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4話『開かれる真実の扉』
3 いつか来る未来
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****♡Side・課長(唯野 修二)
修二は愛しいというように、塩田をぎゅっと抱きしめる。
強く強く。
彼には意に反することを強いているように感じていた。世間的に間違っているという事実が心に影を差す。どんなに抗っても、事実からは逃れることはできない。どんなに妻が許してくれたとしても。
修二は板井と副社長の皇が自分たちのために動いてくれていることを知らない。腕の中の塩田がそのことを知っていることさえも。
誰にも興味を示さない彼が自分を好きだと知った時、どれほど嬉しかっただろう。
塩田にとって同僚であり、自分にとっては部下の電車《でんま》が彼に懐いていることを知っていた。好意を抱《いだ》いていると知っていたのだ。塩田も電車とは仲が良く、よく一緒にいるところを見かけている。
その電車と同じく塩田に好意を抱いていた副社長の皇を出し抜いて、彼を自分のものにした。
──自分が既婚者であることを黙っていたのはきっと、知れば俺になんて好意を抱くはずがないと思ったからだろう。
その後、言わなかったのは不誠実としか言いようがない。
「んッ……」
繋がった部分が再び、きゅっと締め付けられる。
「修二」
「うん?」
彼の顔を覗き込むと、熱に浮かされ潤んだ瞳がこちらを見ていた。
何を考えているの? というように。
「好き」
「うん。愛してるよ」
微笑んでそう返せば、彼がキスを強請る。
自分は罪深いなと思った。
好きな人と一緒にいるだけでもいい。
確かにそういう人もいるだろう。しかしそれは時間を共有したいということであり、こんな風に檻の中に閉じ込められていたいということではないだろう。
世間体を気にして、いつまでも家の中にいるだけでは楽しませてやれない。
帰るべき場所があるから、自分の好きにばかりすることもできない。
もし彼が、皇や電車と付き合っていたなら何処かへ出かけたりできたはずなのに。
──こんな関係の俺にとって唯一、他の人と違うことがあるとするならば。
それは妻に許された関係ということだけだ。
「なあ、塩田」
耳を甘噛みし、わき腹を撫でながら優しく耳元で囁く。
彼はもっと動いてよと言うように、腰を揺らす。
「今度、温泉にでも行こうか」
修二は、もし皇や電車が彼と付き合っていて出かけるなら何処へ連れていくだろうかと考えた。塩田は自分のことを話さないので、彼の好みはあまり知らない。しかし和食が好きでインドア派ということだけは知っていた。
「温泉?」
案の定、彼の表情が変わる。
大の風呂好きというわけではなさそうだが、和を好むのであれば好きかも知れないと思ったのだ。そして浴衣姿を見たいという気持ちもある。
「行く」
嬉しそうにむぎゅっと抱き着く彼の後頭部を優しく撫でる、修二。
三年後、彼は結婚したいという自分の想いに承諾の意を示したことを、修二はふと思い出す。塩田との結婚の最大の山は彼の両親の承諾なのだが、それについては難関だとは思っていない。
塩田の両親と言えば、塩田をわが社に入社させるために凄く苦労した相手だ。
社長にスカウトされた彼は、
『俺の親を説得できるというなら、社畜にでもなんでもなってやるよ』
と腕組みをし、尊大な態度でそう返したそうだ。
思いの外難関だった為、彼の直属の上司となる自分も彼の家に説得へと連れ出された。
とにかく何にでも反対する両親。それはまるでパブロフの犬現象。
しかし唯野は四時間も延々と演説することで”魔王の反対”を突破したのである。埴輪顔の二人のことが忘れられない。
──反対されたら六時間、演説すればいいか。
修二はぼんやりとそんなことを思ったのだった。
修二は愛しいというように、塩田をぎゅっと抱きしめる。
強く強く。
彼には意に反することを強いているように感じていた。世間的に間違っているという事実が心に影を差す。どんなに抗っても、事実からは逃れることはできない。どんなに妻が許してくれたとしても。
修二は板井と副社長の皇が自分たちのために動いてくれていることを知らない。腕の中の塩田がそのことを知っていることさえも。
誰にも興味を示さない彼が自分を好きだと知った時、どれほど嬉しかっただろう。
塩田にとって同僚であり、自分にとっては部下の電車《でんま》が彼に懐いていることを知っていた。好意を抱《いだ》いていると知っていたのだ。塩田も電車とは仲が良く、よく一緒にいるところを見かけている。
その電車と同じく塩田に好意を抱いていた副社長の皇を出し抜いて、彼を自分のものにした。
──自分が既婚者であることを黙っていたのはきっと、知れば俺になんて好意を抱くはずがないと思ったからだろう。
その後、言わなかったのは不誠実としか言いようがない。
「んッ……」
繋がった部分が再び、きゅっと締め付けられる。
「修二」
「うん?」
彼の顔を覗き込むと、熱に浮かされ潤んだ瞳がこちらを見ていた。
何を考えているの? というように。
「好き」
「うん。愛してるよ」
微笑んでそう返せば、彼がキスを強請る。
自分は罪深いなと思った。
好きな人と一緒にいるだけでもいい。
確かにそういう人もいるだろう。しかしそれは時間を共有したいということであり、こんな風に檻の中に閉じ込められていたいということではないだろう。
世間体を気にして、いつまでも家の中にいるだけでは楽しませてやれない。
帰るべき場所があるから、自分の好きにばかりすることもできない。
もし彼が、皇や電車と付き合っていたなら何処かへ出かけたりできたはずなのに。
──こんな関係の俺にとって唯一、他の人と違うことがあるとするならば。
それは妻に許された関係ということだけだ。
「なあ、塩田」
耳を甘噛みし、わき腹を撫でながら優しく耳元で囁く。
彼はもっと動いてよと言うように、腰を揺らす。
「今度、温泉にでも行こうか」
修二は、もし皇や電車が彼と付き合っていて出かけるなら何処へ連れていくだろうかと考えた。塩田は自分のことを話さないので、彼の好みはあまり知らない。しかし和食が好きでインドア派ということだけは知っていた。
「温泉?」
案の定、彼の表情が変わる。
大の風呂好きというわけではなさそうだが、和を好むのであれば好きかも知れないと思ったのだ。そして浴衣姿を見たいという気持ちもある。
「行く」
嬉しそうにむぎゅっと抱き着く彼の後頭部を優しく撫でる、修二。
三年後、彼は結婚したいという自分の想いに承諾の意を示したことを、修二はふと思い出す。塩田との結婚の最大の山は彼の両親の承諾なのだが、それについては難関だとは思っていない。
塩田の両親と言えば、塩田をわが社に入社させるために凄く苦労した相手だ。
社長にスカウトされた彼は、
『俺の親を説得できるというなら、社畜にでもなんでもなってやるよ』
と腕組みをし、尊大な態度でそう返したそうだ。
思いの外難関だった為、彼の直属の上司となる自分も彼の家に説得へと連れ出された。
とにかく何にでも反対する両親。それはまるでパブロフの犬現象。
しかし唯野は四時間も延々と演説することで”魔王の反対”を突破したのである。埴輪顔の二人のことが忘れられない。
──反対されたら六時間、演説すればいいか。
修二はぼんやりとそんなことを思ったのだった。
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