R18【同性恋愛】リーマン物語if2『万年筆が繋ぐ愛』

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2話『誤解と嫉妬』

3 それでも好き

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****♡Side・塩田

───なんで俺、嫌だって言えなかったんだろう。
 別れたくなんてないのに。

 修二には家庭がある。彼は妻とやり直したほうが幸せなんじゃないのか、と思ってしまったのだ。あんな風に怒らせて、泣かせて。ちっとも幸せそうじゃない。自分といても笑顔になれないんじゃないかって。

 塩田は壁に背を預け、玄関に座り込んでいた。
 とっさに皇が追いかけていったが、自分は動けないまま。
 外でぼそぼそと声がするので、皇が修二を引き留めていることだけは分かった。

───皇にも迷惑かけてる。

 いっそ皇の告白を受けて付き合っていた方が、楽だったのかもしれないと思い始めていた。そうすれば丸く収まったのに、と。
 だが自分は修二のことが好きなのだ。一人で抱え込み、誰にも甘えず、大きな心で部下を許すことが出来るあの人が。
 塩田は今まで恋をしたことがなかった。
 恋をすることもないと思っていたのだ。
 それなのに彼は、簡単に塩田の心のドアをノックして入って来た人。
 塩田のペースで心を開くのを、待っていてくれた人。

 塩田はぎゅっと膝を抱える。
 話しを聞いてもらえなかった時、どれだけ悲しかったか。
 それと同じことを彼にしてしまっている自分に、どれだけ憤りを感じた事か。

『このままじゃ、嫉妬で気が狂いそうなんだ』
 塩田を押さえつけた修二は、涙を溢しながら苦しそうにそう言った。
『塩田は、俺のこと傷つけて楽しかった……? 満足したか?』
 その問いに塩田は彼に何も言えず、見つめ返していただけ。
『このままじゃ俺はきっと、塩田に酷いことする。塩田のことホントに好きだから、別れたい』
 そう言うと、彼は部屋を飛び出していったのだ。

───追いかけることすら出来ないなんて。

 別れたくないって縋ったなら、何か違ったのかも知れない。分かっているのに、動けない。それはきっと、修二が既婚者だからだ。
 人のものを奪ったところで、幸せになれるわけがない。今だって、彼の妻を傷つけているに違いないのに。

 塩田はポケットから、彼が投げつけていった離婚届を取り出す。しわくちゃだが、綺麗に折りたたんでポケットに入れていたのは、何も彼に突っ返すためではない。

───俺との恋愛を本気で考えてくれてた、せめてもの記念にしようと思ってたんだ。
 思い出くらい、貰ってもいいだろうって。

 離婚届の文字をじっと見つめていると、玄関のドアが開く。
「塩田」
 先に入って来たのは皇だった。
「別れるにしても、ちゃんと冷静に話し合ってからにしろよ」
 皇はそう言うと、
「俺は寝る」
といって奥へ入ってく。

「塩田、あのさ……」
 何か言葉を発しようとする、修二。
 塩田は立ち上がると、思わず彼に抱きついた。
「修二、ごめん。俺、身勝手だけど。別れたくない」
「……え?」
「ごめん」
 塩田は謝ることしかできなかったのだった。
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