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1話『出会い』
3 一度きりの関係【微R】
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****♡Side・副社長(皇)
『下手くそッ』
塩田と寝たのは、一度きり。
『もう、俺が乗る』
皇は男を抱いたことはなかった。
塩田に痛いと怒られ、彼は皇に跨り腰を振った。対面騎乗位で皇の首に腕を巻きつけて。皇はただ優しく、その身体を抱きしめた。
『なあ、泣くくらいならやめよう?』
皇がどんなに言っても彼は聞かず、泣きながら皇にしがみついて。
───別に、性交を求めたわけじゃない。
あれは課長を裏切りたかっただけなんだ。
どうして自分は、余計なことを言ってしまったのだろう。
修二に妻がいることを言わなければ、塩田はあんな暴挙には出なかったのに。
情事が終わり、彼を抱きしめて眠った。少しでも自分の罪が軽くなることを祈りながら。
───いや、違う。俺は奪いたかったんだ。
課長から、塩田を。
皇の家は資産家で、自分はその長男として産まれた。母は優しかったが、父は人を個々としては見ない人。どんなに頑張ろうとも”皇家のものなら当たり前”と言われ、努力を認めてもらえることはなかった。
承認欲求が全く満たされず、嫌気が差した皇は、長男でありながら家を継がずに社会へ出た。(株)原始人。酷い家庭で育った皇は、コミュニケーションが苦手。今でこそ周りのものに好かれてはいるが、入社当時は先輩たちから嫌われていたのだ。
そんな自分の面倒を見てくれたのが、現在の総括と唯野課長。二人は当時、皇と同じ営業に居た。
───優しくて温厚で人から好かれていて。
全部持ってるあの人が、俺は羨ましかったんだろう。
塩田は我が道をひた歩く男で、客だろうが上司だろうが、忖度なしの塩対応。恋人もおらず、仕事が終われば真っ直ぐ帰宅。人づきあいもしない男。周りに全く興味がないが、なぜかモテた。
───あの容姿だもんな。
モテるのは当たり前だ。
冷たいと思いきや、同僚の仕事を手伝うなど、優しい一面も見受けられた。皇はいつしか、彼の視界に入りたいと心から望むようになる。しかし接点がなく、その望が叶えられることはなかった。そんな折に知ったのだ、二人で昼食に行ったことを。
───俺は課長が憎かったのかもしれない。
簡単に塩田の心を開いた、あの人が。
『なあ、一緒に寝て』
修二に家庭のあることを知り、一度強引に皇と身体の関係を持ってからは、驚くほど甘えるようになった塩田。きっと修二に甘えられなくなり、寂しさを感じていたのだろう。
皇はスマホを手に取る。時刻は二十三時を回っていた。画面をスライドさせ、電話のマークに触れる。
塩田に直接かけられるように設定していたものだ。
───もう、寝ているかもしれない。
そんな事を思っていると、数コールして相手がでる。
『皇?』
「そっち行っていい?」
『ああ』
「一緒に眠ろう」
例え、彼が振り向いてくれなくとも、寂しい夜は傍に居てやりたいと皇は思っていたのだった。
『下手くそッ』
塩田と寝たのは、一度きり。
『もう、俺が乗る』
皇は男を抱いたことはなかった。
塩田に痛いと怒られ、彼は皇に跨り腰を振った。対面騎乗位で皇の首に腕を巻きつけて。皇はただ優しく、その身体を抱きしめた。
『なあ、泣くくらいならやめよう?』
皇がどんなに言っても彼は聞かず、泣きながら皇にしがみついて。
───別に、性交を求めたわけじゃない。
あれは課長を裏切りたかっただけなんだ。
どうして自分は、余計なことを言ってしまったのだろう。
修二に妻がいることを言わなければ、塩田はあんな暴挙には出なかったのに。
情事が終わり、彼を抱きしめて眠った。少しでも自分の罪が軽くなることを祈りながら。
───いや、違う。俺は奪いたかったんだ。
課長から、塩田を。
皇の家は資産家で、自分はその長男として産まれた。母は優しかったが、父は人を個々としては見ない人。どんなに頑張ろうとも”皇家のものなら当たり前”と言われ、努力を認めてもらえることはなかった。
承認欲求が全く満たされず、嫌気が差した皇は、長男でありながら家を継がずに社会へ出た。(株)原始人。酷い家庭で育った皇は、コミュニケーションが苦手。今でこそ周りのものに好かれてはいるが、入社当時は先輩たちから嫌われていたのだ。
そんな自分の面倒を見てくれたのが、現在の総括と唯野課長。二人は当時、皇と同じ営業に居た。
───優しくて温厚で人から好かれていて。
全部持ってるあの人が、俺は羨ましかったんだろう。
塩田は我が道をひた歩く男で、客だろうが上司だろうが、忖度なしの塩対応。恋人もおらず、仕事が終われば真っ直ぐ帰宅。人づきあいもしない男。周りに全く興味がないが、なぜかモテた。
───あの容姿だもんな。
モテるのは当たり前だ。
冷たいと思いきや、同僚の仕事を手伝うなど、優しい一面も見受けられた。皇はいつしか、彼の視界に入りたいと心から望むようになる。しかし接点がなく、その望が叶えられることはなかった。そんな折に知ったのだ、二人で昼食に行ったことを。
───俺は課長が憎かったのかもしれない。
簡単に塩田の心を開いた、あの人が。
『なあ、一緒に寝て』
修二に家庭のあることを知り、一度強引に皇と身体の関係を持ってからは、驚くほど甘えるようになった塩田。きっと修二に甘えられなくなり、寂しさを感じていたのだろう。
皇はスマホを手に取る。時刻は二十三時を回っていた。画面をスライドさせ、電話のマークに触れる。
塩田に直接かけられるように設定していたものだ。
───もう、寝ているかもしれない。
そんな事を思っていると、数コールして相手がでる。
『皇?』
「そっち行っていい?」
『ああ』
「一緒に眠ろう」
例え、彼が振り向いてくれなくとも、寂しい夜は傍に居てやりたいと皇は思っていたのだった。
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