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6話 幻想だった世界に【Side:花穂】
23 理解されない気持ち
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『失敗は成功の基』ということわざがある。
それは未来に成功をもたらすための基盤。大切なのは”失敗した理由を判明させる”ことであり、失敗したという結果ではない。
それをきちんと理解していれば次は成功できるということなのだ。
だが、失敗ではなく罪だったなら。
きっと後悔しかないだろう。
「俺はずっと、花穂の本音が知りたかった」
「本音?」
奏斗が一瞬、泣き出しそうな表情をしたのち花穂の肩に顔を埋める。
花穂はそんな彼の背中を抱き締めた。
「なんで、俺だったの? ってずっと引っ掛ってた。ただ遊ばれただけなのかなって」
それが奏斗を苦しめているものの正体。花穂は首を強く左右に振った。
「女性は花穂が初めてだった」
それは、肉体的な関係。自分が犯した一番の過ち。
自分を彼に残したかった。
身勝手な想いが彼を壊してしまったのだ。それに気づいたのは、別れた後。
いや、正しくは最近なのだ。
──奏斗が二股をかけていると知った時。わたしが彼の価値観を変えてしまったことを知った。
彼が他人を信じられなくなってしまったことに気づいたの。
花穂が奏斗に出会った頃、彼は確かに義弟と交際関係にはあった。だが、二股をかけられている状態でもあったのだ。
だから近づいた。
何故、奏斗がそれを良しとしているのか理由はわからなかったかったが知れば知るほど『二股をかけられて良いような男じゃない』と思ってしまったのである。
病んだ本当の理由が花穂自身にあるとも知らずに、彼を救いたいと願った。だが、その願いが叶うことはないまま。
──奏斗の幸せを壊したのはわたし。
幸せにしてあげることだってできたのに、何もわかってなかった。
奏斗にとっては、花穂のしたことは中途半端に手を出して捨てたように思えたのだろう。
「ずっと聞きたくて聞けないことがある」
花穂の肩を濡らす彼の声は震えている。こんなに弱っている姿はかつて一度も見たことがなかった。
「それは、なに?」
「なあ、俺のこと好きだった? って」
彼の言葉に花穂は息を呑んだ。
胸が締めつけられて苦しい。
好きだと言わなかったのは、配慮だと思ったから。決してフラれるのが怖かったわけではない。
花穂は奏斗の背中に回した腕に力を入れた。醜いだろうこの感情を彼に晒さなければ、救うことなんて出来はしないだろう。
覚悟をする時間さえ、今はない。
「愛美はなんで俺にあんなことをするのかわからないんだ。花穂にとって俺ってなんだったのかなって」
奏斗にとって異性との性交渉は、とても重いものなのだ。
ここへ来て初めて、彼がなぜ花穂には気軽に『しようよ』というのか理解した。
側にいるためには、自分を差し出さなければならないと思っているから。
それは彼からの悲痛なSOS。
そこまでして『花穂に』側にいてほしいと願っていたということなのだ。
「奏斗、わたし」
何度も浅く息をする。思った以上に腕の中の彼は純粋で脆い。今まで花穂には見せなかっただけ。
立場や状況にこだわっていては、何も変わらない。倫理道徳観は今は邪魔でしかないのだ。
「わたしは、とても醜いの」
絞り出すように、無理矢理言葉を繋ぐ。こんなこと誰にも告げたことはない。
「知れば知るほど、惹かれてた。義弟から奪いたいと思うほどに」
今だってそうよ、と続ける。
「大川さんや美月さんから奪いたいって思ってる」
驚いて顔を上げた彼が、花穂を見つめゆっくりと瞬きした。
「気が変になりそうなくらい、奏斗が好きなの。これがわたしの本音」
「えっと……」
「押し倒したいくらい、愛してるわ」
「ちょ……え?」
花穂から離れた奏斗は後ずさろうとして後がないことに気づく。
「なんでそんな反応なのよ」
「いや、だって」
腕で顔を覆う奏斗。
「好きって言われたことくらい、いくらだってあるでしょ?」
「それとこれとは、違っ」
「聞きたいって言ったの自分なのに、なんでそんな照れるのよ」
彼の腕に手をかければ、困った表情でこちらを見ている。
「だーかーらー! そういうところが、たまらなく好きなの!」
「はあ?」
それは未来に成功をもたらすための基盤。大切なのは”失敗した理由を判明させる”ことであり、失敗したという結果ではない。
それをきちんと理解していれば次は成功できるということなのだ。
だが、失敗ではなく罪だったなら。
きっと後悔しかないだろう。
「俺はずっと、花穂の本音が知りたかった」
「本音?」
奏斗が一瞬、泣き出しそうな表情をしたのち花穂の肩に顔を埋める。
花穂はそんな彼の背中を抱き締めた。
「なんで、俺だったの? ってずっと引っ掛ってた。ただ遊ばれただけなのかなって」
それが奏斗を苦しめているものの正体。花穂は首を強く左右に振った。
「女性は花穂が初めてだった」
それは、肉体的な関係。自分が犯した一番の過ち。
自分を彼に残したかった。
身勝手な想いが彼を壊してしまったのだ。それに気づいたのは、別れた後。
いや、正しくは最近なのだ。
──奏斗が二股をかけていると知った時。わたしが彼の価値観を変えてしまったことを知った。
彼が他人を信じられなくなってしまったことに気づいたの。
花穂が奏斗に出会った頃、彼は確かに義弟と交際関係にはあった。だが、二股をかけられている状態でもあったのだ。
だから近づいた。
何故、奏斗がそれを良しとしているのか理由はわからなかったかったが知れば知るほど『二股をかけられて良いような男じゃない』と思ってしまったのである。
病んだ本当の理由が花穂自身にあるとも知らずに、彼を救いたいと願った。だが、その願いが叶うことはないまま。
──奏斗の幸せを壊したのはわたし。
幸せにしてあげることだってできたのに、何もわかってなかった。
奏斗にとっては、花穂のしたことは中途半端に手を出して捨てたように思えたのだろう。
「ずっと聞きたくて聞けないことがある」
花穂の肩を濡らす彼の声は震えている。こんなに弱っている姿はかつて一度も見たことがなかった。
「それは、なに?」
「なあ、俺のこと好きだった? って」
彼の言葉に花穂は息を呑んだ。
胸が締めつけられて苦しい。
好きだと言わなかったのは、配慮だと思ったから。決してフラれるのが怖かったわけではない。
花穂は奏斗の背中に回した腕に力を入れた。醜いだろうこの感情を彼に晒さなければ、救うことなんて出来はしないだろう。
覚悟をする時間さえ、今はない。
「愛美はなんで俺にあんなことをするのかわからないんだ。花穂にとって俺ってなんだったのかなって」
奏斗にとって異性との性交渉は、とても重いものなのだ。
ここへ来て初めて、彼がなぜ花穂には気軽に『しようよ』というのか理解した。
側にいるためには、自分を差し出さなければならないと思っているから。
それは彼からの悲痛なSOS。
そこまでして『花穂に』側にいてほしいと願っていたということなのだ。
「奏斗、わたし」
何度も浅く息をする。思った以上に腕の中の彼は純粋で脆い。今まで花穂には見せなかっただけ。
立場や状況にこだわっていては、何も変わらない。倫理道徳観は今は邪魔でしかないのだ。
「わたしは、とても醜いの」
絞り出すように、無理矢理言葉を繋ぐ。こんなこと誰にも告げたことはない。
「知れば知るほど、惹かれてた。義弟から奪いたいと思うほどに」
今だってそうよ、と続ける。
「大川さんや美月さんから奪いたいって思ってる」
驚いて顔を上げた彼が、花穂を見つめゆっくりと瞬きした。
「気が変になりそうなくらい、奏斗が好きなの。これがわたしの本音」
「えっと……」
「押し倒したいくらい、愛してるわ」
「ちょ……え?」
花穂から離れた奏斗は後ずさろうとして後がないことに気づく。
「なんでそんな反応なのよ」
「いや、だって」
腕で顔を覆う奏斗。
「好きって言われたことくらい、いくらだってあるでしょ?」
「それとこれとは、違っ」
「聞きたいって言ったの自分なのに、なんでそんな照れるのよ」
彼の腕に手をかければ、困った表情でこちらを見ている。
「だーかーらー! そういうところが、たまらなく好きなの!」
「はあ?」
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