R18【異性恋愛】第三の選択─Even if it's not love─

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4話 理解できない彼【Side:花穂】

16 運命はこの手に

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「え? は?」
 それは当然の反応だと思う。
 花穂のマンションの部屋まで迎えに来た奏斗は、花穂から申告されたことを聞いてこちらを二度見した。
「結菜に会った?」
「うん、それでね。なつかれて……」
「連絡先を交換した?!」
「そうなの」
「ちょ……え? なんで?」
 激しく動揺する彼を上目遣いで見つめながら、
「成り行き?」
と言葉を発する花穂。

「なにがどうしたらそうなるの」
 額に手をあてる奏斗。
「結菜ちゃん、いい子ね」
 花穂の言葉に”そうだな”とため息をつく彼。やはり余計なことをしてしまっただろうか。
 奏斗はあきらめたように壁に寄りかかると、
「結菜は素直だし可愛いから……きっと俺じゃなくても相手はいくらでもいる」
「なによ、そんな言い方」
「愛美は美人だし、自分をしっかり持っているから俺がいなくても大丈夫……だと思う」
 切なげに寄せられた眉。何か心境の変化があったのだろうか。
 その先を聞きたくなかった花穂は、
「わたしは性格が悪いとでも言いたいの?」
とあえて挑発的な言葉を投げる。
 だが彼はその挑発には乗らなかった。

 花穂に腕を伸ばすと腰を引き寄せ、
「花穂は……」
「え?」
 それは幻聴だったのだろうか。
 耳元で小さく囁かれた言葉。
「今……」
「嫌?」

──『俺が幸せにするから』って言った?
 幻聴じゃないの……?
 それとも冗談?

「まだ学生だし、すぐにとはいかないけれど。もっとも、その前にしなきゃならないこともあるしな」
「ちょ……待ってよ、奏斗。冗談言ってる?」
「なんでこんな冗談言わなきゃならんの」
 ”本気なんだが?”
と抱きしめられ思考が停止する。

「それって、わたしに好きな人がいるから闘争心が疼いてとかじゃないの?」
「は?」
 素のトーン。”何言ってんの? あんた”と言う視線が痛い。
 こっちだってこんな”棚ぼた”状況、現実だなんて思えないのだ。
 二股かけてるモテ男が、突然自分を選ぶだなんてこと。
 好きだなんて言ったことはないし、好かれるようなこともした覚えはない。ずっと諦めながら傍にいたというのに。

「じゃあ、聞くけど」
 本当は聞きたくはないという気持ちの伝わってくる言い方だ。
「花穂の好きな人って?」
「それは」
 花穂は奏斗のシャツを掴む。
 確かに第三の選択を提示しようとした自分はいる。しかし提示はしなかったはずだ。今はしなくて良かったと思っている。
 『大川結菜』は良い子だ。奏斗のことで悩んでいることをたくさん聞いた。
 彼のことがどれほど好きなのか痛いほど伝わってきたのに。
「結菜ちゃんは良い子よ? 奏斗のことがすごく好きなの」
「知ってる」

 酷い人だと思った。
 知っていて別れるつもりでいるのだ。
 もし自分も好きだといえば、その別れは決定的になるだろう。

『奏斗くんと一緒にいるとすごく幸せな気持ちになるんです。似たもの同士だから、わかってあげられることも多いと思うし。もちろんわかってくれることも多い。ずっと一緒にいたいなって思うの』
 邪気のない笑顔で笑う結菜。
 彼女の幸せをこの手で奪うことができるだろうか?
 そんな残酷なことが。

 奏斗はじっと花穂を見つめていたが、小さくため息をつくと、
「俺が結菜を選ぶことが花穂の望みなのか?」
と問われる。
 何も答えられなかった。
 答えられるわけがない。
 結菜を応援したい気持ちはある。だがYESと答えたら、彼は永遠に自分のもとを去るだろう。

「友人に『自分の手で幸せにしたいのは誰なのか、じっくり考えることだ』って言われた。よく考えたよ。何故選べないのか、答えも出た」
 ”俺は二人に対し、責任を感じているだけなんだよ”と彼は続けて。
「花穂はどうなんだ?」
と問う。
 だがどう返していいのかわからなかった。
 瞬きをしたのち、俯く花穂。
「俺はね、花穂といると自然体でいられる。居心地がいいから一緒にいたいと思う」

 ”俺じゃ、ダメなの?”
 それは、切ない問いかけ。
 花穂が黙ったままなのを見て、
「もう、いいよ」
と言って彼は部屋を出て行ったのだった。
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