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4話『開かれる真実の扉』
6 どんなに辛くても
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****♡Side・副社長(皇)
皇は、唯野修二に何があったのか知る者を探さねばならないと思っていた。
『板井、手分けして調べよう。唯野さんには気づかれないようにな』
屋上で休憩を取ることの多い板井には、社長室長へ探りを入れるように頼んだ。自分が行く先は、総括黒岩のところだ。
「こんな時に掴まらないなんて」
皇は、いつもなら簡単に掴まるはずの黒岩が本日はトラブルがあって社外に出ていることを知った。
外に出ているなら仕方ない、帰りを待つだけだ。
皇は苦情係に足を向けた。
業務を手伝っているうちに帰社するだろうと思いながら。
腕時計に目をやれば、昼休みが終わりを告げようとしていた。板井の方は収穫はあったろうか?
気にはなるが頻繁に連絡を取るのは怪しまれるだろう。
皇はエレベーターの前で片手をポケットに突っ込み、下へ向かう箱が来るのを待っていた。
すると、
「皇副社長」
背後から良く知った声が。
第一社長秘書の神流川である。
──神流川は俺よりも入社は数年早いはずだが、唯野さんが婚姻したのは十七年くらい前の話し。当時の話しは知らないとしても、社長から何か聞いていたりはするのだろうか?
そんなことを考えつつ、
「どうかしたのか?」
と彼の方に向き直ると、
「社長が後で明日の会合について話がしたいとのことです。もちろん私《わたくし》も同席しますので、ご心配なく」
「わかった」
社長のセクハラについても気遣ってくれる彼に苦笑いをし、皇は思い切って神流川に何か知らないか聞いてみることにした。
「十七年前の唯野さんの婚姻についてですか?」
”そうですねえ”と顎に手をあてた彼は、何か思い出しように手を打つと、
「そういえば」
と以前黒岩から聞いたという話を皇に話してくれた。
──確かに変だ。
神流川と別れエレベーターの箱に乗り込んだ皇は、苦情係のある階のボタンを押すと思案にふける。
十七年前、まだ新入社員だった黒岩と唯野は同じ営業部にいた。
同期であり、どうやら一方的に黒岩が唯野を気に入っていたらしい。
──まあ、唯野さんは美人だしな。
男性に美人という言葉が適当かは分からないが。
黒岩は当時独身。同じく独身だった唯野にご執心。
交際を申し込んだが『今はそれどころではない』と断られた。
それなのに唯野はその直後、当時わが社の受付嬢だった女性と婚姻。二人が交際していたことを知っていた人は一人もいなかったのにも関わらず、社内では『熱愛婚』という噂が立ったという。
周りは祝福ムード。
黒岩だけがオカシイと思っていた。
「副社長、お疲れ様です」
苦情係に行くためには商品部を通らなければならない。
商品部に足を踏み入れると、いつものように商品部の面々から挨拶される。それを皇は片手をあげニコリと微笑んでやり過ごす。
──何があったのだろうか?
それを突き止めることが出来れば、唯野はこの婚姻から解放されることができるのではないか?
皇はそんな希望を抱きながら苦情係に足を踏み入れようとして足を止める。
視界に入るのは、最愛の人。
決して手に入ることのない、彼の姿。
──板井は凄いなと思う。
ずっと唯野さんのことを想ってきたのに。
その好きな人の為に何かをしようとしている。
恐らく調査を続ければ真相に辿り着くだろう。
しかしそれは、自分にとって恋の終わりなのだ。自分には心から祝福することなんて出来ない。
それでも時は前にしか進まないし、このままでは彼らは幸せどころか世間一般では認められることのない形を何年も強いられることだろう。
日の光を浴びることのない恋人関係が健全なわけがない。
──奪ってしまえたなら、どんなにいいだろう?
俺なら幸せにしてあげられるのに。
それでも塩田が選んだのは、唯野さんなんだ。
胸ポケットに入れていたスマホがブルっと震える。
皇は指先でそれを取り出すと画面を見つめ、苦情係に足を踏み入れることなく踵を返したのだった。
皇は、唯野修二に何があったのか知る者を探さねばならないと思っていた。
『板井、手分けして調べよう。唯野さんには気づかれないようにな』
屋上で休憩を取ることの多い板井には、社長室長へ探りを入れるように頼んだ。自分が行く先は、総括黒岩のところだ。
「こんな時に掴まらないなんて」
皇は、いつもなら簡単に掴まるはずの黒岩が本日はトラブルがあって社外に出ていることを知った。
外に出ているなら仕方ない、帰りを待つだけだ。
皇は苦情係に足を向けた。
業務を手伝っているうちに帰社するだろうと思いながら。
腕時計に目をやれば、昼休みが終わりを告げようとしていた。板井の方は収穫はあったろうか?
気にはなるが頻繁に連絡を取るのは怪しまれるだろう。
皇はエレベーターの前で片手をポケットに突っ込み、下へ向かう箱が来るのを待っていた。
すると、
「皇副社長」
背後から良く知った声が。
第一社長秘書の神流川である。
──神流川は俺よりも入社は数年早いはずだが、唯野さんが婚姻したのは十七年くらい前の話し。当時の話しは知らないとしても、社長から何か聞いていたりはするのだろうか?
そんなことを考えつつ、
「どうかしたのか?」
と彼の方に向き直ると、
「社長が後で明日の会合について話がしたいとのことです。もちろん私《わたくし》も同席しますので、ご心配なく」
「わかった」
社長のセクハラについても気遣ってくれる彼に苦笑いをし、皇は思い切って神流川に何か知らないか聞いてみることにした。
「十七年前の唯野さんの婚姻についてですか?」
”そうですねえ”と顎に手をあてた彼は、何か思い出しように手を打つと、
「そういえば」
と以前黒岩から聞いたという話を皇に話してくれた。
──確かに変だ。
神流川と別れエレベーターの箱に乗り込んだ皇は、苦情係のある階のボタンを押すと思案にふける。
十七年前、まだ新入社員だった黒岩と唯野は同じ営業部にいた。
同期であり、どうやら一方的に黒岩が唯野を気に入っていたらしい。
──まあ、唯野さんは美人だしな。
男性に美人という言葉が適当かは分からないが。
黒岩は当時独身。同じく独身だった唯野にご執心。
交際を申し込んだが『今はそれどころではない』と断られた。
それなのに唯野はその直後、当時わが社の受付嬢だった女性と婚姻。二人が交際していたことを知っていた人は一人もいなかったのにも関わらず、社内では『熱愛婚』という噂が立ったという。
周りは祝福ムード。
黒岩だけがオカシイと思っていた。
「副社長、お疲れ様です」
苦情係に行くためには商品部を通らなければならない。
商品部に足を踏み入れると、いつものように商品部の面々から挨拶される。それを皇は片手をあげニコリと微笑んでやり過ごす。
──何があったのだろうか?
それを突き止めることが出来れば、唯野はこの婚姻から解放されることができるのではないか?
皇はそんな希望を抱きながら苦情係に足を踏み入れようとして足を止める。
視界に入るのは、最愛の人。
決して手に入ることのない、彼の姿。
──板井は凄いなと思う。
ずっと唯野さんのことを想ってきたのに。
その好きな人の為に何かをしようとしている。
恐らく調査を続ければ真相に辿り着くだろう。
しかしそれは、自分にとって恋の終わりなのだ。自分には心から祝福することなんて出来ない。
それでも時は前にしか進まないし、このままでは彼らは幸せどころか世間一般では認められることのない形を何年も強いられることだろう。
日の光を浴びることのない恋人関係が健全なわけがない。
──奪ってしまえたなら、どんなにいいだろう?
俺なら幸せにしてあげられるのに。
それでも塩田が選んだのは、唯野さんなんだ。
胸ポケットに入れていたスマホがブルっと震える。
皇は指先でそれを取り出すと画面を見つめ、苦情係に足を踏み入れることなく踵を返したのだった。
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