47 / 48
6話『その先へ』
6 分岐点【微R】
しおりを挟む
****♡side・塩田
『こうなる未来も君にはあったんだよ』
塩田は皇を組み伏せながら、社長呉崎に耳元でそう囁かれているような錯覚に陥った。今ならわかる。何故、呉崎が自分にこんなことを望んだのか。
「塩田……ッ」
人は勝手に他人に恋をする。塩田はそういうものだと思っていた。
例え、彼の気持ちを受け入れることが出来なくても否定するのは違うし、「他にもっといいヤツがいる」と他の人を押し付けるのも間違いだと思っている。それでもやはり、どこか他人事だった。
皇が気にかけてくれることを良しとして、平気で彼に甘えていた自分。そんな自分は全く彼に期待させなかったと言えるのだろうか?
手に入らないからと諦めて、好きでもない男とこんなことをしろと?
──俺にとって修二が大切なように、皇にとっては俺がそういう存在だっただけ。それなのに皇に不幸になる道を選ばせたらダメだ。
彼に望まれるままに口づけて、その身に自分自身を穿つ。満足するまで、何度でも。これが最初で最後なのと理解しているのか、彼の身体は素直に反応し、愛と快楽を求める。
『僕は皇くんが大切だ。だからこそ、投げやりではなくちゃんと納得して選んで欲しい』
やめろというのは簡単だ。しかし引きとめても自分に責任は持てない。なぜなら自分には”唯野修二”という恋人がいるのだから。
──これで本当に皇は自分が幸せになれる道を選択できるのか?
どこにも保証なんかない。
塩田は不安に駆ら、れじっと皇を見つめる。
「うん……?」
”どうしてそんな顔するんだ”というように、彼の手が塩田の頬を撫でた。その手を握り込む塩田。
誰よりも優しいこの男を自分はいたずらに傷つけているだけ。そんなことは分かり切っている。
「いい?」
塩田の言葉に彼が軽く数度頷く。そんな彼にちゅっと口づけ、再び見つめ合う。
「俺が望んだことだ。塩田は悪くない」
確かに何度も確認して事に及んだ。いくら社長からの頼みだからと言って彼の意思を無視して性交に及ぶ気はさらさらない。
「塩田は良かったのか? 初めてだったんだろ」
「ん……」
その初めてが一生初めてである自信ならあった。こんなことを修二にしたいかと言われたらNOと答えるだろう。
『皇くんはネコだからねえ……何の問題もないだろう?』
『ねこ』
塩田は社長、呉崎との会話を思い出す。
呉崎の言葉を復唱する塩田にくすりと笑う彼。無知な自分をバカにしているのかと思ったが、不思議と腹は立たなかった。
『ベッドでの立ち位置の話だよ。君は……未経験者なんだろう?』
呉崎の話の内容からなんとなく何のことなのか理解する。
『それならいい経験になるんじゃないかな』
塩田は何も答えなかった。
──これを”いい経験”と称するあの人の気持ちはわからない。
確かに快感は得られるし、皇の身体はとても良い。そして何故呉崎が皇に執着するのか理解できてしまった。それがどうにも塩田を複雑な心境にさせる。
「皇はどうするんだ?」
情事ののち、シャツに腕を通す皇を塩田はベッドに腰掛けて眺めていた。
「どうするとは?」
”帰るんだろう?”と不思議そうな表情をする彼。
「そういう意味じゃなくて」
「どういう意味だ?」
長袖のシャツの袖を掴み、引き揚げながら隣に腰かける皇に思わず塩田は見惚れてしまう。
「うん?」
「いや」
七分ほどに引き揚げられた袖。手首に腕時計を嵌めるその指先。塩田は彼のベージュに近い金の髪に手を伸ばす。ツルツルとした手触り。
「何してんだ」
「髪質がいいなと思って」
塩田の言葉に、腕時計を嵌め終わった彼が笑顔を向ける。
「現状維持でいいかなと思う。俺はお前の傍にいたいよ、塩田」
切なげで儚い笑顔。
「皇の人生なんだから、思うようにしたらいいと思う」
”俺たちと一緒に暮らす?”と塩田が問うと、彼は驚いた|表情《かお⦆をしたのだった。
『こうなる未来も君にはあったんだよ』
塩田は皇を組み伏せながら、社長呉崎に耳元でそう囁かれているような錯覚に陥った。今ならわかる。何故、呉崎が自分にこんなことを望んだのか。
「塩田……ッ」
人は勝手に他人に恋をする。塩田はそういうものだと思っていた。
例え、彼の気持ちを受け入れることが出来なくても否定するのは違うし、「他にもっといいヤツがいる」と他の人を押し付けるのも間違いだと思っている。それでもやはり、どこか他人事だった。
皇が気にかけてくれることを良しとして、平気で彼に甘えていた自分。そんな自分は全く彼に期待させなかったと言えるのだろうか?
手に入らないからと諦めて、好きでもない男とこんなことをしろと?
──俺にとって修二が大切なように、皇にとっては俺がそういう存在だっただけ。それなのに皇に不幸になる道を選ばせたらダメだ。
彼に望まれるままに口づけて、その身に自分自身を穿つ。満足するまで、何度でも。これが最初で最後なのと理解しているのか、彼の身体は素直に反応し、愛と快楽を求める。
『僕は皇くんが大切だ。だからこそ、投げやりではなくちゃんと納得して選んで欲しい』
やめろというのは簡単だ。しかし引きとめても自分に責任は持てない。なぜなら自分には”唯野修二”という恋人がいるのだから。
──これで本当に皇は自分が幸せになれる道を選択できるのか?
どこにも保証なんかない。
塩田は不安に駆ら、れじっと皇を見つめる。
「うん……?」
”どうしてそんな顔するんだ”というように、彼の手が塩田の頬を撫でた。その手を握り込む塩田。
誰よりも優しいこの男を自分はいたずらに傷つけているだけ。そんなことは分かり切っている。
「いい?」
塩田の言葉に彼が軽く数度頷く。そんな彼にちゅっと口づけ、再び見つめ合う。
「俺が望んだことだ。塩田は悪くない」
確かに何度も確認して事に及んだ。いくら社長からの頼みだからと言って彼の意思を無視して性交に及ぶ気はさらさらない。
「塩田は良かったのか? 初めてだったんだろ」
「ん……」
その初めてが一生初めてである自信ならあった。こんなことを修二にしたいかと言われたらNOと答えるだろう。
『皇くんはネコだからねえ……何の問題もないだろう?』
『ねこ』
塩田は社長、呉崎との会話を思い出す。
呉崎の言葉を復唱する塩田にくすりと笑う彼。無知な自分をバカにしているのかと思ったが、不思議と腹は立たなかった。
『ベッドでの立ち位置の話だよ。君は……未経験者なんだろう?』
呉崎の話の内容からなんとなく何のことなのか理解する。
『それならいい経験になるんじゃないかな』
塩田は何も答えなかった。
──これを”いい経験”と称するあの人の気持ちはわからない。
確かに快感は得られるし、皇の身体はとても良い。そして何故呉崎が皇に執着するのか理解できてしまった。それがどうにも塩田を複雑な心境にさせる。
「皇はどうするんだ?」
情事ののち、シャツに腕を通す皇を塩田はベッドに腰掛けて眺めていた。
「どうするとは?」
”帰るんだろう?”と不思議そうな表情をする彼。
「そういう意味じゃなくて」
「どういう意味だ?」
長袖のシャツの袖を掴み、引き揚げながら隣に腰かける皇に思わず塩田は見惚れてしまう。
「うん?」
「いや」
七分ほどに引き揚げられた袖。手首に腕時計を嵌めるその指先。塩田は彼のベージュに近い金の髪に手を伸ばす。ツルツルとした手触り。
「何してんだ」
「髪質がいいなと思って」
塩田の言葉に、腕時計を嵌め終わった彼が笑顔を向ける。
「現状維持でいいかなと思う。俺はお前の傍にいたいよ、塩田」
切なげで儚い笑顔。
「皇の人生なんだから、思うようにしたらいいと思う」
”俺たちと一緒に暮らす?”と塩田が問うと、彼は驚いた|表情《かお⦆をしたのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる