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6話『その先へ』
7 大切なモノ
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****♡side・塩田
「そう……皇くんは」
そこで彼はため息をつくと小さく笑う。
「これで、よかったのか?」
皇とのデートの翌日、塩田は社長室にいた。頼まれた以上は報告するべきだと思う。どの道、報告しなければここに呼ばれただろう。
「君らしくない質問をするんだねえ」
”そうなのだろうか?”と思いながら塩田は彼を見つめる。元から余計なことを言うたちではない。
「僕は、彼が幸せだと思える道を選んで欲しいんだよ」
その言葉に関して言えば、同意こそすれ反論はない。
「代わりになると言うのは簡単だ。しかし、誰も誰かの代わりになることなんてできない」
”君だってそう思うだろう?”と問われ、塩田は短く”ああ”と答える。
「自分の想いと戦い続け、代わりになると言ってくる相手に気を遣いながら生きるか……あるいはその相手に新しい恋をするしかない」
気休めにもならないのだ。
確かに、誰かといれば気がまぎれる人も確かにいるだろう。だが皇は少なくともそういうタイプではない。
社長、呉崎が心配するように代わりはきっと代わりにはならない。気疲れしたその先にあるのは決別だろう。
「彼は諦めなければならないと感じている。でもそれは『今』でなくともいいんじゃないのかい?」
彼の言葉に塩田は数度頷く。
確かに皇にとっては横恋慕であり、諦めなければならない恋なのもしれない。とは言え、無理やり今すぐ諦めるというのは、塩田も違うと思う。恋が叶わないのと、好きでなくなるのは別物だ。焦らずに自分のペースで自分自身と向き合えばいい。
もし自分が修二と上手くいかなかったなら……やはり自分もそんなに簡単に切り替えは出来ないと思う。自分ができないことを皇に押し付ける気はない。
「彼が心から自分の望む道を選べばいい」
”焦る必要はない”と彼は続けて。
「彼が僕を選ばなくとも、今まで通りだ」
それは皇が必要とするならサポートするという意味なのだろう。
「変なことを頼んで悪かったね」
彼は小さく笑みを浮かべると立ち上がる。
「確かに依頼したのはそっちだが、やるといったのはこっちだから……」
無理やりではない。ちゃんと納得して承諾したのだ。彼が悪いわけじゃないない。それが一般的におかしな頼み事だったとしても。
秘書に促され社長室を後にする。
敬語で話すべきだったかと思ったが、呉崎は塩田に対して形式的な常識を求めはしなかった。それに甘んじている自分を良いとも思わないが、今はこれで良い。
そんなことを思いながらエレベーターを目指し廊下を進もうとしたところで声をかけられた。
「塩田」
皇である。
「どうかしたのか?」
「いや……塩田が社長室にいると聞いて」
何も心配は要らないのだ。呉崎はきっと皇の選んだ道を尊重してくれる。
「心配は無用だ。皇は社長のところへ行くのか?」
塩田の言葉に首を横に振る彼。
「今は……まだ」
「そっか。じゃあ、仕事に戻ろう」
「そうだな」
先に歩き出す塩田。皇はチラリと社長室の方を見やる。
自分の言葉を覆したことに罪悪感でもあるのだろうか?
「気にするな。あの人にとっては、皇の選んだ答えが望んだ答えだ」
塩田は彼の腕を掴むとぐいっと引き寄せて。
「それがどんな答えであっても、皇が心から望んだ答えかどうかが重要で」
”どんな答えかは問題じゃない”と続ければ、彼は驚いた顔をする。
「それが例え自分本位であっても?」
「そうだ」
皇の腕を放すと塩田はドアをノックするように彼の心臓の辺りを軽く二度叩く。
「大切なのは、お前の心だ」
どんなに自分本位の答えでも。
他人本位の答えは自分自身が納得しなければ、いつかは破綻する。無理は続かないものだ。
「唯野さんは……」
「それとこれは切り離して考えるべきだろ」
”それに、今までと大して変わらない”と肩を竦めれば、皇は”そうだな”と小さく笑う。そんな彼を塩田は壊れてしまいそうだなと思ったのだった。
「そう……皇くんは」
そこで彼はため息をつくと小さく笑う。
「これで、よかったのか?」
皇とのデートの翌日、塩田は社長室にいた。頼まれた以上は報告するべきだと思う。どの道、報告しなければここに呼ばれただろう。
「君らしくない質問をするんだねえ」
”そうなのだろうか?”と思いながら塩田は彼を見つめる。元から余計なことを言うたちではない。
「僕は、彼が幸せだと思える道を選んで欲しいんだよ」
その言葉に関して言えば、同意こそすれ反論はない。
「代わりになると言うのは簡単だ。しかし、誰も誰かの代わりになることなんてできない」
”君だってそう思うだろう?”と問われ、塩田は短く”ああ”と答える。
「自分の想いと戦い続け、代わりになると言ってくる相手に気を遣いながら生きるか……あるいはその相手に新しい恋をするしかない」
気休めにもならないのだ。
確かに、誰かといれば気がまぎれる人も確かにいるだろう。だが皇は少なくともそういうタイプではない。
社長、呉崎が心配するように代わりはきっと代わりにはならない。気疲れしたその先にあるのは決別だろう。
「彼は諦めなければならないと感じている。でもそれは『今』でなくともいいんじゃないのかい?」
彼の言葉に塩田は数度頷く。
確かに皇にとっては横恋慕であり、諦めなければならない恋なのもしれない。とは言え、無理やり今すぐ諦めるというのは、塩田も違うと思う。恋が叶わないのと、好きでなくなるのは別物だ。焦らずに自分のペースで自分自身と向き合えばいい。
もし自分が修二と上手くいかなかったなら……やはり自分もそんなに簡単に切り替えは出来ないと思う。自分ができないことを皇に押し付ける気はない。
「彼が心から自分の望む道を選べばいい」
”焦る必要はない”と彼は続けて。
「彼が僕を選ばなくとも、今まで通りだ」
それは皇が必要とするならサポートするという意味なのだろう。
「変なことを頼んで悪かったね」
彼は小さく笑みを浮かべると立ち上がる。
「確かに依頼したのはそっちだが、やるといったのはこっちだから……」
無理やりではない。ちゃんと納得して承諾したのだ。彼が悪いわけじゃないない。それが一般的におかしな頼み事だったとしても。
秘書に促され社長室を後にする。
敬語で話すべきだったかと思ったが、呉崎は塩田に対して形式的な常識を求めはしなかった。それに甘んじている自分を良いとも思わないが、今はこれで良い。
そんなことを思いながらエレベーターを目指し廊下を進もうとしたところで声をかけられた。
「塩田」
皇である。
「どうかしたのか?」
「いや……塩田が社長室にいると聞いて」
何も心配は要らないのだ。呉崎はきっと皇の選んだ道を尊重してくれる。
「心配は無用だ。皇は社長のところへ行くのか?」
塩田の言葉に首を横に振る彼。
「今は……まだ」
「そっか。じゃあ、仕事に戻ろう」
「そうだな」
先に歩き出す塩田。皇はチラリと社長室の方を見やる。
自分の言葉を覆したことに罪悪感でもあるのだろうか?
「気にするな。あの人にとっては、皇の選んだ答えが望んだ答えだ」
塩田は彼の腕を掴むとぐいっと引き寄せて。
「それがどんな答えであっても、皇が心から望んだ答えかどうかが重要で」
”どんな答えかは問題じゃない”と続ければ、彼は驚いた顔をする。
「それが例え自分本位であっても?」
「そうだ」
皇の腕を放すと塩田はドアをノックするように彼の心臓の辺りを軽く二度叩く。
「大切なのは、お前の心だ」
どんなに自分本位の答えでも。
他人本位の答えは自分自身が納得しなければ、いつかは破綻する。無理は続かないものだ。
「唯野さんは……」
「それとこれは切り離して考えるべきだろ」
”それに、今までと大して変わらない”と肩を竦めれば、皇は”そうだな”と小さく笑う。そんな彼を塩田は壊れてしまいそうだなと思ったのだった。
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