R18【異性恋愛】第三の選択─Even if it's not love─

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
15 / 77
3話 愁いと日常【Side:奏斗】

10 理想と現実の差異

しおりを挟む
 考えることを放棄しても現実はなんら変わらない。そんなことはわかっているつもりだ。
 古川が用があると言って先に帰ると、
「で、大丈夫なのか?」
と大崎圭一に問われた。
 正直、大丈夫だったためしは一度もない。だが、大丈夫かと聞かれたら大丈夫と答えるものなのだ。
 大丈夫ではないと言うには勇気がいる。

 圭一は古川の車で来たと言うので、店を出た二人はドライブがてらに夜景の見える丘に来ていた。
 月明かりのもと、街の灯りが見下ろせる静かな場所。
 手すりに腰掛けていた圭一は、両手をズボンに突っ込み立ち尽くす奏斗にチラリと視線を移した。
「大丈夫……なわけ、ないか」
 これが古川の気遣いだということには気づいている。圭一は忙しい人だ。その上、無口な方。
 思うことがあったとしても、自分から奏斗を誘うことはしない。それでも奏斗の話し相手として彼が適任であると古川が判断し、こんな風に二人で話せるように場を設けたということなのだ。

「古川はイイヤツだな」
 奏斗が苦笑し肩をすくめると、圭一が一瞬驚いた表情をしたのち、嫌な顔をする。
「俺にとっては嫌なやつだ」
と、圭一。
 それは奏斗を押し付けたからかと思ったが、
「一人で人気を独占しやがる。俺の弟も早々に懐いたしな」
 彼には確か三つ下の弟がいた。溺愛しているという噂を聞いたことはあるが、懐いたくらいで友人を敵視するのはいかがなものかと思う。

「今、心の狭いやつだと思ったろ」
と圭一。
「いや、別に」
 普段は無口だが、二人きりになると饒舌になる者は意外と多いものだ。圭一もその部類だなと奏斗は思っていた。
「嘘が下手だな、白石」
「そうかな」
 奏斗は笑みを浮かべると街に目をやる。

「白石は……受け身というわけでもないのに、押しには弱いよな」
 三股かけている原因の話だろうか?
「なんで、そんなことになってるんだ?」
 聞いたところで、何もできないだろうがと圭一は付け加えて。
「長くなるよ」
「気にするな、暇人だから」
 お前の辞書に暇なんて言葉、ないだろと思いながらも奏斗はその言葉に甘えることにした。

 発端はどこにあったのだろうか?
 自分には高等部時代、塾で出逢った恋人がいた。
 ロングのストレートの黒髪、色白の美少女。清楚系というのだろうか。一見大人しそうに見える彼女のハッキリとした物言い、凛とした姿に惚れた。
 自分でも凄く強引だったと思う。何もしないという約束でおつき合いを承諾してもらった。遊んでいるように見える奏斗は、信用がなかったのだ。
 だが彼女とはケンカ別れしてしまう。
 これが運命の分かれ道だったに違いない。

──愛美に対しては、いつだって自信がなかった。別れたその後も好きでいてくれるなんて、奇跡としか言いようがない。

「馬鹿だったんだよ」
 彼女『美月愛美』の存在が自分の中でこんなに大きかったとは。
 二度と会えなくても愛しぬく、それくらいの気持ちがあればこんな事にはならなかったのに。
「寂しがり屋なんじゃないのか?」
 圭一にそう言われ、軽く唇を噛む奏斗。一人の人を十年も愛し続けて結ばれた圭一には、どう転んでも敵いっこない。

「好きな人の為に全てを差し出す、自己犠牲の愛。それ自体は悪いとは思わないが」
 その後、自分を騙そうとしていた相手に惚れ、その人のために自分を犠牲にしたつもりだった。
 割り切った関係だと思っていたのに。
「好き……なんじゃないのか? 引きずるってことは、さ」
「そう、なのかな」
 愛美との未来を思い描いていた自分。現実には別れることとなり他の人と体を重ねた。
 そんな自分が許せないでいる。許すことが出来ないまま愛美と再会。
 結果、ややこしい事態に陥った。

「俺が思うに、白石は『美月さん』に理想を押しつけているんじゃないのかと思う」
 つき合い方も含めて、と彼は言う。
「その理想にハマらない自分に苦悩して、逃げてる」
 圭一の言うことは正しいと思う。
「自暴自棄になるのは良くない」
 だが、何もかもが手遅れなのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

社長の×××

恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。 ある日突然異動が命じられた。 異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。 不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。 そんな葵に課長は 「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」 と持ちかける。 決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。 果たして課長の不倫を止めることができるのか!? *他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...