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5話『17年前の事件の真相』
8 塩田の価値観
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****♡Side・課長(唯野 修二)
「ん……修二? おかえり」
修二が塩田のマンションに戻った時、時刻はとうに二十二時を回っていた。
ソファーでウトウトする塩田の髪に身を屈めてキスを落とすと、彼が寝ぼけ眼でこちらを見上げる。
「ただいま」
”板井と電車は?”と問うと客間で寝ているという。
「こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまうよ」
優しくその髪を撫でると、寂しかったのかぎゅっと抱き着かれた。
「おいで。一緒に寝室へ行こう」
首に腕を回させひょいっと抱き上げれば、嬉しそうに笑う彼。
普段あまり感情を表現しない塩田の笑顔には癒しの効果があるのではないかと思う。
「どうだった?」
塩田をベッドに下ろし、修二が隣に潜り込むとそのような質問を受けた。
「皇のお蔭で離婚できそうだ」
「本当?!」
彼が驚くのも無理はない。
けれども塩田が皇に信頼をおいていることは修二も分かっている。
「ああ」
何とかすると言って何とか出来たなら、やはりそれは皇の力なのだろう。
「じゃあ、ずっと一緒にいられる?」
「もちろんだよ」
仕事でも一緒。プライベートでもなるべく時間を作ってきたつもりであるが、改めてそのように言われると素直に嬉しい。
「なにがあったのか、聞かないのか?」
正直話したくない内容であることは確かだ。それを聞いて彼の気持ちが変わってしまうのは怖い。
「話したいなら聞くけれど、今まで離婚できなかったのにそれが覆ったということは『それなりの何か』があったということなんだろ? 家族の間に」
塩田は愛想がいい方ではないし、感情表現も豊かとはいえない。
しかし聡明だと思うし、表現が苦手なだけで思いやりも優しさもある。そんな彼だからこんなにも惹かれ、執着しているのだと言えた。
「俺は修二と家族になりたいとは思う。けれども、それは修二の家族の中に入るとは違うと思うんだ」
だから話したくないことは聞かないと彼は言う。
──できた恋人だな。
人間とは不思議なものだ。知られたくないことを話さなくていいとホッとしたものの、自分にそれほど興味がないのではないかと不安にもなるのだから。
「修二?」
黙っている修二の様子が気になったのか、不安そうにこちらを見つめる彼。
「知りたいとは思わないのか?」
「家庭の事情を?」
途端に塩田の顔が曇る。
これは地雷を踏んでしまったなと思っていると、
「俺は噂好きの女子じゃない。好奇心を満たすために他人の事情に首を突っ込んだりはしない」
好奇心を満たすだけの行為は無意味。ましてや他人の事情に迂闊に首を突っ込むような行為は愚かだ。それが塩田の価値観。
「聞いたからと言って何ができるわけでもないだろ? 話せば楽になるという人もいるけれど、そんなのは無責任なだけだ。楽になるのは、それが世間一般に大したことではないという場合に限る」
悩みだから話せば楽になるのだ。
修二は悩んでいるわけではない。秘密を抱えているのと悩んでいるのでは根本的に違う。話して楽になるわけがない。
それでも修二には一つ彼に対して明かさなければならない秘密がある。
「塩田」
「なんだ?」
「娘のことなんだが……」
これは話すべき事実だ。そう思うものの聞いた彼がどう思うのかと思うと胃が痛い。
誤解を解いてからは妻の他に娘がいることも話してあった。なのでその存在については当然わかっているはず。
「俺の子じゃないらしい」
修二の告白に彼は瞳を揺らした。どう反応していいのか考えあぐねているように感じる。
「俺は家族構成は聞いたけれど、娘さんとどう付き合ってきたのかわからないからその結果に対してなんて言っていいのかわからない」
少し間があったのち、彼は言いずらそうにそのように口にした。
それはもっともな意見であると修二は思ったのだった。
「ん……修二? おかえり」
修二が塩田のマンションに戻った時、時刻はとうに二十二時を回っていた。
ソファーでウトウトする塩田の髪に身を屈めてキスを落とすと、彼が寝ぼけ眼でこちらを見上げる。
「ただいま」
”板井と電車は?”と問うと客間で寝ているという。
「こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまうよ」
優しくその髪を撫でると、寂しかったのかぎゅっと抱き着かれた。
「おいで。一緒に寝室へ行こう」
首に腕を回させひょいっと抱き上げれば、嬉しそうに笑う彼。
普段あまり感情を表現しない塩田の笑顔には癒しの効果があるのではないかと思う。
「どうだった?」
塩田をベッドに下ろし、修二が隣に潜り込むとそのような質問を受けた。
「皇のお蔭で離婚できそうだ」
「本当?!」
彼が驚くのも無理はない。
けれども塩田が皇に信頼をおいていることは修二も分かっている。
「ああ」
何とかすると言って何とか出来たなら、やはりそれは皇の力なのだろう。
「じゃあ、ずっと一緒にいられる?」
「もちろんだよ」
仕事でも一緒。プライベートでもなるべく時間を作ってきたつもりであるが、改めてそのように言われると素直に嬉しい。
「なにがあったのか、聞かないのか?」
正直話したくない内容であることは確かだ。それを聞いて彼の気持ちが変わってしまうのは怖い。
「話したいなら聞くけれど、今まで離婚できなかったのにそれが覆ったということは『それなりの何か』があったということなんだろ? 家族の間に」
塩田は愛想がいい方ではないし、感情表現も豊かとはいえない。
しかし聡明だと思うし、表現が苦手なだけで思いやりも優しさもある。そんな彼だからこんなにも惹かれ、執着しているのだと言えた。
「俺は修二と家族になりたいとは思う。けれども、それは修二の家族の中に入るとは違うと思うんだ」
だから話したくないことは聞かないと彼は言う。
──できた恋人だな。
人間とは不思議なものだ。知られたくないことを話さなくていいとホッとしたものの、自分にそれほど興味がないのではないかと不安にもなるのだから。
「修二?」
黙っている修二の様子が気になったのか、不安そうにこちらを見つめる彼。
「知りたいとは思わないのか?」
「家庭の事情を?」
途端に塩田の顔が曇る。
これは地雷を踏んでしまったなと思っていると、
「俺は噂好きの女子じゃない。好奇心を満たすために他人の事情に首を突っ込んだりはしない」
好奇心を満たすだけの行為は無意味。ましてや他人の事情に迂闊に首を突っ込むような行為は愚かだ。それが塩田の価値観。
「聞いたからと言って何ができるわけでもないだろ? 話せば楽になるという人もいるけれど、そんなのは無責任なだけだ。楽になるのは、それが世間一般に大したことではないという場合に限る」
悩みだから話せば楽になるのだ。
修二は悩んでいるわけではない。秘密を抱えているのと悩んでいるのでは根本的に違う。話して楽になるわけがない。
それでも修二には一つ彼に対して明かさなければならない秘密がある。
「塩田」
「なんだ?」
「娘のことなんだが……」
これは話すべき事実だ。そう思うものの聞いた彼がどう思うのかと思うと胃が痛い。
誤解を解いてからは妻の他に娘がいることも話してあった。なのでその存在については当然わかっているはず。
「俺の子じゃないらしい」
修二の告白に彼は瞳を揺らした。どう反応していいのか考えあぐねているように感じる。
「俺は家族構成は聞いたけれど、娘さんとどう付き合ってきたのかわからないからその結果に対してなんて言っていいのかわからない」
少し間があったのち、彼は言いずらそうにそのように口にした。
それはもっともな意見であると修二は思ったのだった。
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