
と顔を覆った。
どうやら言い方がまずかったようだ。
「やーね。違うわよ」
ショックを受ける彼。花穂は笑いながらその背中を撫でた。
「大好きだから、いっぱいしたいだけ」
「そーですかー」
どうやら完全にいじけてしまっている。
「もー、奏斗ってば」
”機嫌直してよ”と花穂は彼の肩にすり寄った。
「奏斗は小学生みたいなお子様のおつきあいが良いんでしょ?」
「バカにしてる?」
ようやく顔を上げた彼に抱き寄せられ、脇をくすぐられる。
「ちょ……くすぐるのは反則!」
抗議する花穂を面白そうに見ていた彼は、目が合うと微笑んだ。
「奏斗はいっぱいするの、嫌?」
「そういうわけじゃないけど。罪悪感であまり夢中になれないかも」
いくら本気だろうが、周りから見たらただの”浮気”なのだ。
真っ当に生きたいと思っている奏斗にはストレスなのかもしれない。
「だから、早くけじめつけてきなさいよ……って言いたいところなんだけれど」
「ん?」
「会って欲しくない。妬いちゃうから」
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正直、妬けるくらいに仲が良いのだ、奏斗と結菜は。
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