37 / 48
5話『17年前の事件の真相』
4 皇の愛のカタチ
しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)
「皇さん……どうかされたのですか?」
皇がバルコニーの欄干に頬杖を付きぼんやりと外を眺めていると、背後から声をかけられる。
「うん?」
あれから社長に十七年前のことについて話を聞く機会があった。その内容の悍ましさに身震いしたことを思い出す。
開け放たれたリビングの掃き出し窓の向こう側。お洒落な音楽が聴こえる。
思わずリズムを取ってしまいそうになり、皇は苦笑した。
風にレースのカーテンが揺れる。
「夜風にあたりたかっただけだよ」
「そうなのですか」
肯定の意で微笑んで見せれば相手は頬を赤らめた。
彼がサンダルに履き替え近づいてくるのを眺めながら皇は昼間の会話を思い出す。
『僕もその点については……』
唯野の娘が誰の子なのかという話になると社長呉崎は言葉を濁した。
あの濁し方は何か知っているとしか思えなかったが、追及するのはやめたのだ。問題は唯野と娘に血の繋がりがあるかどうかだから。
──まさか唯野さんが十七年前に元会長のおもちゃにされていたなんて。
俄かには信じがたい話だが嘘を言う利点は何処にもないだろう。その証拠に呉崎は気まずそうな顔をし、皇に問うたのだ。
『そんなことを調べてどうする気なんだね?』
と。
なんと答えるか迷ったものの”唯野の離婚”について話すと社長は何故か急に協力的になった。
呉崎がどんな結末を望んでいるのか全く分からないが、彼にとって唯野の離婚は『喜ばしいこと』に属するのだと感じる。
「綺麗ですね、夜景」
隣に並んだ彼こと社長秘書の神流川。
「板井も同じことを言っていたよ」
「板井さんもこちらに?」
最近皇が板井と共に行動していることを見ても実感がわかないのだろう。不思議そうに問われる。
「外だと何かと問題が起きそうだしな」
皇の言葉に”そうですね”と口にする彼。
神流川を自宅に呼んだのは他でもない、調査協力を依頼しているからだ。
何故彼が協力してくれるのかはわからない。しかし唯野の人徳というものを感じた。
「皇さん」
「ん?」
神流川が自分に好意を持っていることは知っていたが、二人きりになることは日常茶飯事。何の警戒もしていなかった。
恐らく彼は皇の信頼を裏切ることはないだろう。想いを告げられたこともない。だがら、その時が来るまでは何も言うべきではないと思っている。
「本当にいいのでしょうか?」
「泊っていくことなら問題ないぞ。客間があるし」
「いえ。そうではなく」
”なんだ、違うのか”と言えば、困ったように眉を寄せる神流川。
飲みながら報告を聞くと言ったのは皇のほうだ。何度か一緒に飲みに行ったこともあり、彼が酒に強いことは知っている。
何か他に問題でもあるのだろうかと思っていると、
「社長が協力的と言うことは、この問題が早急に解決すると言っても過言ではありません」
と神流川。
「それの何が問題なんだよ」
「問題というか……唯野さんの離婚が成立するということは、彼が正式に塩田さんとおつきあいできるということなんですよ?」
「そうだな」
神流川は皇が塩田に想いを寄せていることも知っていた。
だから楽な相手なのだ。
「いいじゃないか。塩田が幸せになれる」
皇は一つ深呼吸して。
それを見ていた彼は切なげに皇を見つめる。
「本当にそれでいいんですか?」
「なんで神流川のほうが泣きそうな顔をしているんだよ」
言って笑う皇。
どんなに自分が塩田を好きだろうが結末は変わらないのだ。
だったら彼が幸せな方がいいじゃないかと思う。
塩田は皇の想いを否定しなかった。応えることはできなくても、愛し続けることを許してくれたのだ。
手に入れたいとは思う。それが本音だ。
けれど、思い続けれられるだけでもう十分だと思う自分もいる。
──結ばれるだけが全てじゃない。
いつかは諦めなければならないとしても。
望めば触れることを許してくれる。
会って会話することもできる。
いつか想いが溶けるまで、今はこのままでいられれば。
強がりだと言われたら否定はしない。
だが、こんな愛し方でもいいのではないだろうか?
