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6話『その先へ』
5 修二の想い
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****♡Side・課長(唯野 修二)
「あなた正気ですか?」
「そのつもりだよ」
板井に問われ苦笑いした修二。
社長に呼ばれいつもの嫌味かと思っていたら、今回は違った。
「だって塩田はあなたの恋人なんですよ?」
「そうだな」
皇を社長の魔の手から守りたいと願う自分がいたのは事実。
しかし皇が自ら選んだ道ならもう、止めることはできない。
けれど断ち切るために、彼に想い残すことがないように協力してやれと言われたら……頷くしかないではないか。
自分は前に進むために協力してもらったのだ。その恩を仇で返すようなことはできない。
皇が塩田の事を好きなことは知っていた。
奪われることに恐怖を感じていたのも事実。
もし自分が既婚者であることを塩田に伝えていたなら、彼の傍にいたのはきっと皇の方なのだ。塩田が彼を選ばないのは、自分が汚い手を使ったからではないと言えるのだろうか。
「これで塩田が副社長を選んだらどうするおつもりなのですか?」
「それも運命だよ、板井」
もっとも、すんなりと別れてやるつもりはない。あがいてあがいて、惨めな想いをしてても繋ぎとめようとするだろう。諦めは早い方だったが、塩田にだけは違った。
嫉妬に狂ったあの夜。彼に縋られ、その手を二度と放すまいと誓ったのだ。
「それに、それでも塩田が俺のところに戻って来たなら多少は自信が持てるだろうし」
自嘲気味に笑い板井に視線を移すと、彼は切なげに眉を寄せてこちらを見つめていた。
「俺じゃダメですか? 塩田の代わりにはなれませんか?」
板井の好意に気づいたのは割と最近だ。ずっと尊敬だと思っていたのに。
いや、自分が尊敬に値するような人間でないことは、自分が一番分かっている。
「板井」
ポンと彼の肩に手を乗せて。
「気持ちは嬉しい。でも、誰も誰の代わりにはならない」
”分かっているだろう?”と含みを持たせて言えば、板井はただ唇を噛みしめ俯いた。
「俺は恋愛がしたいんじゃない。塩田といたいだけなんだ」
甘えさせることよりも、甘えたいと考えていた自分。
甘える、安らげる場所が欲しいと願っていたはずなのに、初めて愛した相手は理想とは真逆だった。
今は塩田に甘えられることに安らぎを感じている。
彼の期待に応えることで自信を得ている自分がいた。
例え彼に自分よりもふさわしい相手がいたとしても、背中を押すことはできない。
自分勝手でわがまま。そう思われてもかまわなかった。
自分は塩田を手放したくない。ただそれだけだ。
「昼飯、何にする?」
ソファーから立ち上がり、板井に問うと彼は驚いた顔をする。
現在修二は塩田と暮らすマンションのリビングで板井と話をしているところだった。
「腹、減ったろ?」
午前中に招いたものの、気づけばお昼を過ぎている。自分を好いた相手と二人きり。自分は余程彼のことを信頼しているのだと思った。
とは言え、男同士はそう簡単に肉体関係になれるものでもない。それなりに準備も必要だし、力づくならそれなりの力も必要だろう。
女性に対して男が暴力に訴えるのは、力の差が歴然だから。
もっとも、板井は良識や常識を大切にする常識人。そんなことをするわけがない。
「豚肉があるから生姜焼きで良いかな」
「じゃあ、俺が作ります。キッチン借りますね」
すっと立ち上がる彼。冷蔵庫の前に立っていた修二は彼の方を振り返った。
「たまには良いでしょう? 甘える側になっても」
板井の提案に修二は”そうだな”と小さく笑う。
彼とだったら、きっと等身大の恋愛が出来たに違いない。
板井は一途で誠実。自分なんかよりも、合う人はきっといる。けれどもそれを口にすることは無い。それを決めるのは本人であって、他人がとやかくいうことでもないからだ。
例え想いが叶わなくとも、その想いを否定することは誰であっても許されないだろう。彼が自分と向き合い、前に進みたくなったらその背中を押す。
それでいいのだと修二は思っていた。
「あなた正気ですか?」
「そのつもりだよ」
板井に問われ苦笑いした修二。
社長に呼ばれいつもの嫌味かと思っていたら、今回は違った。
「だって塩田はあなたの恋人なんですよ?」
「そうだな」
皇を社長の魔の手から守りたいと願う自分がいたのは事実。
しかし皇が自ら選んだ道ならもう、止めることはできない。
けれど断ち切るために、彼に想い残すことがないように協力してやれと言われたら……頷くしかないではないか。
自分は前に進むために協力してもらったのだ。その恩を仇で返すようなことはできない。
皇が塩田の事を好きなことは知っていた。
奪われることに恐怖を感じていたのも事実。
もし自分が既婚者であることを塩田に伝えていたなら、彼の傍にいたのはきっと皇の方なのだ。塩田が彼を選ばないのは、自分が汚い手を使ったからではないと言えるのだろうか。
「これで塩田が副社長を選んだらどうするおつもりなのですか?」
「それも運命だよ、板井」
もっとも、すんなりと別れてやるつもりはない。あがいてあがいて、惨めな想いをしてても繋ぎとめようとするだろう。諦めは早い方だったが、塩田にだけは違った。
嫉妬に狂ったあの夜。彼に縋られ、その手を二度と放すまいと誓ったのだ。
「それに、それでも塩田が俺のところに戻って来たなら多少は自信が持てるだろうし」
自嘲気味に笑い板井に視線を移すと、彼は切なげに眉を寄せてこちらを見つめていた。
「俺じゃダメですか? 塩田の代わりにはなれませんか?」
板井の好意に気づいたのは割と最近だ。ずっと尊敬だと思っていたのに。
いや、自分が尊敬に値するような人間でないことは、自分が一番分かっている。
「板井」
ポンと彼の肩に手を乗せて。
「気持ちは嬉しい。でも、誰も誰の代わりにはならない」
”分かっているだろう?”と含みを持たせて言えば、板井はただ唇を噛みしめ俯いた。
「俺は恋愛がしたいんじゃない。塩田といたいだけなんだ」
甘えさせることよりも、甘えたいと考えていた自分。
甘える、安らげる場所が欲しいと願っていたはずなのに、初めて愛した相手は理想とは真逆だった。
今は塩田に甘えられることに安らぎを感じている。
彼の期待に応えることで自信を得ている自分がいた。
例え彼に自分よりもふさわしい相手がいたとしても、背中を押すことはできない。
自分勝手でわがまま。そう思われてもかまわなかった。
自分は塩田を手放したくない。ただそれだけだ。
「昼飯、何にする?」
ソファーから立ち上がり、板井に問うと彼は驚いた顔をする。
現在修二は塩田と暮らすマンションのリビングで板井と話をしているところだった。
「腹、減ったろ?」
午前中に招いたものの、気づけばお昼を過ぎている。自分を好いた相手と二人きり。自分は余程彼のことを信頼しているのだと思った。
とは言え、男同士はそう簡単に肉体関係になれるものでもない。それなりに準備も必要だし、力づくならそれなりの力も必要だろう。
女性に対して男が暴力に訴えるのは、力の差が歴然だから。
もっとも、板井は良識や常識を大切にする常識人。そんなことをするわけがない。
「豚肉があるから生姜焼きで良いかな」
「じゃあ、俺が作ります。キッチン借りますね」
すっと立ち上がる彼。冷蔵庫の前に立っていた修二は彼の方を振り返った。
「たまには良いでしょう? 甘える側になっても」
板井の提案に修二は”そうだな”と小さく笑う。
彼とだったら、きっと等身大の恋愛が出来たに違いない。
板井は一途で誠実。自分なんかよりも、合う人はきっといる。けれどもそれを口にすることは無い。それを決めるのは本人であって、他人がとやかくいうことでもないからだ。
例え想いが叶わなくとも、その想いを否定することは誰であっても許されないだろう。彼が自分と向き合い、前に進みたくなったらその背中を押す。
それでいいのだと修二は思っていた。
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