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5話『17年前の事件の真相』
5 皇からの呼び出し
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****♡Side・課長(唯野 修二)
「じゃあ、行ってくるよ」
「ん」
皇に呼び出され、修二は塩田のマンションの玄関で彼に笑顔を向ける。
休日の朝。
「寂しくない?」
「平気。板井と電車が遊びに来るって言ってたし」
「そっか」
恐らく皇がそのように手を回したのだろうと思った。
塩田にハグをすると修二は玄関を出る。
わざわざ休日に呼び出すということは、仕事とは関係ない話なのかもしれない。そんなことを思いながらエレベーターの箱に乗り込み、一階へのボタンを押す。
エントランスに向かうとマンションの管理人に出くわした。
「おはようございます」
挨拶をし、会釈をすると相手はニコニコしながら会釈を返してくれる。
ここの管理人とは懇意な仲であった。何度か一緒に食事へも行ったことがある。噂では我が社の社長の知り合い、もしくは親戚ではないかと言われていた。
エントランスの外に出るとロータリーに皇の車が停車している。その傍らに立つ影は二つ。自分を呼び出した皇ともう一人は社長秘書の神流川。
先に修二に気づいたのは神流川の方だった。こちらの姿を認めてすぐに挨拶をくれる。
「唯野さんすみません。お休みのところ」
続いて皇が修二に気づき近づいてきた。
「気にしなくていいよ。大切な用なんだろう?」
副社長の皇は修二にとって営業部時代の後輩。会社では上下関係にあるが社外では砕けた接し方をしていた。その方が良いと彼が言うから。
「ええ。とても」
どうぞ言って皇が後部座席のドアを開けてくれる。その間に神流川が運転席に乗り込む。
全員が車に乗り込むとまもなく発車した。
皇は休日に修二を呼び出すようなことはしない。
むしろ塩田のマンションに出入りしているのは彼とて同じ。ただ話があるというのならそこで済むだろうと思った。神流川が一緒だからという理由なら、近所の喫茶店でも事足りるだろう。
となるとやはり私用ではなく社用でどこかへ行かなければならないのだろうか?
ここで一番気になるのは神流川の存在だ。
何度か他社へ皇と出向いたことはあるがいつも彼は自分で運転をする。わざわざ運転手として神流川を呼ぶのは変だ。そもそも彼は社長呉崎の秘書であり、皇の秘書ではないのだから。
そしてもう一点。彼らはスーツを着用しているが、修二には私服で良いと言ったのだ。他社に出向くのにそれは変だと思う。
「神流川君は……」
何を問おうとしたのか察した皇が修二の言葉を遮り、
「協力者です」
と一言。
一体何の協力者だというのだろうか?
「唯野さん。怒らないで聴いて欲しい」
「ん?」
何について怒らねばならないというのだろうか?
「あなたのことについて少し調べさせていただきました」
「え?」
何故急にそんなことをされたのかわからない修二は困惑する。
会社関係で不正などした覚えはないし、犯罪に関わった覚えもない。
苦情係で関係する業務と言えば基本クレームに関すること。そしてその他に他部署のデータの整理を請け負ってはいる。しかしこの業務については皇を通して社長からの許可を取っているはずだ。
そして収集したデータなどの漏洩はしていない。もちろん家に持ち帰ったこともなかった。自分に一体なんの嫌疑がかけられているというのだろう?
人から後ろ指をさされるようなことと言えば、不倫くらいなものだ。
──まさか、他社にそのことが知れて問題になってる?
だとすれば社長が直接何か言ってきてもおかしくないはずだが。
「あ、いや。会社とは関係ないことです。全く関係ないかと言えば否定できませんが。けれど、何らかの処分とかそういう話ではないので安心してください」
考え込むようように顎に手をやった修二に慌てる皇。
「調べたのは十七年前のことです」
「え……」
むしろそちらの方が知られたくなかった修二は彼の言葉に固まったのだった。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ん」
皇に呼び出され、修二は塩田のマンションの玄関で彼に笑顔を向ける。
休日の朝。
「寂しくない?」
「平気。板井と電車が遊びに来るって言ってたし」
「そっか」
恐らく皇がそのように手を回したのだろうと思った。
塩田にハグをすると修二は玄関を出る。
わざわざ休日に呼び出すということは、仕事とは関係ない話なのかもしれない。そんなことを思いながらエレベーターの箱に乗り込み、一階へのボタンを押す。
エントランスに向かうとマンションの管理人に出くわした。
「おはようございます」
挨拶をし、会釈をすると相手はニコニコしながら会釈を返してくれる。
ここの管理人とは懇意な仲であった。何度か一緒に食事へも行ったことがある。噂では我が社の社長の知り合い、もしくは親戚ではないかと言われていた。
エントランスの外に出るとロータリーに皇の車が停車している。その傍らに立つ影は二つ。自分を呼び出した皇ともう一人は社長秘書の神流川。
先に修二に気づいたのは神流川の方だった。こちらの姿を認めてすぐに挨拶をくれる。
「唯野さんすみません。お休みのところ」
続いて皇が修二に気づき近づいてきた。
「気にしなくていいよ。大切な用なんだろう?」
副社長の皇は修二にとって営業部時代の後輩。会社では上下関係にあるが社外では砕けた接し方をしていた。その方が良いと彼が言うから。
「ええ。とても」
どうぞ言って皇が後部座席のドアを開けてくれる。その間に神流川が運転席に乗り込む。
全員が車に乗り込むとまもなく発車した。
皇は休日に修二を呼び出すようなことはしない。
むしろ塩田のマンションに出入りしているのは彼とて同じ。ただ話があるというのならそこで済むだろうと思った。神流川が一緒だからという理由なら、近所の喫茶店でも事足りるだろう。
となるとやはり私用ではなく社用でどこかへ行かなければならないのだろうか?
ここで一番気になるのは神流川の存在だ。
何度か他社へ皇と出向いたことはあるがいつも彼は自分で運転をする。わざわざ運転手として神流川を呼ぶのは変だ。そもそも彼は社長呉崎の秘書であり、皇の秘書ではないのだから。
そしてもう一点。彼らはスーツを着用しているが、修二には私服で良いと言ったのだ。他社に出向くのにそれは変だと思う。
「神流川君は……」
何を問おうとしたのか察した皇が修二の言葉を遮り、
「協力者です」
と一言。
一体何の協力者だというのだろうか?
「唯野さん。怒らないで聴いて欲しい」
「ん?」
何について怒らねばならないというのだろうか?
「あなたのことについて少し調べさせていただきました」
「え?」
何故急にそんなことをされたのかわからない修二は困惑する。
会社関係で不正などした覚えはないし、犯罪に関わった覚えもない。
苦情係で関係する業務と言えば基本クレームに関すること。そしてその他に他部署のデータの整理を請け負ってはいる。しかしこの業務については皇を通して社長からの許可を取っているはずだ。
そして収集したデータなどの漏洩はしていない。もちろん家に持ち帰ったこともなかった。自分に一体なんの嫌疑がかけられているというのだろう?
人から後ろ指をさされるようなことと言えば、不倫くらいなものだ。
──まさか、他社にそのことが知れて問題になってる?
だとすれば社長が直接何か言ってきてもおかしくないはずだが。
「あ、いや。会社とは関係ないことです。全く関係ないかと言えば否定できませんが。けれど、何らかの処分とかそういう話ではないので安心してください」
考え込むようように顎に手をやった修二に慌てる皇。
「調べたのは十七年前のことです」
「え……」
むしろそちらの方が知られたくなかった修二は彼の言葉に固まったのだった。
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