「皇さん……どうかされたのですか?」
皇がバルコニーの欄干に頬杖を付きぼんやりと外を眺めていると、背後から声をかけられる。
「うん?」
あれから社長に十七年前のことについて話を聞く機会があった。その内容の悍ましさに身震いしたことを思い出す。
開け放たれたリビングの掃き出し窓の向こう側。お洒落な音楽が聴こえる。
思わずリズムを取ってしまいそうになり、皇は苦笑した。
風にレースのカーテンが揺れる。
「夜風にあたりたかっただけだよ」
「そうなのですか」
肯定の意で微笑んで見せれば相手は頬を赤らめた。
彼がサンダルに履き替え近づいてくるのを眺めながら皇は昼間の会話を思い出す。
『僕もその点については……』
唯野の娘が誰の子なのかという話になると社長呉崎は言葉を濁した。
あの濁し方は何か知っているとしか思えなかったが、追及するのはやめたのだ。問題は唯野と娘に血の繋がりがあるかどうかだから。
──まさか唯野さんが十七年前に元会長のおもちゃにされていたなんて。
俄かには信じがたい話だが嘘を言う利点は何処にもないだろう。その証拠に呉崎は気まずそうな顔をし、皇に問うたのだ。
『そんなことを調べてどうする気なんだね?』
と。
なんと答えるか迷ったものの”唯野の離婚”について話すと社長は何故か急に協力的になった。
呉崎がどんな結末を望んでいるのか全く分からないが、彼にとって唯野の離婚は『喜ばしいこと』に属するのだと感じる。
「綺麗ですね、夜景」
隣に並んだ彼こと社長秘書の神流川。
「板井も同じことを言っていたよ」
「板井さんもこちらに?」
最近皇が板井と共に行動していることを見ても実感がわかないのだろう。不思議そうに問われる。
「外だと何かと問題が起きそうだしな」
皇の言葉に”そうですね”と口にする彼。
神流川を自宅に呼んだのは他でもない、調査協力を依頼しているからだ。
何故彼が協力してくれるのかはわからない。しかし唯野の人徳というものを感じた。
「皇さん」
「ん?」
神流川が自分に好意を持っていることは知っていたが、二人きりになることは日常茶飯事。何の警戒もしていなかった。
恐らく彼は皇の信頼を裏切ることはないだろう。想いを告げられたこともない。だがら、その時が来るまでは何も言うべきではないと思っている。
「本当にいいのでしょうか?」
「泊っていくことなら問題ないぞ。客間があるし」
「いえ。そうではなく」
”なんだ、違うのか”と言えば、困ったように眉を寄せる神流川。
飲みながら報告を聞くと言ったのは皇のほうだ。何度か一緒に飲みに行ったこともあり、彼が酒に強いことは知っている。
何か他に問題でもあるのだろうかと思っていると、
「社長が協力的と言うことは、この問題が早急に解決すると言っても過言ではありません」
と神流川。
「それの何が問題なんだよ」
「問題というか……唯野さんの離婚が成立するということは、彼が正式に塩田さんとおつきあいできるということなんですよ?」
「そうだな」
神流川は皇が塩田に想いを寄せていることも知っていた。
だから楽な相手なのだ。
「いいじゃないか。塩田が幸せになれる」
皇は一つ深呼吸して。
それを見ていた彼は切なげに皇を見つめる。
「本当にそれでいいんですか?」
「なんで神流川のほうが泣きそうな顔をしているんだよ」
言って笑う皇。
どんなに自分が塩田を好きだろうが結末は変わらないのだ。
だったら彼が幸せな方がいいじゃないかと思う。
塩田は皇の想いを否定しなかった。応えることはできなくても、愛し続けることを許してくれたのだ。
手に入れたいとは思う。それが本音だ。
けれど、思い続けれられるだけでもう十分だと思う自分もいる。
──結ばれるだけが全てじゃない。
いつかは諦めなければならないとしても。
望めば触れることを許してくれる。
会って会話することもできる。
いつか想いが溶けるまで、今はこのままでいられれば。
強がりだと言われたら否定はしない。
だが、こんな愛し方でもいいのではないだろうか?
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
春ですね~夜道で出会った露出狂をホテルに連れ込んでみたら~
夏芽玉
BL
4月、第3週目の金曜日。職場の歓迎会のせいで不本意にも帰りが遅くなってしまた。今日は行きつけのハプバーのイベント日だったのに。色んなネコとハプれるのを楽しみにしていたのに!! 年に1度のイベントには結局間に合わず、不貞腐れながら帰路についたら、住宅街で出会ったのは露出狂だった。普段なら、そんな変質者はスルーの一択だったのだけど、イライラとムラムラしていたオレは、露出狂の身体をじっくりと検分してやった。どう見ても好みのど真ん中の身体だ。それならホテルに連れ込んで、しっぽりいこう。据え膳なんて、食ってなんぼだろう。だけど、実はその相手は……。変態とSMのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる