44 / 48
6話『その先へ』
3 それぞれの愛
しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)
「えっと、何故ここに塩田が?」
「俺では、何か不都合なのか」
翌休日。皇は指定された場所へ車で向かった。
社長ならば『迎えに行く』と言われるのが自然に感じていたため、皇は少し変だなとは思っていたのではある。
「いや、不都合とかではなく」
何と返していいか分からずに立ち尽くす。
指定の場所へ行ってみれば、塩田が両手をポケットに突っ込みぼんやりと空を眺めていた。
「先日、社長に呼ばれて」
「うん?」
ぽつりと話し出す塩田に慌てて相槌を返す皇。
『塩田君、君に頼みがあるんだが』
お願い事をされたという。内容次第では断るつもりでいたが、話を聞いてその願いを聞くことにしたらしい。
「お前、あいつのモノになんの?」
こちらに視線を移した彼の瞳は心配そうに見えた。
そんなことまで話したのかと社長を恨みそうになったが、皇は素直に小さく『うん』と頷く。どの道わかることだ。嘘をついても仕方ない。
「そっか。俺が聞くのもおかしいけど、本当にそれでいいのか?」
「もう、決めたことだから」
なるべく淡々と告げる。
心から望んだことではない。しかしこのままでは辛くてどうにかなってしまいそうだった。自分の気持ちに背を向けて、少しでもその辛さから遠ざかりたかったのである。
「皇が自分で決めたというのなら、止めはしないが」
スッと差し出される手。
何だろうと思っていると、彼が悲し気に微笑んだ。
「俺にはこんなことしか、してやれないから」
それは塩田が皇の気持ちには応えることができないということを指しているのだろう。そんなことは分かり切ったことだったはずだ。
「デートしよう、皇」
その言葉で社長が塩田に何を言ったのか察した。
社長のモノになる前に思い出を作ってやれとでも言ったのだろう。
『僕は君を心から愛しているよ。けれども、幸せにしてあげるとは断言できない』
社長はそう言った。
その上で、気晴らしに出かけようと言ったのだ。そして社長は塩田に自分の代わりにデートに行くように頼んだ。それが彼なりの優しさであり、愛なのだろうと思う。
躊躇いがちに塩田の手を掴もうとしてグイっと引き寄せられた。
「泣くなよ」
自分が選んだ道なのに涙が止まらない。
何度も何度も後悔したのだ。いつだって奪えたはずなのに、自分はそれをしなかった。本気で彼が好きだったから。
心から彼の幸せを願い、同時にその幸せの中に自分がいないことを痛いくらいに理解した。
「俺は塩田が好きだ」
「うん」
「俺が幸せにしたかった」
「うん」
彼が辛い時に自分はただ傍にいることしかできなかった。誰も誰の代わりになんてならない。ただ寂しいだけなら癒すこともできるかもしれない。
でも誰かがいない寂しさは、他の誰かで癒すことはできないのだ。
「もし、来世があるなら」
「うん?」
背中に回った腕が温かい。
「今度は俺と一緒になってよ、塩田」
「わかった」
それはきっと叶うはずのない約束。
それでも彼がすんなり承諾してくれることが嬉しかった。
「何処行く?」
皇が離れるとポケットからハンカチを取り出す彼。
「どこでもいいのか?」
「いいよ」
きっと塩田は綺麗な夜景なんて興味はないだろう。それでも月並みのデートがしたいと感じていた。どこでもいいと言う彼に甘えてその手を掴む。
「皇」
「ハンカチなら洗って返すよ」
「そうじゃなくて」
車に辿り着くと助手席のドアを開けながら。
否定した彼は乗らずに立ったままだ。
「最後に行きたいところがある」
「わかった」
塩田が行きたい場所がどこなのか分からなかったが、快諾すれば彼は安心したように微笑む。
きっと二人にとってこれが最初で最後のデートになるだろう。
もし彼とつき合えていたなら。そんなことを皇は思う。
「じゃあ、行こうか」
シートベルトを確認し、アクセルを踏み込む。
車は走り出す。後悔と想いを乗せて。
「えっと、何故ここに塩田が?」
「俺では、何か不都合なのか」
翌休日。皇は指定された場所へ車で向かった。
社長ならば『迎えに行く』と言われるのが自然に感じていたため、皇は少し変だなとは思っていたのではある。
「いや、不都合とかではなく」
何と返していいか分からずに立ち尽くす。
指定の場所へ行ってみれば、塩田が両手をポケットに突っ込みぼんやりと空を眺めていた。
「先日、社長に呼ばれて」
「うん?」
ぽつりと話し出す塩田に慌てて相槌を返す皇。
『塩田君、君に頼みがあるんだが』
お願い事をされたという。内容次第では断るつもりでいたが、話を聞いてその願いを聞くことにしたらしい。
「お前、あいつのモノになんの?」
こちらに視線を移した彼の瞳は心配そうに見えた。
そんなことまで話したのかと社長を恨みそうになったが、皇は素直に小さく『うん』と頷く。どの道わかることだ。嘘をついても仕方ない。
「そっか。俺が聞くのもおかしいけど、本当にそれでいいのか?」
「もう、決めたことだから」
なるべく淡々と告げる。
心から望んだことではない。しかしこのままでは辛くてどうにかなってしまいそうだった。自分の気持ちに背を向けて、少しでもその辛さから遠ざかりたかったのである。
「皇が自分で決めたというのなら、止めはしないが」
スッと差し出される手。
何だろうと思っていると、彼が悲し気に微笑んだ。
「俺にはこんなことしか、してやれないから」
それは塩田が皇の気持ちには応えることができないということを指しているのだろう。そんなことは分かり切ったことだったはずだ。
「デートしよう、皇」
その言葉で社長が塩田に何を言ったのか察した。
社長のモノになる前に思い出を作ってやれとでも言ったのだろう。
『僕は君を心から愛しているよ。けれども、幸せにしてあげるとは断言できない』
社長はそう言った。
その上で、気晴らしに出かけようと言ったのだ。そして社長は塩田に自分の代わりにデートに行くように頼んだ。それが彼なりの優しさであり、愛なのだろうと思う。
躊躇いがちに塩田の手を掴もうとしてグイっと引き寄せられた。
「泣くなよ」
自分が選んだ道なのに涙が止まらない。
何度も何度も後悔したのだ。いつだって奪えたはずなのに、自分はそれをしなかった。本気で彼が好きだったから。
心から彼の幸せを願い、同時にその幸せの中に自分がいないことを痛いくらいに理解した。
「俺は塩田が好きだ」
「うん」
「俺が幸せにしたかった」
「うん」
彼が辛い時に自分はただ傍にいることしかできなかった。誰も誰の代わりになんてならない。ただ寂しいだけなら癒すこともできるかもしれない。
でも誰かがいない寂しさは、他の誰かで癒すことはできないのだ。
「もし、来世があるなら」
「うん?」
背中に回った腕が温かい。
「今度は俺と一緒になってよ、塩田」
「わかった」
それはきっと叶うはずのない約束。
それでも彼がすんなり承諾してくれることが嬉しかった。
「何処行く?」
皇が離れるとポケットからハンカチを取り出す彼。
「どこでもいいのか?」
「いいよ」
きっと塩田は綺麗な夜景なんて興味はないだろう。それでも月並みのデートがしたいと感じていた。どこでもいいと言う彼に甘えてその手を掴む。
「皇」
「ハンカチなら洗って返すよ」
「そうじゃなくて」
車に辿り着くと助手席のドアを開けながら。
否定した彼は乗らずに立ったままだ。
「最後に行きたいところがある」
「わかった」
塩田が行きたい場所がどこなのか分からなかったが、快諾すれば彼は安心したように微笑む。
きっと二人にとってこれが最初で最後のデートになるだろう。
もし彼とつき合えていたなら。そんなことを皇は思う。
「じゃあ、行こうか」
シートベルトを確認し、アクセルを踏み込む。
車は走り出す。後悔と想いを乗せて。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる