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4話『開かれる真実の扉』
2 副社長と同僚
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****♡Side・副社長(皇)
『皇副社長に相談があるんです』
電話口の彼はそう話を切り出した。
現在、彼こと板井は皇の自宅にいる。彼の家は皇の家から近いとは言い難かったが、内覧したいと彼が言った為ここで話を聞くことにしたのだった。
板井は唯野修二の管理する苦情係に所属しており、修二がとても信頼している部下である。
同僚である塩田、電車ととても仲が良いようではあるが、無口な方であり余計なことを口にしない。そんな彼から折り入って相談されるとは思ってもいなかった。しかも、内容がその修二と塩田のことならなおさらだ。
──板井は陰では”唯野課長の忠犬”などと言われているくらいだ。
内容が唯野さんのことでない方が不思議か。
「先ほども申し上げた通り、俺は課長と塩田のことを塩田から聞きました」
彼はbarカウンターに腰かけ、ビールグラスを傾けながら。
それは皇が勧めたもの。
彼はbarカウンターの向こう側に広がる夜景を見つめ、
『素敵な眺めですね』
と口にした。
感情をなかなか口にしない塩田と違って、彼は惜しまず賞賛の言葉を唇に乗せる。皇をそれを目を細めて心穏やかに見つめていた。
「俺はずっと唯野課長のことが好きでした」
伏し目がちに吐露する彼。
それは皇も薄々気づいてたことだ。
「でも、既婚者だったから想っているだけで良かった」
──そうだ。
板井は常識人。自分の想いを押し付けたりなんてしない。
「だから塩田から話を聞いた時、好きな人を奪われたと思うよりは……唯野さんに人の道から外れさせるようなことをした塩田に怒りを覚えました。塩田に腹が立った」
カウンターを見つめていた板井が面を上げ、傍らでbarカウンターに寄りかかって立つ皇を見上げた。
皇は片手をスラックスのポケットに突っ込み、もう一方の手でワイングラスを傾け板井を見下ろしている。その皇が少し慌てた。
「いや……あれは……」
「知ってます。課長が黙っていただけだった。塩田は課長が既婚者であることを知らなかったということは」
皇の言葉を遮り、そう話す板井。
そこで皇は、なぜ塩田がそのことを知らなかったのか疑問に思った。
「そういえば、塩田は何故知らなかったんだ?」
唯野は結婚指輪をしていたはずである。
「副社長。塩田にそういう常識を求めても無駄だと思いますよ。なにせ塩田は今まで恋すらしたことなかったんですから。そして興味も持ってなかった」
──そうか。
結婚指輪をするという習慣は、なんとなく誰でも知っているように感じるが、産まれたばかりの赤子は当然知らない。
そして学校で教わることもない。
なら、何故それを皆が知っているように思うのか?
それは日常的に恋愛ごとに携わり、知識を得ているからだ。
そう。ドラマや知人、物語の中からなどから。
まったくの無関心な人間なら、目にしていてもそれが何か疑問にすら感じないかもしれない。家を借りたことがなければ、借り方を知らないだろうし、車に乗ったことがなければ運転の仕方を知ることもないだろう。
そういう常識とは人の興味があってこそ成り立つものなのだ。
「話がズレましたが、課長は離婚するつもりがあって塩田と交際していることも知りました。で、その件なのですが」
「三年は無理だって話か?」
他人事ながら自分たちは修二の事情について色々と知っており、同情もしている。
「なにか、おかしくないですか?」
「ん?」
「秘書室長から話を聞く機会があったのですが、先日」
秘書室長と言えば、確か修二と同期入社であり彼の妻とも接点があった人物である。社内一の情報通としても有名な女性だ。
彼女はたまに屋上で休憩を取ることがあるようだが、板井とも関りがあったとは意外である。
「課長の婚姻には不審な点があると言っていました」
「え?」
板井に言われ驚いた表情をしたものの、皇は修二の同期である現在の総括黒岩が漏らした言葉を思い出していたのだった。
『皇副社長に相談があるんです』
電話口の彼はそう話を切り出した。
現在、彼こと板井は皇の自宅にいる。彼の家は皇の家から近いとは言い難かったが、内覧したいと彼が言った為ここで話を聞くことにしたのだった。
板井は唯野修二の管理する苦情係に所属しており、修二がとても信頼している部下である。
同僚である塩田、電車ととても仲が良いようではあるが、無口な方であり余計なことを口にしない。そんな彼から折り入って相談されるとは思ってもいなかった。しかも、内容がその修二と塩田のことならなおさらだ。
──板井は陰では”唯野課長の忠犬”などと言われているくらいだ。
内容が唯野さんのことでない方が不思議か。
「先ほども申し上げた通り、俺は課長と塩田のことを塩田から聞きました」
彼はbarカウンターに腰かけ、ビールグラスを傾けながら。
それは皇が勧めたもの。
彼はbarカウンターの向こう側に広がる夜景を見つめ、
『素敵な眺めですね』
と口にした。
感情をなかなか口にしない塩田と違って、彼は惜しまず賞賛の言葉を唇に乗せる。皇をそれを目を細めて心穏やかに見つめていた。
「俺はずっと唯野課長のことが好きでした」
伏し目がちに吐露する彼。
それは皇も薄々気づいてたことだ。
「でも、既婚者だったから想っているだけで良かった」
──そうだ。
板井は常識人。自分の想いを押し付けたりなんてしない。
「だから塩田から話を聞いた時、好きな人を奪われたと思うよりは……唯野さんに人の道から外れさせるようなことをした塩田に怒りを覚えました。塩田に腹が立った」
カウンターを見つめていた板井が面を上げ、傍らでbarカウンターに寄りかかって立つ皇を見上げた。
皇は片手をスラックスのポケットに突っ込み、もう一方の手でワイングラスを傾け板井を見下ろしている。その皇が少し慌てた。
「いや……あれは……」
「知ってます。課長が黙っていただけだった。塩田は課長が既婚者であることを知らなかったということは」
皇の言葉を遮り、そう話す板井。
そこで皇は、なぜ塩田がそのことを知らなかったのか疑問に思った。
「そういえば、塩田は何故知らなかったんだ?」
唯野は結婚指輪をしていたはずである。
「副社長。塩田にそういう常識を求めても無駄だと思いますよ。なにせ塩田は今まで恋すらしたことなかったんですから。そして興味も持ってなかった」
──そうか。
結婚指輪をするという習慣は、なんとなく誰でも知っているように感じるが、産まれたばかりの赤子は当然知らない。
そして学校で教わることもない。
なら、何故それを皆が知っているように思うのか?
それは日常的に恋愛ごとに携わり、知識を得ているからだ。
そう。ドラマや知人、物語の中からなどから。
まったくの無関心な人間なら、目にしていてもそれが何か疑問にすら感じないかもしれない。家を借りたことがなければ、借り方を知らないだろうし、車に乗ったことがなければ運転の仕方を知ることもないだろう。
そういう常識とは人の興味があってこそ成り立つものなのだ。
「話がズレましたが、課長は離婚するつもりがあって塩田と交際していることも知りました。で、その件なのですが」
「三年は無理だって話か?」
他人事ながら自分たちは修二の事情について色々と知っており、同情もしている。
「なにか、おかしくないですか?」
「ん?」
「秘書室長から話を聞く機会があったのですが、先日」
秘書室長と言えば、確か修二と同期入社であり彼の妻とも接点があった人物である。社内一の情報通としても有名な女性だ。
彼女はたまに屋上で休憩を取ることがあるようだが、板井とも関りがあったとは意外である。
「課長の婚姻には不審な点があると言っていました」
「え?」
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