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5話 本音を聞かせて【Side:奏斗】
18 誤解と真相
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奏斗は花穂のマンションへたどり着くと助手席に置いてあったスマホを取り上げ、車から降りる。
キーケースをお尻のポケットに入れ、エントランスへ。エレベーターを待っている間、再びスマホに目を向ける。
拒否されたのは初めてだった。理由があるのは分かる。だが、今会わなきゃいけない気がしていた。
チンという高い音がし、エレベーターの扉が開く。箱に乗り込むと目的の階のボタンを押しスマホをパーカーのポケットにしまう。
思うことは色々ある。
自分がしてきたことを振り返れば、最低なヤツだなとしか思えない。
罪悪感を抱えて相手の言いなりになったところでそこに誠意なんてものはないのに。
責任を感じて強く拒否できない自分。それはただ、相手を傷つけ続けているのと変わらないのに。
初めからちゃんと逃げずに向き合えば、良かったのだ。怖がらずに話し合えばよかったのに。
目的の階にたどり着くと、扉が開くまでの数秒がもどかしかった。
たった一週間がとても長く感じている。投げ捨てるように言葉を投げて去った手前、自分から連絡するのは躊躇われた。
他人の言葉で自信を取り戻すなんて、我ながら身勝手だ。それでも手放したくないものがあったから、ここへ来た。
深呼吸をし、チャイムを押す。
『奏斗? ダメって言ったのに』
インターフォン越しの弱々しい声。
「どうしてダメ?」
『だって、メイクもしてないし髪だって……それに、今』
「いいよ、そんなの」
開けようとすれば開けることはできる。だが無理矢理には意味がない。
『こんな姿、奏斗には見られたくないの』
「なんで?」
開けたいのは心の扉。
抱きしめたいのはその心。
『なんでって……いい加減に気づきなさいよ、この鈍感男!』
「開けてよ」
『今日はイヤ』
「もう、俺のこと嫌い?」
ズルいということくらいわかってる。彼女からの返事はなかった。
怒らせたかなとうつむいていると、鍵の外れる音。続いて控えめに開けられたドア。
「奏斗はズルい!」
抗議の声。奏斗はドアに手をかけると軽く引いた。
「どうしたの? それ」
会いたくないという本当の理由。それに気づき、奏斗は玄関に身体を滑り込ませると後ろ手で静かにドアを閉めた。
「あなたのせいよ」
「俺の?」
花穂の目は赤くなって腫れていた。
奏斗は傍まで近づくと、腕を掴み胸に抱きしめる。
「あんなこと言われたら……どうしていいのかわからないわ」
奏斗の胸に顔を埋め、ぎゅっと背中に腕を回す花穂。
「わたしは、友達でいいから側にいたかったの」
「うん」
「ずっと考えてる。あの時、奏斗の言った言葉の意味を」
なんのことか分からず、ただ黙って話を聞いていた。
「最後の日、わたしに言ったわよね? もう、いいの? って」
「言ったな」
期間限定のつき合いは、想像とまったく違っていて。執着されることもなく、あっさり終わりを告げた。
終わってみれば、楽しいと感じた時間の方が多かったのだ。そう思っているのは自分だけなのかと思ったから、そんな風に意味ありげに問いかけた。
彼女は少し考えたあと、
『そういう約束でしょ』
と微笑んだのである。
その時は分からなかったが、今なら分かる。惚れたのは自分の方なのだと。
「あの時、別れたくないって言ったら違う未来があったのかなって」
「別れたく……なかった?」
「なんでそんな意地悪な質問するのよ、バカ」
涙声で抗議する花穂。
「そんなこと言われても。妬かれたことも束縛されたこともないし」
「何よ、そんなの我慢してたに決まってるじゃない。わたしは聖人君子じゃないの。好かれてもないのに束縛なんか出来ないわよ」
奏斗はため息をついた。
「悪かったよ」
「は? ちょっと、何謝ってるの? 意味不明なんだけど」
「とりあえず、部屋行こう。その格好じゃ風邪ひく」
花穂は膝上のTシャツ一枚という姿。
「うん……」
名残り惜しいというように渋々離れる花穂があまりにも可愛いので、奏斗は小さく笑うと彼女を抱き上げた。
「ちょ! いいわよ。わたし重いし!」
「危ないから、大人しくしてて」
「う……はい」
奏斗はクスッと笑うと廊下からリビングに向かったのだった。
キーケースをお尻のポケットに入れ、エントランスへ。エレベーターを待っている間、再びスマホに目を向ける。
拒否されたのは初めてだった。理由があるのは分かる。だが、今会わなきゃいけない気がしていた。
チンという高い音がし、エレベーターの扉が開く。箱に乗り込むと目的の階のボタンを押しスマホをパーカーのポケットにしまう。
思うことは色々ある。
自分がしてきたことを振り返れば、最低なヤツだなとしか思えない。
罪悪感を抱えて相手の言いなりになったところでそこに誠意なんてものはないのに。
責任を感じて強く拒否できない自分。それはただ、相手を傷つけ続けているのと変わらないのに。
初めからちゃんと逃げずに向き合えば、良かったのだ。怖がらずに話し合えばよかったのに。
目的の階にたどり着くと、扉が開くまでの数秒がもどかしかった。
たった一週間がとても長く感じている。投げ捨てるように言葉を投げて去った手前、自分から連絡するのは躊躇われた。
他人の言葉で自信を取り戻すなんて、我ながら身勝手だ。それでも手放したくないものがあったから、ここへ来た。
深呼吸をし、チャイムを押す。
『奏斗? ダメって言ったのに』
インターフォン越しの弱々しい声。
「どうしてダメ?」
『だって、メイクもしてないし髪だって……それに、今』
「いいよ、そんなの」
開けようとすれば開けることはできる。だが無理矢理には意味がない。
『こんな姿、奏斗には見られたくないの』
「なんで?」
開けたいのは心の扉。
抱きしめたいのはその心。
『なんでって……いい加減に気づきなさいよ、この鈍感男!』
「開けてよ」
『今日はイヤ』
「もう、俺のこと嫌い?」
ズルいということくらいわかってる。彼女からの返事はなかった。
怒らせたかなとうつむいていると、鍵の外れる音。続いて控えめに開けられたドア。
「奏斗はズルい!」
抗議の声。奏斗はドアに手をかけると軽く引いた。
「どうしたの? それ」
会いたくないという本当の理由。それに気づき、奏斗は玄関に身体を滑り込ませると後ろ手で静かにドアを閉めた。
「あなたのせいよ」
「俺の?」
花穂の目は赤くなって腫れていた。
奏斗は傍まで近づくと、腕を掴み胸に抱きしめる。
「あんなこと言われたら……どうしていいのかわからないわ」
奏斗の胸に顔を埋め、ぎゅっと背中に腕を回す花穂。
「わたしは、友達でいいから側にいたかったの」
「うん」
「ずっと考えてる。あの時、奏斗の言った言葉の意味を」
なんのことか分からず、ただ黙って話を聞いていた。
「最後の日、わたしに言ったわよね? もう、いいの? って」
「言ったな」
期間限定のつき合いは、想像とまったく違っていて。執着されることもなく、あっさり終わりを告げた。
終わってみれば、楽しいと感じた時間の方が多かったのだ。そう思っているのは自分だけなのかと思ったから、そんな風に意味ありげに問いかけた。
彼女は少し考えたあと、
『そういう約束でしょ』
と微笑んだのである。
その時は分からなかったが、今なら分かる。惚れたのは自分の方なのだと。
「あの時、別れたくないって言ったら違う未来があったのかなって」
「別れたく……なかった?」
「なんでそんな意地悪な質問するのよ、バカ」
涙声で抗議する花穂。
「そんなこと言われても。妬かれたことも束縛されたこともないし」
「何よ、そんなの我慢してたに決まってるじゃない。わたしは聖人君子じゃないの。好かれてもないのに束縛なんか出来ないわよ」
奏斗はため息をついた。
「悪かったよ」
「は? ちょっと、何謝ってるの? 意味不明なんだけど」
「とりあえず、部屋行こう。その格好じゃ風邪ひく」
花穂は膝上のTシャツ一枚という姿。
「うん……」
名残り惜しいというように渋々離れる花穂があまりにも可愛いので、奏斗は小さく笑うと彼女を抱き上げた。
「ちょ! いいわよ。わたし重いし!」
「危ないから、大人しくしてて」
「う……はい」
奏斗はクスッと笑うと廊下からリビングに向かったのだった。
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