R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
90 / 96
12『惹かれ合って結ばれて』

7 言葉にしない、大好き

しおりを挟む
****side■電車でんま

「紀夫はほんと手を繋ぐのが好きなんだな」
 仕事あがり。歌を口ずさむ電車でんまの横で不意に塩田がそう言った。
 約束通り、一旦家に帰ってから隣の駅に向かう予定だ。
「塩田と繋ぐのがね」
 ニコッと笑って見せれば、彼の手に力が入る。たった五分の距離だからこそ手を繋ぎたい。その気持ちは彼にわかるのだろうか。電車はそんなことを思いながら自宅マンションを見上げた。

 エントランスでマンションの管理人に挨拶をし、エレベーターの箱に乗り込む。
「夕飯は外で食べてくる?」
 そんなに遅くはならないだろうが、これから一旦家に荷物を置いて隣の駅へ行くとなると腹が減って仕方ないだろうと思った電車は彼にそう尋ねたのだが。
「また外食?」
と不満そうだ。
 それもそのはず。昼は大抵外食。もともと外で食事をするのが好きではない彼のこと。仕事上りは家でゆっくりしたいのだろう。
「これから出かけて、帰宅してからご飯ってなるといつもよりもだいぶ遅いよ?」
「んー」
 夕飯が遅くなるのも塩田は好まない。生活リズムが狂うのが好きではないのだ。特に平日は。

 目的の階に着きエレベーターの箱から降りると彼がポケットから鍵を取り出す。
「駅前の焼き鳥屋さんで何か買って帰ろうよ」
 料理をしない塩田はあまりわがままを言えないことをわかっている。だから自分から提案することはほとんどなかった。そんな彼の気持ちを汲んであげるのが電車の役目でもある。
「じゃあ、スーパーも寄りたい」
「また茄子漬買うの?」
 コクリと頷く彼が可愛い。
「今、漬物フェアやっているんだ。何か発掘する」
「そんな……宝探しじゃあるまいし」
 彼の言葉にクスリと笑いながら、ドアを開けるのを待つ電車。
 玄関に足を踏み入れれば、ただいまのキス。

「お昼はどうだった?」
 ネクタイに指をかけながら電車が問えば、
「緊張した」
と塩田。
 無心に寿司を食べていたような気がしたが、あれは緊張していたのかと納得した。
「やっぱり二人が良い」
 Vネックのシャツにチノパンに着替えた電車に対し、塩田はハーフパンツにポロシャツという格好だ。特にお洒落でもなんでもない普通の恰好だが、普段は酷いプリントシャツを好んで着ている二人にしてはマシな方である。
 ポケットに鍵とスマホを入れて完了。キャッシュレスとは実にシンプルで楽だ。
「チケット持った?」
「チケット……レシートのこと?」
「まあ、そうなのかな」
 レシートと同じ用紙に印刷された予約引き換え券をチラリとスマホのケースカバーから覗かせる彼。
「大丈夫みたいだね。行こうか」
 再び手を差し伸べると迷いなく掴む塩田。そんな小さなことがとても嬉しかった。彼の左手薬指には婚姻の証。

 結婚とはただの誓いに過ぎない。
 法の下に縛ることが出来ても心は縛れない。
 人の心は変わってしまうものだから、どんなに縛ろうとしたところで永遠の約束でも保障でもない。
 特に今の彼は気がそぞろ。電車は冷や冷やしっぱなしなのである。
 それでも彼が自分を捨てて皇のところへ行くことはないと思うのは、塩田の性格と皇の言葉のお蔭。

「帰ったらゲームするの?」
 予約をしていたほどだ、よほど楽しみにしていたに違いない。
 車に乗り込みながら電車が問うと助手席に乗り込んだ彼は小さく首を横に振る。
「起動はしてみるけれど、やるのは別の日かな」
「どうして」
「紀夫とやるから」
 チラリとこちらに視線を向ける彼が可愛い。まるで”やるよね?”とでも言っているようで。
「どんなゲームなの? 今日、少しだけやってみようよ」
 途端に嬉しそうな表情を浮かべる彼。それは自分にだけ見せてくれる特別な表情。
「違うことがしたくなってきた」
「え?」
 シートベルトを確認しアクセルを踏み込んだ電車は、塩田の言葉に思わずブレーキを踏む。
「危ないよ」
「ごめん」
 注意を受けた電車だったが、塩田の方を見てドキリとするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春ですね~夜道で出会った露出狂をホテルに連れ込んでみたら~

夏芽玉
BL
4月、第3週目の金曜日。職場の歓迎会のせいで不本意にも帰りが遅くなってしまた。今日は行きつけのハプバーのイベント日だったのに。色んなネコとハプれるのを楽しみにしていたのに!! 年に1度のイベントには結局間に合わず、不貞腐れながら帰路についたら、住宅街で出会ったのは露出狂だった。普段なら、そんな変質者はスルーの一択だったのだけど、イライラとムラムラしていたオレは、露出狂の身体をじっくりと検分してやった。どう見ても好みのど真ん中の身体だ。それならホテルに連れ込んで、しっぽりいこう。据え膳なんて、食ってなんぼだろう。だけど、実はその相手は……。変態とSMのお話です。

処理中です...