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1話『出会い』
1 彼に惹かれた日
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****♡Side・課長(唯野 修二)
『移動?』
あれは塩田たちが入社したばかりの頃のことだ。
(株)原始人には、もともとお客様センターというモノがある。苦情係はあとから悪質なクレーマー対策室として、設立された部署なのだ。
元営業にいた自分は、何故か社長から直々に課長として抜擢され、配属されたのだった。
今ならその理由を想像することはできるが、当時は理解できずにいた。何故なら自分はその時既に、商品部に居たからである。その商品部の隣に苦情係は作られたのだ。
苦情係は塩田の為にあると言っても過言じゃない。
そこまでして、社長が塩田ここに置きたい理由は分からないが。社長は塩田を特別扱いしてはいるが、特別な関係には見えない。社長は既婚者で、自分とは違い家族第一に見えた。
営業で自分と一位、二位を争っていた同期の奴は、あれよあれよという間に、総括に昇進。
それに対し自分は、商品部を始めとする色んな部署を、転々とさせられた。
苦情係の課長に抜擢させられた時、副社長の皇には、
『こんなのパワハラだろ?! 各部署を転々とさせられた挙句、新しく作られた部署で、未経験の部下は新入社員だぞ?!』
と自分よりも、憤りを感じていたようである。
しかし自分には、養わなければならない家族がいる。こと娘においては、これから大学が控えていた。
給料などの待遇は部長と同等という。苦情係には自分より上がいない。状況に応じては特別手当も出すと、社長は言った。後に引けるわけなどない。
『そうかもしれないが、社長の適性を見抜く目は確かだよ』
自分の後輩であった皇は、ものの一年もしないうちに、副社長となった。彼のお陰で取引先も増えたという。
陰では贔屓などという者もいるが、彼の適性を見抜いたのはまぎれもなく社長だ。
『自分だってその口だろ』
『だけど!』
皇にはどうしても、納得がいかなかったらしい。しかし今となっては、色んな部署を転々とさせられた意味も分かっている。社長が自分に対し見抜いた適正は、人当たりの良さと社交性。そして人望だ。色んな部署で仲良くなった奴らから、たった四人で結成された苦情係は支えられている。
あの日、
『大変だな』
と、たまたま帰りが一緒になった塩田は、移動の経緯を聞いてそう言った。
入社当時から、上司対してにタメ口というとんでもない奴だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
『まあ、でも一応昇進だしな』
と修二が笑うと、
『おめでとう』
と彼は祝いの言葉をくれた。
それがとても意外だった。
『同期の奴はエリートコースまっしぐらで、今や総括だけどな』
と肩を竦めると彼は、通りかかった文具店を親指で差し、
『付き合って欲しいんだが』
と修二の返事も聞かずに、中へ。
───俺はあの日からきっと…。
『これ、お祝い』
上司を私用につき合わせるなんて、と思って待っていたら、彼は綺麗に包装されたスリムな長方形の箱型のものを、こちらに差し出してきた。
『どんな差があろうとも、昇進は昇進だろ?』
年下で、目上に対する言葉遣いもなってない部下だと思っていたが、彼は彼なりに気遣いのできる人物だと感じた。
『ありがと。開けて良い?』
『ここでか? 家で開けろよ』
と彼は眉を寄せる。
確かに、店頭でプレゼントを開けるのもどうかしている。仕方なく帰宅後、書斎で包みを開けると中にはセンスの良い万年筆が。
それは、自分にとって宝物となった。
修二は自宅書斎の机に寄り掛かると、胸ポケットから万年筆を取り出す。赤黒い色の重厚なもの。間接照明の中で、煌めく。
「塩田……」
自分は、どこから間違っていたのだろう。
うちは夫婦別性。娘は妻の苗字を名乗っている。
いつまでも独身気分が抜けず、孤独すら感じてしまうのはそのせいなのだろうか。
───そんなの言い訳だな。
修二は、再びため息をついたのだった。
『移動?』
あれは塩田たちが入社したばかりの頃のことだ。
(株)原始人には、もともとお客様センターというモノがある。苦情係はあとから悪質なクレーマー対策室として、設立された部署なのだ。
元営業にいた自分は、何故か社長から直々に課長として抜擢され、配属されたのだった。
今ならその理由を想像することはできるが、当時は理解できずにいた。何故なら自分はその時既に、商品部に居たからである。その商品部の隣に苦情係は作られたのだ。
苦情係は塩田の為にあると言っても過言じゃない。
そこまでして、社長が塩田ここに置きたい理由は分からないが。社長は塩田を特別扱いしてはいるが、特別な関係には見えない。社長は既婚者で、自分とは違い家族第一に見えた。
営業で自分と一位、二位を争っていた同期の奴は、あれよあれよという間に、総括に昇進。
それに対し自分は、商品部を始めとする色んな部署を、転々とさせられた。
苦情係の課長に抜擢させられた時、副社長の皇には、
『こんなのパワハラだろ?! 各部署を転々とさせられた挙句、新しく作られた部署で、未経験の部下は新入社員だぞ?!』
と自分よりも、憤りを感じていたようである。
しかし自分には、養わなければならない家族がいる。こと娘においては、これから大学が控えていた。
給料などの待遇は部長と同等という。苦情係には自分より上がいない。状況に応じては特別手当も出すと、社長は言った。後に引けるわけなどない。
『そうかもしれないが、社長の適性を見抜く目は確かだよ』
自分の後輩であった皇は、ものの一年もしないうちに、副社長となった。彼のお陰で取引先も増えたという。
陰では贔屓などという者もいるが、彼の適性を見抜いたのはまぎれもなく社長だ。
『自分だってその口だろ』
『だけど!』
皇にはどうしても、納得がいかなかったらしい。しかし今となっては、色んな部署を転々とさせられた意味も分かっている。社長が自分に対し見抜いた適正は、人当たりの良さと社交性。そして人望だ。色んな部署で仲良くなった奴らから、たった四人で結成された苦情係は支えられている。
あの日、
『大変だな』
と、たまたま帰りが一緒になった塩田は、移動の経緯を聞いてそう言った。
入社当時から、上司対してにタメ口というとんでもない奴だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
『まあ、でも一応昇進だしな』
と修二が笑うと、
『おめでとう』
と彼は祝いの言葉をくれた。
それがとても意外だった。
『同期の奴はエリートコースまっしぐらで、今や総括だけどな』
と肩を竦めると彼は、通りかかった文具店を親指で差し、
『付き合って欲しいんだが』
と修二の返事も聞かずに、中へ。
───俺はあの日からきっと…。
『これ、お祝い』
上司を私用につき合わせるなんて、と思って待っていたら、彼は綺麗に包装されたスリムな長方形の箱型のものを、こちらに差し出してきた。
『どんな差があろうとも、昇進は昇進だろ?』
年下で、目上に対する言葉遣いもなってない部下だと思っていたが、彼は彼なりに気遣いのできる人物だと感じた。
『ありがと。開けて良い?』
『ここでか? 家で開けろよ』
と彼は眉を寄せる。
確かに、店頭でプレゼントを開けるのもどうかしている。仕方なく帰宅後、書斎で包みを開けると中にはセンスの良い万年筆が。
それは、自分にとって宝物となった。
修二は自宅書斎の机に寄り掛かると、胸ポケットから万年筆を取り出す。赤黒い色の重厚なもの。間接照明の中で、煌めく。
「塩田……」
自分は、どこから間違っていたのだろう。
うちは夫婦別性。娘は妻の苗字を名乗っている。
いつまでも独身気分が抜けず、孤独すら感じてしまうのはそのせいなのだろうか。
───そんなの言い訳だな。
修二は、再びため息をついたのだった。
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