13 / 48
2話『誤解と嫉妬』
3 それでも好き
しおりを挟む
****♡Side・塩田
───なんで俺、嫌だって言えなかったんだろう。
別れたくなんてないのに。
修二には家庭がある。彼は妻とやり直したほうが幸せなんじゃないのか、と思ってしまったのだ。あんな風に怒らせて、泣かせて。ちっとも幸せそうじゃない。自分といても笑顔になれないんじゃないかって。
塩田は壁に背を預け、玄関に座り込んでいた。
とっさに皇が追いかけていったが、自分は動けないまま。
外でぼそぼそと声がするので、皇が修二を引き留めていることだけは分かった。
───皇にも迷惑かけてる。
いっそ皇の告白を受けて付き合っていた方が、楽だったのかもしれないと思い始めていた。そうすれば丸く収まったのに、と。
だが自分は修二のことが好きなのだ。一人で抱え込み、誰にも甘えず、大きな心で部下を許すことが出来るあの人が。
塩田は今まで恋をしたことがなかった。
恋をすることもないと思っていたのだ。
それなのに彼は、簡単に塩田の心のドアをノックして入って来た人。
塩田のペースで心を開くのを、待っていてくれた人。
塩田はぎゅっと膝を抱える。
話しを聞いてもらえなかった時、どれだけ悲しかったか。
それと同じことを彼にしてしまっている自分に、どれだけ憤りを感じた事か。
『このままじゃ、嫉妬で気が狂いそうなんだ』
塩田を押さえつけた修二は、涙を溢しながら苦しそうにそう言った。
『塩田は、俺のこと傷つけて楽しかった……? 満足したか?』
その問いに塩田は彼に何も言えず、見つめ返していただけ。
『このままじゃ俺はきっと、塩田に酷いことする。塩田のことホントに好きだから、別れたい』
そう言うと、彼は部屋を飛び出していったのだ。
───追いかけることすら出来ないなんて。
別れたくないって縋ったなら、何か違ったのかも知れない。分かっているのに、動けない。それはきっと、修二が既婚者だからだ。
人のものを奪ったところで、幸せになれるわけがない。今だって、彼の妻を傷つけているに違いないのに。
塩田はポケットから、彼が投げつけていった離婚届を取り出す。しわくちゃだが、綺麗に折りたたんでポケットに入れていたのは、何も彼に突っ返すためではない。
───俺との恋愛を本気で考えてくれてた、せめてもの記念にしようと思ってたんだ。
思い出くらい、貰ってもいいだろうって。
離婚届の文字をじっと見つめていると、玄関のドアが開く。
「塩田」
先に入って来たのは皇だった。
「別れるにしても、ちゃんと冷静に話し合ってからにしろよ」
皇はそう言うと、
「俺は寝る」
といって奥へ入ってく。
「塩田、あのさ……」
何か言葉を発しようとする、修二。
塩田は立ち上がると、思わず彼に抱きついた。
「修二、ごめん。俺、身勝手だけど。別れたくない」
「……え?」
「ごめん」
塩田は謝ることしかできなかったのだった。
───なんで俺、嫌だって言えなかったんだろう。
別れたくなんてないのに。
修二には家庭がある。彼は妻とやり直したほうが幸せなんじゃないのか、と思ってしまったのだ。あんな風に怒らせて、泣かせて。ちっとも幸せそうじゃない。自分といても笑顔になれないんじゃないかって。
塩田は壁に背を預け、玄関に座り込んでいた。
とっさに皇が追いかけていったが、自分は動けないまま。
外でぼそぼそと声がするので、皇が修二を引き留めていることだけは分かった。
───皇にも迷惑かけてる。
いっそ皇の告白を受けて付き合っていた方が、楽だったのかもしれないと思い始めていた。そうすれば丸く収まったのに、と。
だが自分は修二のことが好きなのだ。一人で抱え込み、誰にも甘えず、大きな心で部下を許すことが出来るあの人が。
塩田は今まで恋をしたことがなかった。
恋をすることもないと思っていたのだ。
それなのに彼は、簡単に塩田の心のドアをノックして入って来た人。
塩田のペースで心を開くのを、待っていてくれた人。
塩田はぎゅっと膝を抱える。
話しを聞いてもらえなかった時、どれだけ悲しかったか。
それと同じことを彼にしてしまっている自分に、どれだけ憤りを感じた事か。
『このままじゃ、嫉妬で気が狂いそうなんだ』
塩田を押さえつけた修二は、涙を溢しながら苦しそうにそう言った。
『塩田は、俺のこと傷つけて楽しかった……? 満足したか?』
その問いに塩田は彼に何も言えず、見つめ返していただけ。
『このままじゃ俺はきっと、塩田に酷いことする。塩田のことホントに好きだから、別れたい』
そう言うと、彼は部屋を飛び出していったのだ。
───追いかけることすら出来ないなんて。
別れたくないって縋ったなら、何か違ったのかも知れない。分かっているのに、動けない。それはきっと、修二が既婚者だからだ。
人のものを奪ったところで、幸せになれるわけがない。今だって、彼の妻を傷つけているに違いないのに。
塩田はポケットから、彼が投げつけていった離婚届を取り出す。しわくちゃだが、綺麗に折りたたんでポケットに入れていたのは、何も彼に突っ返すためではない。
───俺との恋愛を本気で考えてくれてた、せめてもの記念にしようと思ってたんだ。
思い出くらい、貰ってもいいだろうって。
離婚届の文字をじっと見つめていると、玄関のドアが開く。
「塩田」
先に入って来たのは皇だった。
「別れるにしても、ちゃんと冷静に話し合ってからにしろよ」
皇はそう言うと、
「俺は寝る」
といって奥へ入ってく。
「塩田、あのさ……」
何か言葉を発しようとする、修二。
塩田は立ち上がると、思わず彼に抱きついた。
「修二、ごめん。俺、身勝手だけど。別れたくない」
「……え?」
「ごめん」
塩田は謝ることしかできなかったのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる