6 / 77
2話 瞳に映るもの【Side:花穂】
5 花穂の本音
しおりを挟む
──何考えてんのよ、もう。
今は交際していた頃とは違う。
期間限定の恋人同士で、あっさり終わったのだ。
そして、一年何事もなく過ぎた。
彼を始めて知ったのは大学の先輩の話の中である。彼女の妹の同級生が酷い噂を立てられているが、本人は我関せずといったように飄々としているのと言うのだ。
派手な容姿のイケメンで、元々人気はあったが恋人がいたため行動に出る者はいなかった。
恋人と別れ、毎日友人と遊び歩くようになったとか。それがどうして、派手に女遊びをしていると噂を流されたのか。
花穂は興味を持ち、その先輩に写真はないのか? と問うた。
すると、
「所持しておりますが、見ないほうが良いと思いましてよ?」
と言われてしまう。
「どうしてですか?」
「うーん……後悔すると思いますの」
噂ではイケメンだというではないか。見て後悔するとは、どういうことなのか。
どうしても見たいと懇願すると、
「自己責任でしてよ」
と言いながらスマホをこちらに向けた。
確かに後悔はしたと思う。
──あれは、一目惚れって言うのよね。
あのあと父が再婚し、義弟できた。まさか噂の彼とクラスメイトだとは思わなかったが。
その後、自分をフったOBが義弟とただならぬ関係になっていることを知り、そこに彼が関わっていることを知った。
──あんなあっさり代わりを引き受けるなんて、思わなかった。
隣を歩く奏斗を見上げる。なんであの頃よりも複雑な事態になっているのか分からない。
正直、諦めるために付き合ったのだ。
中身を知れば嫌いになれるかも知れないと思ってもいた。
だが、つき合ってみてわかった。
奏斗は、理想通り。どんどん惹かれていく自分がいた。
この交際には期間がある。
だからそれを出すことはできなかった。
──好きの一言でも言えばよかったのかしら?
明らかに彼は病んでいる。
本人は気づいてないようだが。
襲ってもいいだなんて、どうかしている。彼は少なくともそんなことを言う人ではなかった。
──わたしが、そうしてしまったのかも知れない。
彼は他に好いた相手がいたのに、自分と何度も身体を重ねたのである。
別れて一年後に、二股をかけるような彼をみて思う。
こんなことになるならば、側にいれば良かったと。
奏斗が好きだったのは花穂の義弟。元カノと別れてボロボロになっていた奏斗を救ったのは彼だった。
追い打ちをかけたのは自分。身勝手なことをした自覚はある。
駐車場までくると、鍵を車に向けドアロックを外す。
手を繋いだまま運転席のドアに立つと、彼がじっとこちらを見つめていた。
彼と交際していた間は恐らく、夢のような時間だったと思う。
「奏斗、ダメだって」
口づけされそうになって彼の胸を押しのけようとすると、両手首を掴まれ動きを封じられてしまう。
「なんで?」
「なんでって……」
さっきは自分からしたくせにとでも言いたげな顔をする。
「花穂はズルいよ。いつだって俺を振り回すくせに」
切なげに眉を寄せる奏斗。
──期待してしまうからやめてほしいだけなのに。
花穂は抵抗をやめ、目を閉じた。途端に口づけられる。
「んん……ッ」
本当にどうしてしまったと言うのだろうか。
「んもっ……いい加減に……」
何度もしつこく唇を奪われ、さすがの花穂も我慢の限界を感じた。
この男は人の気も知らないでと、イラッとする。
「本当、襲うわよ」
怒りを含んだ花穂の言葉に奏斗が小さく笑う。
「いいよ。しようよ、花穂」
花穂は一瞬泣き出しそうな顔をした奏斗に息を飲む。そのまま抱きしめられて、そっとその背中に腕を回した。
泣きたいのを耐える。
自分には彼は救えないのだ。
壊すことはできても。
──わたしは無力。
愛した男に何もしてあげられはしない。
「そばにいてよ、花穂」
「そんなふうに縋るのはズルイわ」
断われるわけなんてないのに。
今は交際していた頃とは違う。
期間限定の恋人同士で、あっさり終わったのだ。
そして、一年何事もなく過ぎた。
彼を始めて知ったのは大学の先輩の話の中である。彼女の妹の同級生が酷い噂を立てられているが、本人は我関せずといったように飄々としているのと言うのだ。
派手な容姿のイケメンで、元々人気はあったが恋人がいたため行動に出る者はいなかった。
恋人と別れ、毎日友人と遊び歩くようになったとか。それがどうして、派手に女遊びをしていると噂を流されたのか。
花穂は興味を持ち、その先輩に写真はないのか? と問うた。
すると、
「所持しておりますが、見ないほうが良いと思いましてよ?」
と言われてしまう。
「どうしてですか?」
「うーん……後悔すると思いますの」
噂ではイケメンだというではないか。見て後悔するとは、どういうことなのか。
どうしても見たいと懇願すると、
「自己責任でしてよ」
と言いながらスマホをこちらに向けた。
確かに後悔はしたと思う。
──あれは、一目惚れって言うのよね。
あのあと父が再婚し、義弟できた。まさか噂の彼とクラスメイトだとは思わなかったが。
その後、自分をフったOBが義弟とただならぬ関係になっていることを知り、そこに彼が関わっていることを知った。
──あんなあっさり代わりを引き受けるなんて、思わなかった。
隣を歩く奏斗を見上げる。なんであの頃よりも複雑な事態になっているのか分からない。
正直、諦めるために付き合ったのだ。
中身を知れば嫌いになれるかも知れないと思ってもいた。
だが、つき合ってみてわかった。
奏斗は、理想通り。どんどん惹かれていく自分がいた。
この交際には期間がある。
だからそれを出すことはできなかった。
──好きの一言でも言えばよかったのかしら?
明らかに彼は病んでいる。
本人は気づいてないようだが。
襲ってもいいだなんて、どうかしている。彼は少なくともそんなことを言う人ではなかった。
──わたしが、そうしてしまったのかも知れない。
彼は他に好いた相手がいたのに、自分と何度も身体を重ねたのである。
別れて一年後に、二股をかけるような彼をみて思う。
こんなことになるならば、側にいれば良かったと。
奏斗が好きだったのは花穂の義弟。元カノと別れてボロボロになっていた奏斗を救ったのは彼だった。
追い打ちをかけたのは自分。身勝手なことをした自覚はある。
駐車場までくると、鍵を車に向けドアロックを外す。
手を繋いだまま運転席のドアに立つと、彼がじっとこちらを見つめていた。
彼と交際していた間は恐らく、夢のような時間だったと思う。
「奏斗、ダメだって」
口づけされそうになって彼の胸を押しのけようとすると、両手首を掴まれ動きを封じられてしまう。
「なんで?」
「なんでって……」
さっきは自分からしたくせにとでも言いたげな顔をする。
「花穂はズルいよ。いつだって俺を振り回すくせに」
切なげに眉を寄せる奏斗。
──期待してしまうからやめてほしいだけなのに。
花穂は抵抗をやめ、目を閉じた。途端に口づけられる。
「んん……ッ」
本当にどうしてしまったと言うのだろうか。
「んもっ……いい加減に……」
何度もしつこく唇を奪われ、さすがの花穂も我慢の限界を感じた。
この男は人の気も知らないでと、イラッとする。
「本当、襲うわよ」
怒りを含んだ花穂の言葉に奏斗が小さく笑う。
「いいよ。しようよ、花穂」
花穂は一瞬泣き出しそうな顔をした奏斗に息を飲む。そのまま抱きしめられて、そっとその背中に腕を回した。
泣きたいのを耐える。
自分には彼は救えないのだ。
壊すことはできても。
──わたしは無力。
愛した男に何もしてあげられはしない。
「そばにいてよ、花穂」
「そんなふうに縋るのはズルイわ」
断われるわけなんてないのに。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる