29 / 77
6話 幻想だった世界に【Side:花穂】
24 複雑な関係から始まった二人の過去
しおりを挟む
意味わからないよと嘆く奏斗の耳に指先で触れると、彼はびくりと肩をすくめた。
「奏斗は耳が弱い」
「わかってるなら、悪戯するなよ」
「ねえ、奏斗は?」
彼の胸に手を滑らせ甘えるように頬を寄せると、
「好きだよ」
と耳元で甘い囁き。
だが直ぐにため息をつき、
「二股かけといて何いってんだ、この最低男って思われてるかも知れないけど」
と自虐的だ。
「何も言ってないじゃないの」
「そうだけど」
「いつからそんなひねくれた男になったのよ」
「以前は素直だったのにって? すみませんね、ひねくれてて」
視線を逸らす彼。
拗ねているのだろうか。きっと投げやりな自分自身にすら苛立ちを感じているのだろう。
「素直なヤツが好きなの?」
視線を床に落としたまま。
だが花穂は、そんな彼の態度を面倒だとは思わなかった。
「なんなの? ヤキモチ?」
奏斗の顔を覗き込んで。
普段は誰に対してもクールに振る舞う、そんな彼が自分には拗ねて甘えるのかと思うと……何故か欲情した。
「……ヤキモチ」
「そんなヤキモチ妬かなくても、わたしが欲しいのは奏斗だけなんだけどな」
「な、なに?」
赤くなって狼狽える彼の後ろの壁に片手をつくと、
「ドキドキした?」
と問う。
「した」
彼の両腕が再び花穂の腰に巻きつく。
「早くわたしのものになっちゃえば良いのに」
じっとその瞳を見つめ悪戯っぽく笑うと、ちゅっと口づけられた。
「ねえ、奏斗」
「うん?」
「わたしはね、そのままのあなたが好きなの」
奏斗の瞳が揺れる。花穂の言葉の意味を考えているのだろう。
「変わっても、変わらなくても奏斗は奏斗なの」
”言っている意味、わかる?”と問いかけながら、彼の心臓の辺りに優しく手を添えた。
「あなただから好きなの。以前と違ってもいい。でも人の本質って変わらないのよ?」
人の考えは経験によって変わっていく。言動もまたしかり。
しかし性格というのはそう簡単に変わるものではない。
例えば几帳面な人が大雑把な言動をすれば、自分が保てないくらい疲れ切っているということ。
悲観的な人は簡単に楽観的にはなれない。楽観的に見せることはできても。
ならば何故、悲観的な人が『楽観的に見せようとするのか?』重要なのはそこにある。理解とはそこから始まるものだ。
「奏斗が以前と違うなら、それは状況が違うから。そしてわたしへの気持ちが違うから」
”ねえ、そうでしょう?”というように、花穂は少し首を傾げる。
奏斗の手が胸に置かれた花穂の手に重ねられた。
「初めは、”岸倉先生が解放されたら、和馬が幸せになる”からって思っていた」
和馬とは花穂の義弟。
岸倉とはその義弟のもう一人の相手。
奏斗は元カノ『愛美』と別れたのち、遊び歩くようになる。それまでは見た目は派手だが品行方正な生徒と言っても過言ではなかった。
愛美と別れたことを知ったある女子生徒が奏斗につき合おうと言って振られたことをきっかけにして、恨みを買い『遊び人』という噂を流された。
それがすべての発端だったのである。
奏斗はそれに対し否定も肯定もしなかったが、噂とは面白おかしく広がるもの。大部分の人間は本気にはしていなかったと思われる。
そんな状況の中で依然として変わらない態度で接してくれていたのが『教師二年目の岸倉』だった。
義弟には奏斗が贔屓をされているように感じていたのだろう。
親が再婚し、義姉である花穂に性的な悪戯をされており、そのことで病んでいた時期だった。花穂はそのことについては今は反省をしている。
奏斗も自分と同じ側の『かわいそうな人間』だと思っていたのに、岸倉に特別扱いされていると思い込み嫉妬した。
そのことが発端となり、奏斗をはめるつもりがいつの間にか惹かれ合ってしまったのだ。
岸倉は花穂にとっては大学のOB。以前、交際を申し込んだら雑に断られ、恨みを抱いていた相手。岸倉は和馬に気があった。その弱みに付け込んで、恋人のフリを頼んだのである。
「奏斗は耳が弱い」
「わかってるなら、悪戯するなよ」
「ねえ、奏斗は?」
彼の胸に手を滑らせ甘えるように頬を寄せると、
「好きだよ」
と耳元で甘い囁き。
だが直ぐにため息をつき、
「二股かけといて何いってんだ、この最低男って思われてるかも知れないけど」
と自虐的だ。
「何も言ってないじゃないの」
「そうだけど」
「いつからそんなひねくれた男になったのよ」
「以前は素直だったのにって? すみませんね、ひねくれてて」
視線を逸らす彼。
拗ねているのだろうか。きっと投げやりな自分自身にすら苛立ちを感じているのだろう。
「素直なヤツが好きなの?」
視線を床に落としたまま。
だが花穂は、そんな彼の態度を面倒だとは思わなかった。
「なんなの? ヤキモチ?」
奏斗の顔を覗き込んで。
普段は誰に対してもクールに振る舞う、そんな彼が自分には拗ねて甘えるのかと思うと……何故か欲情した。
「……ヤキモチ」
「そんなヤキモチ妬かなくても、わたしが欲しいのは奏斗だけなんだけどな」
「な、なに?」
赤くなって狼狽える彼の後ろの壁に片手をつくと、
「ドキドキした?」
と問う。
「した」
彼の両腕が再び花穂の腰に巻きつく。
「早くわたしのものになっちゃえば良いのに」
じっとその瞳を見つめ悪戯っぽく笑うと、ちゅっと口づけられた。
「ねえ、奏斗」
「うん?」
「わたしはね、そのままのあなたが好きなの」
奏斗の瞳が揺れる。花穂の言葉の意味を考えているのだろう。
「変わっても、変わらなくても奏斗は奏斗なの」
”言っている意味、わかる?”と問いかけながら、彼の心臓の辺りに優しく手を添えた。
「あなただから好きなの。以前と違ってもいい。でも人の本質って変わらないのよ?」
人の考えは経験によって変わっていく。言動もまたしかり。
しかし性格というのはそう簡単に変わるものではない。
例えば几帳面な人が大雑把な言動をすれば、自分が保てないくらい疲れ切っているということ。
悲観的な人は簡単に楽観的にはなれない。楽観的に見せることはできても。
ならば何故、悲観的な人が『楽観的に見せようとするのか?』重要なのはそこにある。理解とはそこから始まるものだ。
「奏斗が以前と違うなら、それは状況が違うから。そしてわたしへの気持ちが違うから」
”ねえ、そうでしょう?”というように、花穂は少し首を傾げる。
奏斗の手が胸に置かれた花穂の手に重ねられた。
「初めは、”岸倉先生が解放されたら、和馬が幸せになる”からって思っていた」
和馬とは花穂の義弟。
岸倉とはその義弟のもう一人の相手。
奏斗は元カノ『愛美』と別れたのち、遊び歩くようになる。それまでは見た目は派手だが品行方正な生徒と言っても過言ではなかった。
愛美と別れたことを知ったある女子生徒が奏斗につき合おうと言って振られたことをきっかけにして、恨みを買い『遊び人』という噂を流された。
それがすべての発端だったのである。
奏斗はそれに対し否定も肯定もしなかったが、噂とは面白おかしく広がるもの。大部分の人間は本気にはしていなかったと思われる。
そんな状況の中で依然として変わらない態度で接してくれていたのが『教師二年目の岸倉』だった。
義弟には奏斗が贔屓をされているように感じていたのだろう。
親が再婚し、義姉である花穂に性的な悪戯をされており、そのことで病んでいた時期だった。花穂はそのことについては今は反省をしている。
奏斗も自分と同じ側の『かわいそうな人間』だと思っていたのに、岸倉に特別扱いされていると思い込み嫉妬した。
そのことが発端となり、奏斗をはめるつもりがいつの間にか惹かれ合ってしまったのだ。
岸倉は花穂にとっては大学のOB。以前、交際を申し込んだら雑に断られ、恨みを抱いていた相手。岸倉は和馬に気があった。その弱みに付け込んで、恋人のフリを頼んだのである。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる