R18【異性恋愛】第三の選択─Even if it's not love─

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7話 原点回帰【Side:奏斗】

25 覚悟と自惚れ

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 あの時、花穂は知られても良いと思っていたのだろうか?
 和馬と出かけた先で、花穂と岸倉が一緒にいるところを目撃した奏斗。
 どういうことだと岸倉に詰め寄ると、あとから彼に呼び出されたのである。

 奏斗にとって『楠花穂』という女性は、はじめは想い人を傷つけ苦しめる憎むべき相手だった。
 自分が岸倉の代わりを果たすことで、好きな相手が幸せになるなら犠牲になっても良いと思っていたのだ。岸倉にはもちろん止められた。
 彼は自分がどんな性格なのかよく知ってくれていたし、噂の真実を知る人物でもあったから。

──選んだのは自分。
 誰も悪くない。覚悟を持ってその道を進んだのは自分。

 和馬が性的な悪戯をされていたと知っていた。 
 岸倉は同性愛者。花穂と肉体関係ではなかった。
 自分に何が求められるのか想像もしたし、その覚悟を持って彼女の要求を承諾したのだ。

 だが、付き合ってみて彼女のイメージはガラッと変わった。
 性的な悪戯の内容も想像とは全く違っていたし、次から次へと恋人がいたという話は聞いてはいたものの、彼女は性的な意味では未経験者だった。

──きっと、自惚れてたんだよな。

 今は違うとはいえるが、そんな彼女が初めての相手に自分を選んだことに意味があると思いたかったのだ。

「別れてから、思ったんだ。俺は楽しかったんだって」
「うん」
「花穂と一緒にいる時は、自然体でいられたから楽しかったんだって。でも、花穂は違ったのかなって」
 何故こんなにも泣きたくなるのか。
 
 一時の遊び相手に選ばれただけなのに、自分ばかりが本気になったことが悔しかったのか。
 それとも安らぎを失った空虚感に苦しんでいるのか。
 花穂がいなくなって、見える世界は変わった。

 自分が愛美に『理想を押し付けているだけ』なことに気づく。
 変わらないままでいて欲しいと願った。
 だが愛美はそれを受け入れることはない。向けられる肉欲の意味が分からずに、恐怖だけが心を支配した。
 言いなりになれば、赦されるされるのだろうか。
 そう思い、求められるままに与え続けた。そこに快楽なんてない。

 恋人の結菜は自分に自信のない女の子。
 求められないことを安らぎにしていた。
 本音に気づきながらも、見ないふりをしたに過ぎない。
 そうやって二人の間で、なんとか正気を保ってきた。

 きっと自分が求めていたのは、純愛という名の幻想だったのだろう。
 世界は残酷だ。
 人を見た目で判断し、理想を押し付ける。それを叶えることができなければ、簡単に捨てるのだから。
 初めて自分でいられると感じた相手は、そうやって時間が来れば去っていったじゃないか。

『友達にでもなりましょうよ』
 きっと花穂は見かねて救いの手を差し出したに違いない。
 自分はそう思った。
 
 それなのに。
『わたしじゃ奏斗は救えない』
 そんなことを言うのだ。

 また去っていくのだろうか?
 どうしたら傍にいてくれるのだろう。
 何を差し出せば、繋ぎとめられるのだろう。

「奏斗、もう我慢しないで」
 花穂は近くにあったタオルを掴むと、奏斗の目元にあてる。
「言いたいこと言ってよ。何を言われても大丈夫だから」
「なんで俺を初めての相手に選んだの」
 何を言われても大丈夫と言った割には、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする花穂。
「奏斗は鈍感なの? それとも自信がないの? そんなの好きだからじゃない。何言ってるのよ」
 呆れているのか怒っているのか、判断し難いため息。
「そりゃあ、好きとか言わなかったわたしにも問題はあると思うけれど。自惚れたりとかできないの? ねえ」

──いや、自惚れてましたとも。

 言葉にできず、奏斗は目を泳がせた。
「なんで俺、責められてるの」
「わたしだって何度好きだって言いたかったか。その度に飲み込んできたの。義弟の恋人だし。脅して付き合っていたようなものだし」
 なんでわかってくれないのよ、という苛立ちが伝わってくる。
「かと思えば、今度は二股かけてるし。いつになったらフリーになる?」
「ちょ……待って。人をそんな遊び人みたいに。俺は別に、常に誰かとつき合っているわけじゃ」
「嘘つかないでよ!」
 嘘じゃないのにと思いながら、奏斗はここ数年の自分の行動を振り返ったのだった。
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