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6話 幻想だった世界に【Side:花穂】
22 恋が現実になる日
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恋愛に一番大切なものは何か?
それはもちろん、人によって違うだろう。
見た目だけならば好みの人を見つけるのは容易い。しかし、恋をするかと言われたら不確かだ。
色んな人とおつき合いして気づいたことがある。
『どんな人間でも、多少なり偏見を持つ』ということだ。
それは大人や周り、メディアによって植え付けられたイメージも含む。
例えば、男の子はロボットが好き。女の子は人形が好きと言うものだ。
人の好みは環境や思想などによって左右されるものであり、持って生まれた感覚も作用するだろう。
多様性の尊重とは多様性が当たり前に存在し、人によって好みが違うのが当たり前であると認識すること。単にそれだけ。
女だからこう。
男だからこう。
それは誰かが勝手に决めた価値観であり、万民に適用されるものではない。
これは、当たり前のこと。
しかし人は偏見にまみれた生き物でもある。
──奏斗だけだったの。
好きなものを好きと言える相手は。
女性は可愛いものが好き。それは花穂にとって押し付けの価値観でしかない。
女性は気遣いを求められるが、本来それは男尊女卑の中で女性が身を守るために身につけたものでしかない。
変わらない価値観。どんなに多様性が認められても、偏見がなくならないのは変わらない価値観を押しつけてきたから。
時代遅れの人々は今日もショーウィンドウの中で変わらない時を過ごす。
見た目だけが同じ時代で独り歩きしていることに気づかずに。
誰とつき合っても心惹かれないのは価値観が合わないから。きっとそれだけ。
「どうかした?」
「ううん」
甘えるようにすり寄れば、背中に腕を回し花穂を胸に抱き寄せる奏斗。
否定をしないことは、肯定するよりも難しいことなのだと気づいたのは奏斗がいたから。
スカートやワンピースよりもパンツスタイルを好み、流行りの邦楽よりも古い洋楽を好む花穂は、つき合うと相手にガッカリされることの方が多かった。
しかも好む音楽はメタルロック。好きな映画はミステリーやアクション。
『可愛い女のコ』というものから、とことん遠ざかっていた。
あの日も車内で流していたのはお気に入りのメタルロック。
『こういうの好きなの?』
助手席の奏斗にそう質問され、またかと思った。
しかし彼は、
『いい曲だな。なんて曲?』
と続けたのだ。
女っぽくないと言われ続けた花穂にとって、奏斗が特別になるのにそう時間はかからなかった。
恋とは不思議なものだ。
好きだと自覚すると、嫌われたくないとおもい始める。好かれたいと望んでしまう。
だが当時の彼は我が義弟と恋人関係にあった。
──義弟の前の恋人は女性。
パンセクシャルなのか、それともバイセクシュアルなのか。
まもなく彼が前者なのだと知る。
後者ならまだ希望があったかも知れない。
「何考えてる?」
「奏斗のこと」
「俺のこと?」
彼の質問に素直に返答すれば不思議そうな顔をされる。
「うん。好きになったきっかけを思い出してたの」
それは是非とも知りたいね、と言われ花穂は瞳を揺らした。
彼が自分に、興味を示すのが意外に感じたからだ。
もしかしたから彼もまた、言葉にせずに過ごしてきたのかも知れない。
「話すのは構わないわ。でも、その前に一つちゃんと言っておかないといけないことがある」
「うん?」
花穂の言葉に、奏斗は不安そうに眉を寄せる。そんな顔をさせたいわけではないのにと思うと、勝手に涙が溢れた。
「わたし、ずっとね」
「うん」
「奏斗のことが、好きだったの。だから、本当は別れたくなんてなかった」
ごめんなさいと謝る花穂を優しく抱きしめてくれる、彼。
「わたしの身勝手な言動で苦しめて……こんな」
あの時、自分が近づきさえしなければ。奏斗はきっと誰も傷つけずに済んだ。ずっと後悔している。
でも、感謝もしている。
「そんなこと言うなよ。だって俺は……」
どこからやり直せば救われるのだろう? 花穂はそんなことを考えながら彼の言葉を聞いていたのだった。
それはもちろん、人によって違うだろう。
見た目だけならば好みの人を見つけるのは容易い。しかし、恋をするかと言われたら不確かだ。
色んな人とおつき合いして気づいたことがある。
『どんな人間でも、多少なり偏見を持つ』ということだ。
それは大人や周り、メディアによって植え付けられたイメージも含む。
例えば、男の子はロボットが好き。女の子は人形が好きと言うものだ。
人の好みは環境や思想などによって左右されるものであり、持って生まれた感覚も作用するだろう。
多様性の尊重とは多様性が当たり前に存在し、人によって好みが違うのが当たり前であると認識すること。単にそれだけ。
女だからこう。
男だからこう。
それは誰かが勝手に决めた価値観であり、万民に適用されるものではない。
これは、当たり前のこと。
しかし人は偏見にまみれた生き物でもある。
──奏斗だけだったの。
好きなものを好きと言える相手は。
女性は可愛いものが好き。それは花穂にとって押し付けの価値観でしかない。
女性は気遣いを求められるが、本来それは男尊女卑の中で女性が身を守るために身につけたものでしかない。
変わらない価値観。どんなに多様性が認められても、偏見がなくならないのは変わらない価値観を押しつけてきたから。
時代遅れの人々は今日もショーウィンドウの中で変わらない時を過ごす。
見た目だけが同じ時代で独り歩きしていることに気づかずに。
誰とつき合っても心惹かれないのは価値観が合わないから。きっとそれだけ。
「どうかした?」
「ううん」
甘えるようにすり寄れば、背中に腕を回し花穂を胸に抱き寄せる奏斗。
否定をしないことは、肯定するよりも難しいことなのだと気づいたのは奏斗がいたから。
スカートやワンピースよりもパンツスタイルを好み、流行りの邦楽よりも古い洋楽を好む花穂は、つき合うと相手にガッカリされることの方が多かった。
しかも好む音楽はメタルロック。好きな映画はミステリーやアクション。
『可愛い女のコ』というものから、とことん遠ざかっていた。
あの日も車内で流していたのはお気に入りのメタルロック。
『こういうの好きなの?』
助手席の奏斗にそう質問され、またかと思った。
しかし彼は、
『いい曲だな。なんて曲?』
と続けたのだ。
女っぽくないと言われ続けた花穂にとって、奏斗が特別になるのにそう時間はかからなかった。
恋とは不思議なものだ。
好きだと自覚すると、嫌われたくないとおもい始める。好かれたいと望んでしまう。
だが当時の彼は我が義弟と恋人関係にあった。
──義弟の前の恋人は女性。
パンセクシャルなのか、それともバイセクシュアルなのか。
まもなく彼が前者なのだと知る。
後者ならまだ希望があったかも知れない。
「何考えてる?」
「奏斗のこと」
「俺のこと?」
彼の質問に素直に返答すれば不思議そうな顔をされる。
「うん。好きになったきっかけを思い出してたの」
それは是非とも知りたいね、と言われ花穂は瞳を揺らした。
彼が自分に、興味を示すのが意外に感じたからだ。
もしかしたから彼もまた、言葉にせずに過ごしてきたのかも知れない。
「話すのは構わないわ。でも、その前に一つちゃんと言っておかないといけないことがある」
「うん?」
花穂の言葉に、奏斗は不安そうに眉を寄せる。そんな顔をさせたいわけではないのにと思うと、勝手に涙が溢れた。
「わたし、ずっとね」
「うん」
「奏斗のことが、好きだったの。だから、本当は別れたくなんてなかった」
ごめんなさいと謝る花穂を優しく抱きしめてくれる、彼。
「わたしの身勝手な言動で苦しめて……こんな」
あの時、自分が近づきさえしなければ。奏斗はきっと誰も傷つけずに済んだ。ずっと後悔している。
でも、感謝もしている。
「そんなこと言うなよ。だって俺は……」
どこからやり直せば救われるのだろう? 花穂はそんなことを考えながら彼の言葉を聞いていたのだった。
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