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6話『その先へ』
3 それぞれの愛
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****♡Side・副社長(皇)
「えっと、何故ここに塩田が?」
「俺では、何か不都合なのか」
翌休日。皇は指定された場所へ車で向かった。
社長ならば『迎えに行く』と言われるのが自然に感じていたため、皇は少し変だなとは思っていたのではある。
「いや、不都合とかではなく」
何と返していいか分からずに立ち尽くす。
指定の場所へ行ってみれば、塩田が両手をポケットに突っ込みぼんやりと空を眺めていた。
「先日、社長に呼ばれて」
「うん?」
ぽつりと話し出す塩田に慌てて相槌を返す皇。
『塩田君、君に頼みがあるんだが』
お願い事をされたという。内容次第では断るつもりでいたが、話を聞いてその願いを聞くことにしたらしい。
「お前、あいつのモノになんの?」
こちらに視線を移した彼の瞳は心配そうに見えた。
そんなことまで話したのかと社長を恨みそうになったが、皇は素直に小さく『うん』と頷く。どの道わかることだ。嘘をついても仕方ない。
「そっか。俺が聞くのもおかしいけど、本当にそれでいいのか?」
「もう、決めたことだから」
なるべく淡々と告げる。
心から望んだことではない。しかしこのままでは辛くてどうにかなってしまいそうだった。自分の気持ちに背を向けて、少しでもその辛さから遠ざかりたかったのである。
「皇が自分で決めたというのなら、止めはしないが」
スッと差し出される手。
何だろうと思っていると、彼が悲し気に微笑んだ。
「俺にはこんなことしか、してやれないから」
それは塩田が皇の気持ちには応えることができないということを指しているのだろう。そんなことは分かり切ったことだったはずだ。
「デートしよう、皇」
その言葉で社長が塩田に何を言ったのか察した。
社長のモノになる前に思い出を作ってやれとでも言ったのだろう。
『僕は君を心から愛しているよ。けれども、幸せにしてあげるとは断言できない』
社長はそう言った。
その上で、気晴らしに出かけようと言ったのだ。そして社長は塩田に自分の代わりにデートに行くように頼んだ。それが彼なりの優しさであり、愛なのだろうと思う。
躊躇いがちに塩田の手を掴もうとしてグイっと引き寄せられた。
「泣くなよ」
自分が選んだ道なのに涙が止まらない。
何度も何度も後悔したのだ。いつだって奪えたはずなのに、自分はそれをしなかった。本気で彼が好きだったから。
心から彼の幸せを願い、同時にその幸せの中に自分がいないことを痛いくらいに理解した。
「俺は塩田が好きだ」
「うん」
「俺が幸せにしたかった」
「うん」
彼が辛い時に自分はただ傍にいることしかできなかった。誰も誰の代わりになんてならない。ただ寂しいだけなら癒すこともできるかもしれない。
でも誰かがいない寂しさは、他の誰かで癒すことはできないのだ。
「もし、来世があるなら」
「うん?」
背中に回った腕が温かい。
「今度は俺と一緒になってよ、塩田」
「わかった」
それはきっと叶うはずのない約束。
それでも彼がすんなり承諾してくれることが嬉しかった。
「何処行く?」
皇が離れるとポケットからハンカチを取り出す彼。
「どこでもいいのか?」
「いいよ」
きっと塩田は綺麗な夜景なんて興味はないだろう。それでも月並みのデートがしたいと感じていた。どこでもいいと言う彼に甘えてその手を掴む。
「皇」
「ハンカチなら洗って返すよ」
「そうじゃなくて」
車に辿り着くと助手席のドアを開けながら。
否定した彼は乗らずに立ったままだ。
「最後に行きたいところがある」
「わかった」
塩田が行きたい場所がどこなのか分からなかったが、快諾すれば彼は安心したように微笑む。
きっと二人にとってこれが最初で最後のデートになるだろう。
もし彼とつき合えていたなら。そんなことを皇は思う。
「じゃあ、行こうか」
シートベルトを確認し、アクセルを踏み込む。
車は走り出す。後悔と想いを乗せて。
「えっと、何故ここに塩田が?」
「俺では、何か不都合なのか」
翌休日。皇は指定された場所へ車で向かった。
社長ならば『迎えに行く』と言われるのが自然に感じていたため、皇は少し変だなとは思っていたのではある。
「いや、不都合とかではなく」
何と返していいか分からずに立ち尽くす。
指定の場所へ行ってみれば、塩田が両手をポケットに突っ込みぼんやりと空を眺めていた。
「先日、社長に呼ばれて」
「うん?」
ぽつりと話し出す塩田に慌てて相槌を返す皇。
『塩田君、君に頼みがあるんだが』
お願い事をされたという。内容次第では断るつもりでいたが、話を聞いてその願いを聞くことにしたらしい。
「お前、あいつのモノになんの?」
こちらに視線を移した彼の瞳は心配そうに見えた。
そんなことまで話したのかと社長を恨みそうになったが、皇は素直に小さく『うん』と頷く。どの道わかることだ。嘘をついても仕方ない。
「そっか。俺が聞くのもおかしいけど、本当にそれでいいのか?」
「もう、決めたことだから」
なるべく淡々と告げる。
心から望んだことではない。しかしこのままでは辛くてどうにかなってしまいそうだった。自分の気持ちに背を向けて、少しでもその辛さから遠ざかりたかったのである。
「皇が自分で決めたというのなら、止めはしないが」
スッと差し出される手。
何だろうと思っていると、彼が悲し気に微笑んだ。
「俺にはこんなことしか、してやれないから」
それは塩田が皇の気持ちには応えることができないということを指しているのだろう。そんなことは分かり切ったことだったはずだ。
「デートしよう、皇」
その言葉で社長が塩田に何を言ったのか察した。
社長のモノになる前に思い出を作ってやれとでも言ったのだろう。
『僕は君を心から愛しているよ。けれども、幸せにしてあげるとは断言できない』
社長はそう言った。
その上で、気晴らしに出かけようと言ったのだ。そして社長は塩田に自分の代わりにデートに行くように頼んだ。それが彼なりの優しさであり、愛なのだろうと思う。
躊躇いがちに塩田の手を掴もうとしてグイっと引き寄せられた。
「泣くなよ」
自分が選んだ道なのに涙が止まらない。
何度も何度も後悔したのだ。いつだって奪えたはずなのに、自分はそれをしなかった。本気で彼が好きだったから。
心から彼の幸せを願い、同時にその幸せの中に自分がいないことを痛いくらいに理解した。
「俺は塩田が好きだ」
「うん」
「俺が幸せにしたかった」
「うん」
彼が辛い時に自分はただ傍にいることしかできなかった。誰も誰の代わりになんてならない。ただ寂しいだけなら癒すこともできるかもしれない。
でも誰かがいない寂しさは、他の誰かで癒すことはできないのだ。
「もし、来世があるなら」
「うん?」
背中に回った腕が温かい。
「今度は俺と一緒になってよ、塩田」
「わかった」
それはきっと叶うはずのない約束。
それでも彼がすんなり承諾してくれることが嬉しかった。
「何処行く?」
皇が離れるとポケットからハンカチを取り出す彼。
「どこでもいいのか?」
「いいよ」
きっと塩田は綺麗な夜景なんて興味はないだろう。それでも月並みのデートがしたいと感じていた。どこでもいいと言う彼に甘えてその手を掴む。
「皇」
「ハンカチなら洗って返すよ」
「そうじゃなくて」
車に辿り着くと助手席のドアを開けながら。
否定した彼は乗らずに立ったままだ。
「最後に行きたいところがある」
「わかった」
塩田が行きたい場所がどこなのか分からなかったが、快諾すれば彼は安心したように微笑む。
きっと二人にとってこれが最初で最後のデートになるだろう。
もし彼とつき合えていたなら。そんなことを皇は思う。
「じゃあ、行こうか」
シートベルトを確認し、アクセルを踏み込む。
車は走り出す。後悔と想いを乗せて。
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