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1 想いに気づく時
6 ズルい自分と穏やかな午後
しおりを挟む「みんな、こんにちは。今日は友達を連れて来たんだ」
迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。
「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」
トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。
いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。
「ラナ、今日はリアはいないの?」
リッチがラナに尋ねた。
「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」
がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。
その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。
とりあえず、少し緊張をほぐすか。
「孤児院の皆様に贈り物がありますの」
オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。
「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」
シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。
ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。
これは…もしかしてバレた?
とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。
◇◇◇
その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。
シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。
オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。
それが楽しくて時間もあっという間だった。
そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。
身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。
「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」
シスターが慌てて、シレネを連れて来る。
男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。
ロケットペンダントだ。
「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」
その後は孤児院は大騒ぎだった。
ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。
ん?王道?
最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。
今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。
子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。
いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。
そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。
ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。
「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」
子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。
「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」
貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。
「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」
戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。
「見ててくださいの」
オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。
水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。
「わあ、綺麗!」
シレネが目をキラキラとさせた。
そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。
これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。
美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。
「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」
オレはシレネの手をギュッと握った。
「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」
シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。
ーーー
次話、第一部の最終話です。
迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。
「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」
トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。
いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。
「ラナ、今日はリアはいないの?」
リッチがラナに尋ねた。
「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」
がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。
その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。
とりあえず、少し緊張をほぐすか。
「孤児院の皆様に贈り物がありますの」
オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。
「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」
シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。
ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。
これは…もしかしてバレた?
とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。
◇◇◇
その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。
シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。
オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。
それが楽しくて時間もあっという間だった。
そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。
身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。
「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」
シスターが慌てて、シレネを連れて来る。
男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。
ロケットペンダントだ。
「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」
その後は孤児院は大騒ぎだった。
ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。
ん?王道?
最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。
今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。
子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。
いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。
そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。
ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。
「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」
子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。
「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」
貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。
「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」
戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。
「見ててくださいの」
オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。
水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。
「わあ、綺麗!」
シレネが目をキラキラとさせた。
そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。
これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。
美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。
「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」
オレはシレネの手をギュッと握った。
「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」
シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。
ーーー
次話、第一部の最終話です。
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