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2話『誤解と嫉妬』
4 一緒にいたい
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****♡Side・課長
「修二」
「うん?」
修二は塩田の身体を、優しく抱きしめ返す。
「別れるの、無しにしてよ」
「……」
「なあ!」
可愛いなと思った。
我儘も言わずいつも澄ましている彼が、こんな風に自分に縋ってくるのが。
「修二、なんでダメなの?」
「ダメなんて言ってないよ」
人は毎日一緒に居るとそれが当たり前になってしまって、有難みを感じなくなり感謝を忘れてしまう。
愛への怠慢を悔いた彼女に、
『君だけが悪いわけじゃない、俺も同じだから』
と修二は謝罪した。
確かに愛したはずの妻、大切だったはずの家族。壊したのは自分。他の人に惹かれてしまうほど、妻の存在を当たり前に感じていた自分自身に、すぐに気づくことが出来たなら。誰も傷つかずに済んだはずなのに。
もう引き返すことなんてできない。自分には、この腕の中の温もりが何より大切なのだ。
しかし……。
「俺は、三年は離婚できない」
三年は長い。その間、彼の気持ちが変わらないとは言い切れないし、縛り付けたくもない。
「一緒に住んでやることも、常に傍に居てやることも出来ないんだ」
「三年経ったら、修二はどうしたいの」
修二は塩田の髪を撫でる。まさか希望を聞かれるとは思っていなかった為、少し戸惑う。
「許されるなら、塩田と結婚したい」
───今度は間違えない。
当たり前だなんて思わないから。
大事にするから。
全部のみ込んで。
「俺、料理しないし。奥さんみたいには、なれない」
と、彼は言う。
「そんなの、俺がやるから」
「めんどくさしなって、やっぱり奥さんの方がよか……」
それ以上言わせまいと、修二は彼の口を掌で塞ぐ。
「言わないし、塩田のことが好きだから。一緒に居たいんだよ」
結婚は共同生活だ。愛だけじゃ暮らせない。
お金だって必要だし、家事だってしなければならない。きっと自分は、働いているからと言って、妻に甘えっぱなしだったと思う。育児だって大して手伝った記憶もない。
ただ必死に働いていただけだ。寂しい想いだって、大変な想いだってさせただろう。しかし彼女は、
『義務さえ果たしてくれればいい』
そう言った。
だからここへ来たのだ。なのに他の男と一緒に居るのを知って、辛くなった。一緒に居てやれないから、他の奴のところへ行ってしまうのだろうか、と。
「修二、好きだよ」
「うん、俺も好きだ」
「もっと、一緒に居たい」
「そうだな」
修二は妻の言葉を思い出す。せめて平日は、外泊して良いか交渉しようと思った。意外と寂しがりやな、彼。毎日、他の男に添い寝してもらっているのかと思うと腹立たしい。自分がいけないのだと、分かっていても。
───俺は、随分と心が狭くなったものだな。
修二は、心の中で深いため息をついたのだった。
「修二」
「うん?」
修二は塩田の身体を、優しく抱きしめ返す。
「別れるの、無しにしてよ」
「……」
「なあ!」
可愛いなと思った。
我儘も言わずいつも澄ましている彼が、こんな風に自分に縋ってくるのが。
「修二、なんでダメなの?」
「ダメなんて言ってないよ」
人は毎日一緒に居るとそれが当たり前になってしまって、有難みを感じなくなり感謝を忘れてしまう。
愛への怠慢を悔いた彼女に、
『君だけが悪いわけじゃない、俺も同じだから』
と修二は謝罪した。
確かに愛したはずの妻、大切だったはずの家族。壊したのは自分。他の人に惹かれてしまうほど、妻の存在を当たり前に感じていた自分自身に、すぐに気づくことが出来たなら。誰も傷つかずに済んだはずなのに。
もう引き返すことなんてできない。自分には、この腕の中の温もりが何より大切なのだ。
しかし……。
「俺は、三年は離婚できない」
三年は長い。その間、彼の気持ちが変わらないとは言い切れないし、縛り付けたくもない。
「一緒に住んでやることも、常に傍に居てやることも出来ないんだ」
「三年経ったら、修二はどうしたいの」
修二は塩田の髪を撫でる。まさか希望を聞かれるとは思っていなかった為、少し戸惑う。
「許されるなら、塩田と結婚したい」
───今度は間違えない。
当たり前だなんて思わないから。
大事にするから。
全部のみ込んで。
「俺、料理しないし。奥さんみたいには、なれない」
と、彼は言う。
「そんなの、俺がやるから」
「めんどくさしなって、やっぱり奥さんの方がよか……」
それ以上言わせまいと、修二は彼の口を掌で塞ぐ。
「言わないし、塩田のことが好きだから。一緒に居たいんだよ」
結婚は共同生活だ。愛だけじゃ暮らせない。
お金だって必要だし、家事だってしなければならない。きっと自分は、働いているからと言って、妻に甘えっぱなしだったと思う。育児だって大して手伝った記憶もない。
ただ必死に働いていただけだ。寂しい想いだって、大変な想いだってさせただろう。しかし彼女は、
『義務さえ果たしてくれればいい』
そう言った。
だからここへ来たのだ。なのに他の男と一緒に居るのを知って、辛くなった。一緒に居てやれないから、他の奴のところへ行ってしまうのだろうか、と。
「修二、好きだよ」
「うん、俺も好きだ」
「もっと、一緒に居たい」
「そうだな」
修二は妻の言葉を思い出す。せめて平日は、外泊して良いか交渉しようと思った。意外と寂しがりやな、彼。毎日、他の男に添い寝してもらっているのかと思うと腹立たしい。自分がいけないのだと、分かっていても。
───俺は、随分と心が狭くなったものだな。
修二は、心の中で深いため息をついたのだった。
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