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13『頭痛の種と愛しき人』
4 彼からのプロポーズ
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****side■唯野
「へえ。五人姉弟の末っ子なんですか」
”いいですね”と言う板井に唯野は眉を寄せた。
「末っ子は愛され上手って言いますし、甘え上手とも言いますよね」
「一般的にはその傾向があるらしいな」
末っ子は上の兄姉から可愛がられる。その反面甘やかされている部分もあるだろう。その特質が社会で上手くいかせればいいだろうが、過大評価されて育ったと言っても過言ではないため、苦労もある。
根性や忍耐力があるのは圧倒的に長子。
今まで味方がたくさんいて当たり前の世界から、一人で戦わねばならない世界に放り込まれたら?
唯野はどちらかと言うと苦労をした方だったので、末っ子がいいとは思えなかった。部下の板井や電車は長子。面倒見がよく、自分で道を切り開いて行くタイプ。障害は乗り越えるものだと思っているようだし、忍耐力もある。羨ましいことこの上ない。
「俺の場合は二度目だし、再婚自体には何も言われないだろうけど」
歳の差と相手が初婚ということで反対される予感がある。
自分の懸念材料を板井に告げると彼は大丈夫というように微笑む。
「なら、うちから報告に行きましょうよ」
板井のところが反対しなければ唯野の家族も反対し辛いだろうという。その案には唯野も賛成せざるを得ない。
なんとなく実感が湧いたところで彼が唯野の手を握った。
「幸せになりましょうね」
「ああ」
窓の向こうには煌めく光の海。
これはプロポーズなのだと思った。
「あ、あのさ」
「なんでしょう?」
板井は自分に負けず劣らずロマンチストだ。だから言っておかねばならないことがある。
「板井は式とかしたい派?」
塩田たちは式はせずに両家の者たちを呼んでホームパーティーをしたらしい。
「旅行は行きたいなとは思いますが、式には特に憧れはないですね」
「そっか」
「したかったですか?」
「いや」
実のところ唯野は結婚式というのが苦手であった。元妻とは披露宴などを行ったが、緊張で疲れ果てた記憶しかない。
「女性なら純白のドレスに憧れるのでしょうが」
「そうだな」
ここは外。ずっと握られたままの手にドキドキしてしまい、話しどころではなくなり始めていた。
「そろそろ帰ります?」
「え?」
唯野の変化に気づいたのか、板井が耳元に唇を寄せ『帰って良いことしましょうか』と囁く。一気に体温が上がるのを感じた。
十分に食事を堪能した二人は会計を済ませ、手を繋いだまま店を出る。月夜にリングが光る。この先もきっとこんな風に楽しい時間を一緒に過ごしていくのだろうと思いながら唯野は空を見上げた。
「人間とは不思議な生き物ですね」
「うん?」
隣を歩く板井を見上げれば、彼はぼんやりと正面を見つめている。
「学生の内は主に同年代と時を過ごす。そこに心地よさを感じる人もいれば合わないなと思う人もいるとは思います」
合う合わないは価値観もあるだろうが、精神年齢も関係していると思う。
「そういう時期は同年代の考えこそが全てに感じてしまっている。でも社会に出ればたくさんのことを知り、世界の広さを知る」
「そうだな」
十代の時期は特殊な時期でもあると思う。
「あの頃は、年上の……しかも上司と恋人同士になるなんて夢にも思いませんでした」
「後悔してる?」
「後悔することは絶対にないですね」
車の前までたどり着いた板井は立ち止まると、グイっと唯野の手を引き腰に手を回した。
「想像もしていなかった現実は」
「うん?」
「とても幸せに満ちていると思っています」
”黒岩さんのことは心配ですけど”と彼は続けて。
「この愛しい日々がずっと続くことを祈っているんです」
じっと見つめられて唯野は板井を見つめ返した。
「愛していますよ、修二さん。どうか俺と結婚してください」
唯野はドキリとする。ちゃんと言葉にしてくれるのだと思うと胸が熱くなった。
「喜んで」
唯野には、そう返すのが精一杯だった。
ぎゅっと抱きしめられ、その背中に手を回す。
まるで月明かりが二人を祝福してくれているようだった。
「へえ。五人姉弟の末っ子なんですか」
”いいですね”と言う板井に唯野は眉を寄せた。
「末っ子は愛され上手って言いますし、甘え上手とも言いますよね」
「一般的にはその傾向があるらしいな」
末っ子は上の兄姉から可愛がられる。その反面甘やかされている部分もあるだろう。その特質が社会で上手くいかせればいいだろうが、過大評価されて育ったと言っても過言ではないため、苦労もある。
根性や忍耐力があるのは圧倒的に長子。
今まで味方がたくさんいて当たり前の世界から、一人で戦わねばならない世界に放り込まれたら?
唯野はどちらかと言うと苦労をした方だったので、末っ子がいいとは思えなかった。部下の板井や電車は長子。面倒見がよく、自分で道を切り開いて行くタイプ。障害は乗り越えるものだと思っているようだし、忍耐力もある。羨ましいことこの上ない。
「俺の場合は二度目だし、再婚自体には何も言われないだろうけど」
歳の差と相手が初婚ということで反対される予感がある。
自分の懸念材料を板井に告げると彼は大丈夫というように微笑む。
「なら、うちから報告に行きましょうよ」
板井のところが反対しなければ唯野の家族も反対し辛いだろうという。その案には唯野も賛成せざるを得ない。
なんとなく実感が湧いたところで彼が唯野の手を握った。
「幸せになりましょうね」
「ああ」
窓の向こうには煌めく光の海。
これはプロポーズなのだと思った。
「あ、あのさ」
「なんでしょう?」
板井は自分に負けず劣らずロマンチストだ。だから言っておかねばならないことがある。
「板井は式とかしたい派?」
塩田たちは式はせずに両家の者たちを呼んでホームパーティーをしたらしい。
「旅行は行きたいなとは思いますが、式には特に憧れはないですね」
「そっか」
「したかったですか?」
「いや」
実のところ唯野は結婚式というのが苦手であった。元妻とは披露宴などを行ったが、緊張で疲れ果てた記憶しかない。
「女性なら純白のドレスに憧れるのでしょうが」
「そうだな」
ここは外。ずっと握られたままの手にドキドキしてしまい、話しどころではなくなり始めていた。
「そろそろ帰ります?」
「え?」
唯野の変化に気づいたのか、板井が耳元に唇を寄せ『帰って良いことしましょうか』と囁く。一気に体温が上がるのを感じた。
十分に食事を堪能した二人は会計を済ませ、手を繋いだまま店を出る。月夜にリングが光る。この先もきっとこんな風に楽しい時間を一緒に過ごしていくのだろうと思いながら唯野は空を見上げた。
「人間とは不思議な生き物ですね」
「うん?」
隣を歩く板井を見上げれば、彼はぼんやりと正面を見つめている。
「学生の内は主に同年代と時を過ごす。そこに心地よさを感じる人もいれば合わないなと思う人もいるとは思います」
合う合わないは価値観もあるだろうが、精神年齢も関係していると思う。
「そういう時期は同年代の考えこそが全てに感じてしまっている。でも社会に出ればたくさんのことを知り、世界の広さを知る」
「そうだな」
十代の時期は特殊な時期でもあると思う。
「あの頃は、年上の……しかも上司と恋人同士になるなんて夢にも思いませんでした」
「後悔してる?」
「後悔することは絶対にないですね」
車の前までたどり着いた板井は立ち止まると、グイっと唯野の手を引き腰に手を回した。
「想像もしていなかった現実は」
「うん?」
「とても幸せに満ちていると思っています」
”黒岩さんのことは心配ですけど”と彼は続けて。
「この愛しい日々がずっと続くことを祈っているんです」
じっと見つめられて唯野は板井を見つめ返した。
「愛していますよ、修二さん。どうか俺と結婚してください」
唯野はドキリとする。ちゃんと言葉にしてくれるのだと思うと胸が熱くなった。
「喜んで」
唯野には、そう返すのが精一杯だった。
ぎゅっと抱きしめられ、その背中に手を回す。
まるで月明かりが二人を祝福してくれているようだった。
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