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5話 本音を聞かせて【Side:奏斗】
17 彼女の真実に触れる
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「ちょちょちょ! 白石くーん? 目が死んでますよ?」
「ん?」
壁に寄りかかりぼんやりとスマホの画面を見つめていた奏斗は、声をかけられそちらに視線を向けたが再びスマホの画面へと戻す。
「え? スルー? 冷たくなーい?」
「おい、古川。うるさいぞ。放っておいてやれよ」
奏斗にまとわりつく古川に見かねた圭一が声をかける。
彼はしぶしぶというように離れていった。
夕飯の誘いを受けて訪れた大里邸。
あれから一週間、花穂とは連絡を取っていなかった。大崎圭一の幼馴染みの大里愛花は、花穂と仲が良いと聞いている。もしかしたらと期待しなかったわけではない。いや、期待したからこそここへ来たのだ。
「お座りになりませんの?」
エレガントなドレスに身を包んだ愛花が奏斗の近くへ来て問う。
「ゴージャスすぎて居心地が悪くて」
と本音を漏らすとバルコニーへ誘われた。
月が綺麗な夜。
「あの子、強情ですわよね」
あの子というのが花穂のことを指していることに気づいても、同意すべきか迷う。そもそも何について強情なのかもわからない。
「こんなことを言ったら怒られそうですが」
彼女は前置きをして。
「わたしが花穂に噂の話をしましたのよ?」
おそらく発端のことなのだろう。
「そしたら、噂の彼に興味を持って、写真が見たいと。一応、止《と》めましたが」
「それは何故?」
「あなたが花穂の好みのタイプだからですわ」
つまり、花穂は和馬と姉弟になる前から奏斗のことを知っていたというカミングアウトなのだ。その事実に気づくまで少し時間を要した。
──じゃあ、あの時紹介してくれと言ったのは……。
その場で奏斗を見て、好みのタイプだと言ったわけではなかったということ。付き合うことになった時の経緯を思い出す。自分はいろいろと彼女のことを誤解していたようだ。
「付き合ったといった時もびっくりしましたが、別れたという話を聞いた時も驚きましたの」
花穂が愛花に自分とのことをどう話していたのか知らない。
もしかしたら、彼女の好きな人というのも分かるかもしれないと思い奏斗は愛花の話を黙って聞いていた。
「どうして別れたのか理由を聞いても、そういう約束だからの一点張りで」
つき合っていた時、とても楽しそうだったのにと付け加えて。
「楽しそうだった?」
そこには違和感を持った。
「ええ、とても。お誘いをするときは、報告してくれる時が多かったかしら? 何度か元気のないところも見ましたの。そういう時は決まって『忙しいみたい』と言っておりましたわね」
誘いを断っても、彼女は文句ひとつ零したことはない。
いつだって『そうなの。じゃあ、また誘うわね』と明るい返事が来たものだ。がっかりしているところなんて、一度もみたことがない。
「あの……」
「どうしまして?」
「花穂の好きな人って」
奏斗の問いに愛花は”信じられない”という表情をする。
「あなた……鈍感にもほどがありましてよ?」
「いや……だって一度も好きだなんて言われたことないし」
奏斗は”帰ります”と告げると慌ててその場を後にした。
好きだと言われたことは確かにない。
そして好きだと告げたこともない。
言えなくしたのは自分。
言えない状況にしたのも、きっと自分。
そう思ったら泣きたくなった。
車に乗り込んだ奏斗はスマホを取り出すと花穂に電話をかける。
「……くそっ。なんで出ないんだよ」
自分と出会う前の彼女のことを思い出し、舌打ちした。もしかしたら他の男といるかもしれない。そう思うと気が気ではない。
車のキーに目を向ける。キーケースには彼女のマンションのキーもかかっていた。
誰かと一緒にいるところなんて見たくはない。
『何よ、男なんて連れ込んでないわよ?』
花穂の言っていたことが頭をよぎる。
まだその言葉は有効だろうか?
そんなことを思っていると、着信が。
「花穂?」
『何よ……怖いわよ、連続でこんなに。何かあったの?』
声が震えている。
「会いたい。家、行っていい?」
『やっ……今から? だ、ダメよ。だって、散らかって』
奏斗は花穂の静止も聞かずスマホを助手席に置くと、シートベルトを締めアクセルを踏み込んだ。
「ん?」
壁に寄りかかりぼんやりとスマホの画面を見つめていた奏斗は、声をかけられそちらに視線を向けたが再びスマホの画面へと戻す。
「え? スルー? 冷たくなーい?」
「おい、古川。うるさいぞ。放っておいてやれよ」
奏斗にまとわりつく古川に見かねた圭一が声をかける。
彼はしぶしぶというように離れていった。
夕飯の誘いを受けて訪れた大里邸。
あれから一週間、花穂とは連絡を取っていなかった。大崎圭一の幼馴染みの大里愛花は、花穂と仲が良いと聞いている。もしかしたらと期待しなかったわけではない。いや、期待したからこそここへ来たのだ。
「お座りになりませんの?」
エレガントなドレスに身を包んだ愛花が奏斗の近くへ来て問う。
「ゴージャスすぎて居心地が悪くて」
と本音を漏らすとバルコニーへ誘われた。
月が綺麗な夜。
「あの子、強情ですわよね」
あの子というのが花穂のことを指していることに気づいても、同意すべきか迷う。そもそも何について強情なのかもわからない。
「こんなことを言ったら怒られそうですが」
彼女は前置きをして。
「わたしが花穂に噂の話をしましたのよ?」
おそらく発端のことなのだろう。
「そしたら、噂の彼に興味を持って、写真が見たいと。一応、止《と》めましたが」
「それは何故?」
「あなたが花穂の好みのタイプだからですわ」
つまり、花穂は和馬と姉弟になる前から奏斗のことを知っていたというカミングアウトなのだ。その事実に気づくまで少し時間を要した。
──じゃあ、あの時紹介してくれと言ったのは……。
その場で奏斗を見て、好みのタイプだと言ったわけではなかったということ。付き合うことになった時の経緯を思い出す。自分はいろいろと彼女のことを誤解していたようだ。
「付き合ったといった時もびっくりしましたが、別れたという話を聞いた時も驚きましたの」
花穂が愛花に自分とのことをどう話していたのか知らない。
もしかしたら、彼女の好きな人というのも分かるかもしれないと思い奏斗は愛花の話を黙って聞いていた。
「どうして別れたのか理由を聞いても、そういう約束だからの一点張りで」
つき合っていた時、とても楽しそうだったのにと付け加えて。
「楽しそうだった?」
そこには違和感を持った。
「ええ、とても。お誘いをするときは、報告してくれる時が多かったかしら? 何度か元気のないところも見ましたの。そういう時は決まって『忙しいみたい』と言っておりましたわね」
誘いを断っても、彼女は文句ひとつ零したことはない。
いつだって『そうなの。じゃあ、また誘うわね』と明るい返事が来たものだ。がっかりしているところなんて、一度もみたことがない。
「あの……」
「どうしまして?」
「花穂の好きな人って」
奏斗の問いに愛花は”信じられない”という表情をする。
「あなた……鈍感にもほどがありましてよ?」
「いや……だって一度も好きだなんて言われたことないし」
奏斗は”帰ります”と告げると慌ててその場を後にした。
好きだと言われたことは確かにない。
そして好きだと告げたこともない。
言えなくしたのは自分。
言えない状況にしたのも、きっと自分。
そう思ったら泣きたくなった。
車に乗り込んだ奏斗はスマホを取り出すと花穂に電話をかける。
「……くそっ。なんで出ないんだよ」
自分と出会う前の彼女のことを思い出し、舌打ちした。もしかしたら他の男といるかもしれない。そう思うと気が気ではない。
車のキーに目を向ける。キーケースには彼女のマンションのキーもかかっていた。
誰かと一緒にいるところなんて見たくはない。
『何よ、男なんて連れ込んでないわよ?』
花穂の言っていたことが頭をよぎる。
まだその言葉は有効だろうか?
そんなことを思っていると、着信が。
「花穂?」
『何よ……怖いわよ、連続でこんなに。何かあったの?』
声が震えている。
「会いたい。家、行っていい?」
『やっ……今から? だ、ダメよ。だって、散らかって』
奏斗は花穂の静止も聞かずスマホを助手席に置くと、シートベルトを締めアクセルを踏み込んだ。
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