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0話『プロローグ』
2 忘れさせてよ、何もかも
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****♡Side・苦情係・平社員(塩田以往)
自分の気持ちに気づいたころ、知った。
相手が既婚者だったこと。
───酒に酔った戯言だと、どうして思えなかったのだろう。
塩田は彼が投げつけていった硬く丸まった紙を拾い上げる。
自分に対して怒る彼を見たことがなかった。
今まで、一度も。
『あの人、総括の同期なんだよ。ホントはもっと昇進してもおかしくないのに、社長の駒にされてるんだ』
最近、塩田と行動を共にすることが多くなった副社長こと”皇 優一”は、塩田の家で一緒に酒を嗜みながら、我が社”(株)原始人”のことについて色んな話をしてくれた。
『何故』
『さあ、何か弱みでも握られてるんじゃないのか?』
皇はバルコニーの手すりに持たれ、空を眺めながらそう答える。
───離婚届?
拾い上げた紙を拡げれば、それは彼の綺麗な字で書かれた離婚届。印鑑まで押してあるにもかかわらず、相手は空欄。
突っぱねられたのだろうか?
『遊びじゃない』
優しくてユーモアがあって、十以上も年の離れた恋人。
自分が恋人ではなく愛人なんだと知った時の気持ちを、彼は知らない。
初めは流されているだけだった。本気だとも思っていなかったのに。塩田が返事をするだけで嬉しそうに目を細める彼を見ているうちに、ほんとに好意があるのかもしれないと思い始めたのだ。
『何、課長と付き合ってるの?』
皇は初め、とても驚いた顔をした。
『課長は奥さんいるけど。塩田そういうの平気なんだ?』
そして彼が何故驚いたのかを知る。仮にそうだとしても、課長こと修二は何故黙っていたのか。塩田にはそこが一番気になった。
結論付ける、自分は遊ばれているのだと。
そう思ったらどうにも悔しかった。
見返してやりたくなって、半ば自暴自棄に副社長と関係を持ったのだ。
『俺は、塩田のこと好きだからいいけど、後悔するんじゃないの?』
会社では”俺様で強引な皇”。しかしプライベートでは、優しく真面目。塩田は彼の意外な一面を知り、度々自分のマンションで一緒に呑むようになる。
以前、ここにいたのは修二なのに。皇は驚くほど一緒にいて楽だった。何も求めてこないし、ただ会社の話題を口にするだけで、塩田のことを心配してはいても無理に踏み込んできたりもしない。
塩田はため息を一つつくと、テーブルの上に置いてあったスマホを手にする。画面をスライドさせ、通話記録から電話をかける。
『どうした?』
と直ぐに相手は通話口に出た。
『なあ、抱いてよ』
塩田の言葉に相手が息を呑むのが分かる。
───忘れさせてよ、何もかも。
闇が降りる。
自分が選んだ道は正しいのか。
今は分からない。
自分の気持ちに気づいたころ、知った。
相手が既婚者だったこと。
───酒に酔った戯言だと、どうして思えなかったのだろう。
塩田は彼が投げつけていった硬く丸まった紙を拾い上げる。
自分に対して怒る彼を見たことがなかった。
今まで、一度も。
『あの人、総括の同期なんだよ。ホントはもっと昇進してもおかしくないのに、社長の駒にされてるんだ』
最近、塩田と行動を共にすることが多くなった副社長こと”皇 優一”は、塩田の家で一緒に酒を嗜みながら、我が社”(株)原始人”のことについて色んな話をしてくれた。
『何故』
『さあ、何か弱みでも握られてるんじゃないのか?』
皇はバルコニーの手すりに持たれ、空を眺めながらそう答える。
───離婚届?
拾い上げた紙を拡げれば、それは彼の綺麗な字で書かれた離婚届。印鑑まで押してあるにもかかわらず、相手は空欄。
突っぱねられたのだろうか?
『遊びじゃない』
優しくてユーモアがあって、十以上も年の離れた恋人。
自分が恋人ではなく愛人なんだと知った時の気持ちを、彼は知らない。
初めは流されているだけだった。本気だとも思っていなかったのに。塩田が返事をするだけで嬉しそうに目を細める彼を見ているうちに、ほんとに好意があるのかもしれないと思い始めたのだ。
『何、課長と付き合ってるの?』
皇は初め、とても驚いた顔をした。
『課長は奥さんいるけど。塩田そういうの平気なんだ?』
そして彼が何故驚いたのかを知る。仮にそうだとしても、課長こと修二は何故黙っていたのか。塩田にはそこが一番気になった。
結論付ける、自分は遊ばれているのだと。
そう思ったらどうにも悔しかった。
見返してやりたくなって、半ば自暴自棄に副社長と関係を持ったのだ。
『俺は、塩田のこと好きだからいいけど、後悔するんじゃないの?』
会社では”俺様で強引な皇”。しかしプライベートでは、優しく真面目。塩田は彼の意外な一面を知り、度々自分のマンションで一緒に呑むようになる。
以前、ここにいたのは修二なのに。皇は驚くほど一緒にいて楽だった。何も求めてこないし、ただ会社の話題を口にするだけで、塩田のことを心配してはいても無理に踏み込んできたりもしない。
塩田はため息を一つつくと、テーブルの上に置いてあったスマホを手にする。画面をスライドさせ、通話記録から電話をかける。
『どうした?』
と直ぐに相手は通話口に出た。
『なあ、抱いてよ』
塩田の言葉に相手が息を呑むのが分かる。
───忘れさせてよ、何もかも。
闇が降りる。
自分が選んだ道は正しいのか。
今は分からない。
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