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4話『開かれる真実の扉』
8 身勝手な自分
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****♡Side・課長(唯野 修二)
幸せとはとても些細なことで、直ぐ近くにあるものなのだなと改めて思った。
未婚だったなら、きっとすんなりと塩田と恋人関係になれただろう。
けれども、こんな風に恋愛をすることもなかったとも思う。
塩田に惹かれたのは、自分が窮屈な日常を過ごしていたからに他ならない。責任という名の婚姻は自分に幸せをもたらすことはなかった。妻が自分を自由にさせているのは、彼女の愛が自分にあるから。そうとしか言えない何かが二人の間にはある。
たった一度の過ちで責任に縛られた自分は、浮気をしたいと思ったことはなかった。この責任が相手ではなく、子にあるということに気づいたのはいつだったろうか?
愛する努力はした。だが、そもそもよく知りもしない、好意を抱いているわけでもない相手を愛することは自分には無理だったのだ。
良い夫でも良い父でもなかったが、それでも妻は幸せだったと言えるのだろか?
地獄のような十七年のその先で初めて触れた愛と恋。
身勝手なのは重々承知。
『別居したい』
充分耐えたと思ってしまった自分がいた。
反対をして出ていかれるよりマシだと思ったのだろうか、妻は。
娘には修二から事情を話すことを条件に承諾を得た。
娘には後日話すことに決めている。まずは塩田に現状を話すべきだと思った。
「なあ、塩田」
「うん?」
膝枕が気に入ったのか、腹にすり寄る彼の髪を撫でる。
自分にとって唯一の安らぎ。
「別居することに決めたよ。妻は了承済だ」
「え?」
驚くのも無理はない。三年は一緒になれないと話していたのだから。途中で責任を放棄したことにもなる。もしかしたら軽蔑されるかもしれないとも思った。
「娘さんは大丈夫なのか?」
塩田は身体を起こすと心配そうに眉を寄せる。
手放しで喜ぶはずはないと思っていたが、娘のことを心配する彼を少し意外に思った。
「娘には明日、話す。元々あまり家にいない父親だったしな、反対されないような気はする」
「そっか」
”修二が辛くないなら良いよ”と彼は言う。
子供よりも恋人を選んでしまう自分はやはり、ダメな人間なのだろう。
それでも限界だった。
「それでさ、出来れば一緒に暮らしたいと思うんだが」
別居して恋人と一緒に暮らすなど、最低なことだということは分かっている。わがままを承知で一緒にいたいと願う。
「じゃあ、ここに住めばいい。そうしたら余計な金もかからないだろうし」
翌日、娘に事情を話すと意外な言葉が返って来た。
「お父さんにはお父さんの人生がある。子供には確かにわがままを言う権利はあるとは思うの。でもね、人生は一度きりだから……互いに納得しているなら良いと思うよ」
年齢もそうだが、もう子供ではないのだなと感じる。
「まあ、お父さんとお母さんが不仲なのは薄々気づいていたことだし」
不仲な夫婦の間で育った娘は何故かしっかりしていて、真っ直ぐだった。
「今度、お父さんの恋人紹介してね! 美人さん?」
修二は娘の質問を曖昧に誤魔化すと、塾の前で彼女を降ろす。またねという娘に手を振り、スマホに視線を移せば一件のメッセージ。
それは塩田からであった。
──板井に会うから先に帰っていて? はいはい了解っと。
塩田が同僚の板井と仲が良い事は以前から知ってる。最近頻繁にやり取りをしているので、何かの相談でも受けているのだろうと思っていた。
それがまさか自分に関することだとは、思ってもいなかったのである。
幸せとはとても些細なことで、直ぐ近くにあるものなのだなと改めて思った。
未婚だったなら、きっとすんなりと塩田と恋人関係になれただろう。
けれども、こんな風に恋愛をすることもなかったとも思う。
塩田に惹かれたのは、自分が窮屈な日常を過ごしていたからに他ならない。責任という名の婚姻は自分に幸せをもたらすことはなかった。妻が自分を自由にさせているのは、彼女の愛が自分にあるから。そうとしか言えない何かが二人の間にはある。
たった一度の過ちで責任に縛られた自分は、浮気をしたいと思ったことはなかった。この責任が相手ではなく、子にあるということに気づいたのはいつだったろうか?
愛する努力はした。だが、そもそもよく知りもしない、好意を抱いているわけでもない相手を愛することは自分には無理だったのだ。
良い夫でも良い父でもなかったが、それでも妻は幸せだったと言えるのだろか?
地獄のような十七年のその先で初めて触れた愛と恋。
身勝手なのは重々承知。
『別居したい』
充分耐えたと思ってしまった自分がいた。
反対をして出ていかれるよりマシだと思ったのだろうか、妻は。
娘には修二から事情を話すことを条件に承諾を得た。
娘には後日話すことに決めている。まずは塩田に現状を話すべきだと思った。
「なあ、塩田」
「うん?」
膝枕が気に入ったのか、腹にすり寄る彼の髪を撫でる。
自分にとって唯一の安らぎ。
「別居することに決めたよ。妻は了承済だ」
「え?」
驚くのも無理はない。三年は一緒になれないと話していたのだから。途中で責任を放棄したことにもなる。もしかしたら軽蔑されるかもしれないとも思った。
「娘さんは大丈夫なのか?」
塩田は身体を起こすと心配そうに眉を寄せる。
手放しで喜ぶはずはないと思っていたが、娘のことを心配する彼を少し意外に思った。
「娘には明日、話す。元々あまり家にいない父親だったしな、反対されないような気はする」
「そっか」
”修二が辛くないなら良いよ”と彼は言う。
子供よりも恋人を選んでしまう自分はやはり、ダメな人間なのだろう。
それでも限界だった。
「それでさ、出来れば一緒に暮らしたいと思うんだが」
別居して恋人と一緒に暮らすなど、最低なことだということは分かっている。わがままを承知で一緒にいたいと願う。
「じゃあ、ここに住めばいい。そうしたら余計な金もかからないだろうし」
翌日、娘に事情を話すと意外な言葉が返って来た。
「お父さんにはお父さんの人生がある。子供には確かにわがままを言う権利はあるとは思うの。でもね、人生は一度きりだから……互いに納得しているなら良いと思うよ」
年齢もそうだが、もう子供ではないのだなと感じる。
「まあ、お父さんとお母さんが不仲なのは薄々気づいていたことだし」
不仲な夫婦の間で育った娘は何故かしっかりしていて、真っ直ぐだった。
「今度、お父さんの恋人紹介してね! 美人さん?」
修二は娘の質問を曖昧に誤魔化すと、塾の前で彼女を降ろす。またねという娘に手を振り、スマホに視線を移せば一件のメッセージ。
それは塩田からであった。
──板井に会うから先に帰っていて? はいはい了解っと。
塩田が同僚の板井と仲が良い事は以前から知ってる。最近頻繁にやり取りをしているので、何かの相談でも受けているのだろうと思っていた。
それがまさか自分に関することだとは、思ってもいなかったのである。
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