6 / 16
2話 わたしの好きな人 【Side:荻那 馨】
2 彼からの印象
しおりを挟む
「青城くんもやっぱり蜜花のようなタイプは可愛いと思う?」
「も?」
再び歩き出す紅に続いて歩を進める荻那。
紅は不思議そうにこちらへ視線を向けた。
”も”がどこにかかっているのか思案しているのだろうか。少し間を置き、彼は言う。
「それは見た目に関して言っているの」
「そう、なっちゃうのかな」
そこである疑念が湧く。話の流れから”も”は『有馬』か『一般的』にかかると考えるのが自然。だが彼は不思議そうな表情をした。誰と比べているのか分からなかったからだろう。
──ということは、有馬が青城くんに対して『蜜花が可愛い』と言ったことがないと想像できるのだけど。
それには非常に違和感が湧く。
紅が気を遣うほどに、有馬が蜜花のことを好きであると言っている”はず”なのに。少なくとも紅はそう感じるから二人きりにしようとした。そう、思えるのに何かが変である。
「見た目か……ツインテールはポイントが高いとは思うが、絶対領域も負けてないと思うんだよな。どっちも良いと思う」
「?」
荻那には紅の言っていることが判り兼ねた。
「俺たちは日常的に『可愛い』と言う言葉を使うけれど、元々は小さきものを差して使われる言葉だったんだよね。だから少なくとも人を対象にした場合は、目下の者に対して使う言葉なんだと思うわけだよ」
言わんとしていることは分かるが、何故その説明をしようとしているのか分からない。
「だからそのことを踏まえると、同級生に向けていい言葉なのか迷うし。何よりもセクハラじゃないかなとか思ったりも」
そこで紅のことが少し理解が出来た。
──有馬は青城くんのことはよく知っているはず。
つまり、有馬が蜜花のことを可愛いと称さなくても不思議ではないと言うことね。
そんなことを紅に対して発言したら『セクハラだぞ』と言われるから有馬は言わなかった可能性がある、ということだ。
「でも、わたしは青城くんにだったら可愛いって言われても嬉しいかな」
「そう?」
そこで何故か彼は複雑な表情をした。それは彼への好きが伝わってしまったからなのかと思ったが。
荻那はふと、紅が言っていた『どっちも良いと思う』という言葉が気になってスマホで検索してみたところ『絶対領域』が何を指しているのか理解した。
──わあ。ちゃんと褒められている!
荻那はスカートの裾を抑え、頬を赤らめる。街路樹を見上げる紅の方をチラリと見つつ。紅が複雑な表情をしたのは『可愛い』と発言したことに荻那が気づいていなかったからなのかもしれないし、褒めた部位がセクハラに当たるからなのかもしれなかった。
──青城くんらしいな。
「ねえ、青城くん」
「うん?」
街路樹を見上げていた彼が呼ばれて視線をこちらに移す。
「近所にレトロアンティーク喫茶が出来たんだけど」
「レトロなのに?」
確かにレトロとは日本では復古と訳されることが多い。何故古いものを新しく建てられるのかという矛盾を感じてしまうものだ。新しくできた店に老舗と書いてあることに違和感を覚えることもあるだろう。
しかしレトロと言う言葉を検索すれば【過去の流行やスタイルを現代に取り入れること、またはそのようなスタイル自体を指す】言葉と出る。なので変ではない。
「むしろ、レトロだから」
荻那がスマホで言葉の意味を表示したページを彼に向けると、眼鏡をあげる仕草をしたのち『なるほど』と呟く。
彼が伊達メガネをかけるのは校内でだけだ。
「今度一緒に行かない?」
「いいね」
きっとどこに誘っても一緒に行ってくれるだろう。それが特別なのか、趣味が合うからなのか、それとも恋愛対象外だからなのかは分からない。
もしかしたら単に友達だと思われている可能性もある。
──焦っても仕方ないよね。
大学も一緒なんだし、のんびりいこう。
荻那は心の中でぎゅっと拳を握りしめた。
恋に焦りは禁物である。
「も?」
再び歩き出す紅に続いて歩を進める荻那。
紅は不思議そうにこちらへ視線を向けた。
”も”がどこにかかっているのか思案しているのだろうか。少し間を置き、彼は言う。
「それは見た目に関して言っているの」
「そう、なっちゃうのかな」
そこである疑念が湧く。話の流れから”も”は『有馬』か『一般的』にかかると考えるのが自然。だが彼は不思議そうな表情をした。誰と比べているのか分からなかったからだろう。
──ということは、有馬が青城くんに対して『蜜花が可愛い』と言ったことがないと想像できるのだけど。
それには非常に違和感が湧く。
紅が気を遣うほどに、有馬が蜜花のことを好きであると言っている”はず”なのに。少なくとも紅はそう感じるから二人きりにしようとした。そう、思えるのに何かが変である。
「見た目か……ツインテールはポイントが高いとは思うが、絶対領域も負けてないと思うんだよな。どっちも良いと思う」
「?」
荻那には紅の言っていることが判り兼ねた。
「俺たちは日常的に『可愛い』と言う言葉を使うけれど、元々は小さきものを差して使われる言葉だったんだよね。だから少なくとも人を対象にした場合は、目下の者に対して使う言葉なんだと思うわけだよ」
言わんとしていることは分かるが、何故その説明をしようとしているのか分からない。
「だからそのことを踏まえると、同級生に向けていい言葉なのか迷うし。何よりもセクハラじゃないかなとか思ったりも」
そこで紅のことが少し理解が出来た。
──有馬は青城くんのことはよく知っているはず。
つまり、有馬が蜜花のことを可愛いと称さなくても不思議ではないと言うことね。
そんなことを紅に対して発言したら『セクハラだぞ』と言われるから有馬は言わなかった可能性がある、ということだ。
「でも、わたしは青城くんにだったら可愛いって言われても嬉しいかな」
「そう?」
そこで何故か彼は複雑な表情をした。それは彼への好きが伝わってしまったからなのかと思ったが。
荻那はふと、紅が言っていた『どっちも良いと思う』という言葉が気になってスマホで検索してみたところ『絶対領域』が何を指しているのか理解した。
──わあ。ちゃんと褒められている!
荻那はスカートの裾を抑え、頬を赤らめる。街路樹を見上げる紅の方をチラリと見つつ。紅が複雑な表情をしたのは『可愛い』と発言したことに荻那が気づいていなかったからなのかもしれないし、褒めた部位がセクハラに当たるからなのかもしれなかった。
──青城くんらしいな。
「ねえ、青城くん」
「うん?」
街路樹を見上げていた彼が呼ばれて視線をこちらに移す。
「近所にレトロアンティーク喫茶が出来たんだけど」
「レトロなのに?」
確かにレトロとは日本では復古と訳されることが多い。何故古いものを新しく建てられるのかという矛盾を感じてしまうものだ。新しくできた店に老舗と書いてあることに違和感を覚えることもあるだろう。
しかしレトロと言う言葉を検索すれば【過去の流行やスタイルを現代に取り入れること、またはそのようなスタイル自体を指す】言葉と出る。なので変ではない。
「むしろ、レトロだから」
荻那がスマホで言葉の意味を表示したページを彼に向けると、眼鏡をあげる仕草をしたのち『なるほど』と呟く。
彼が伊達メガネをかけるのは校内でだけだ。
「今度一緒に行かない?」
「いいね」
きっとどこに誘っても一緒に行ってくれるだろう。それが特別なのか、趣味が合うからなのか、それとも恋愛対象外だからなのかは分からない。
もしかしたら単に友達だと思われている可能性もある。
──焦っても仕方ないよね。
大学も一緒なんだし、のんびりいこう。
荻那は心の中でぎゅっと拳を握りしめた。
恋に焦りは禁物である。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる