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12『惹かれ合って結ばれて』
2 副社長皇の愚痴
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****side■板井
「可愛いよな、塩田は」
皇はベランダの欄干に寄りかかり板井の方を見て微笑んだ。
皇を含む板井たち三人は塩田のマンションから引き揚げ、現在は板井たちが暮らすマンションにいた。
「今まで、俺のことなんか眼中になかったのに、あんなに意識しちゃってさ」
何処か自虐的な感じがするのは言葉のせいだけではないと思う。
「俺に一体どうしろって言うんだよ」
彼の呟きは優しい風に乗って何処かへ吹き飛んでいく。
「俺が余計なことを言ったから……」
彼はただ、好きなだけで良かったのだと思う。けれどもそのことに電車は不安を感じていて、塩田はまったく気に留めてもいなかった。
板井の言葉で三人のバランスは崩れてしまったのだ。
「いいよ、それは」
皇はグラスを口元に持っていくとワインを口に含む。
酔って愚痴っているわけではない。板井になら言えるから言うだけなのだと唯野に言われ、彼の話を聞いているのである。
「塩田は変わったと思うよ。好きなら行動に移すものだと思っている。だから行動に移さない、言葉にもしない俺の気持ちが信じられないんだろう」
人は自分を基準にものを考えるものだ。
もっとも、考え方と言うのは経験や育った環境で変わってくるし、皆同じと言うわけではない。
好きだから行動に移すという人もいれば、見ているだけでいいという人もいるだろう。行動に移すことだけが”好きの証明”にはならない。
例えば好きなミュージシャンのライブに行く人もいれば、音楽を購入し個人的に聞いているだけで満たされる人もいる。それは好きの度合いとはイコールにはならない。どんな風に楽しみたいのか? その違いなだけ。
それと同じように”好き”という”愛情表現”の仕方も人によって異なる。
パートナーがいるからと諦める人もいるし、諦めない人もいるのだ。
諦めないから”とても好き”だとは一概に言えない。
相手の迷惑を考えて諦める人もいるし、迷惑顧みずに突っ走る人もいる。それが倫理道徳に反するか否か以前に、性格によって人は行動が変わるだけ。
「俺だって、塩田がフリーなら力づくでも自分に向けるかもしれない」
「それは……」
「例えだよ」
人のモノを奪ったところで幸せになんてなれはしないのだ。
人には”強く求められたい”という一面もあるかも知れない。しかし、それは長続きはしない。
誰だってテーブルに引っ付いた取れ辛いガムテープをはがす時は我知らず力を入れてしまうものだ。それと同じ。奪うにはそれなりに力がいる。
剥がれた後に同じ力を加え続ける必要がないのと同じで、同じ行動を取り続けることはないのだ。
自分に向けた後に落ち着くのは、愛情が減ったとは一概には言えない。
ただし、人のモノを取りたいだけの人も存在はする。
振り向いたら飽きるというのは単に奪うスリルを楽しんでいるだけで、恋をしているわけではないのだ。
「俺だって我慢しているだけなのに、酷いよなアイツ」
愁いを含んだ瞳。きっと塩田には言わないのだろうと思うと、さすがだなとも思う。
「ところでそっちはどうなの?」
皇は自分のことばかり話しているのは良くないと思ったのか、急に矛先を変えてきた。
唯野とは両想いになり、一緒に暮らしてもいるが平和とはいかない。
「最近、やたら総括が苦情係に来るのが気になりますね」
「黒岩さん、唯野さんのこと好きらしいからな」
「やっぱりそうなんですか」
唯野が離婚する前は、たまにしか顔を出さなかった黒岩。
二人が新人だったころから黒岩は唯野に気があったらしいが、唯野が結婚してからは当てつけのようにすぐに相手を見つけて結婚したのだという話は秘書室長から聞いていた。既婚者であるにも関わらず、唯野の離婚を気に再燃したのだとしたら厄介だ。
なにせ黒岩の辞書には諦めるという言葉がないのだから。
「可愛いよな、塩田は」
皇はベランダの欄干に寄りかかり板井の方を見て微笑んだ。
皇を含む板井たち三人は塩田のマンションから引き揚げ、現在は板井たちが暮らすマンションにいた。
「今まで、俺のことなんか眼中になかったのに、あんなに意識しちゃってさ」
何処か自虐的な感じがするのは言葉のせいだけではないと思う。
「俺に一体どうしろって言うんだよ」
彼の呟きは優しい風に乗って何処かへ吹き飛んでいく。
「俺が余計なことを言ったから……」
彼はただ、好きなだけで良かったのだと思う。けれどもそのことに電車は不安を感じていて、塩田はまったく気に留めてもいなかった。
板井の言葉で三人のバランスは崩れてしまったのだ。
「いいよ、それは」
皇はグラスを口元に持っていくとワインを口に含む。
酔って愚痴っているわけではない。板井になら言えるから言うだけなのだと唯野に言われ、彼の話を聞いているのである。
「塩田は変わったと思うよ。好きなら行動に移すものだと思っている。だから行動に移さない、言葉にもしない俺の気持ちが信じられないんだろう」
人は自分を基準にものを考えるものだ。
もっとも、考え方と言うのは経験や育った環境で変わってくるし、皆同じと言うわけではない。
好きだから行動に移すという人もいれば、見ているだけでいいという人もいるだろう。行動に移すことだけが”好きの証明”にはならない。
例えば好きなミュージシャンのライブに行く人もいれば、音楽を購入し個人的に聞いているだけで満たされる人もいる。それは好きの度合いとはイコールにはならない。どんな風に楽しみたいのか? その違いなだけ。
それと同じように”好き”という”愛情表現”の仕方も人によって異なる。
パートナーがいるからと諦める人もいるし、諦めない人もいるのだ。
諦めないから”とても好き”だとは一概に言えない。
相手の迷惑を考えて諦める人もいるし、迷惑顧みずに突っ走る人もいる。それが倫理道徳に反するか否か以前に、性格によって人は行動が変わるだけ。
「俺だって、塩田がフリーなら力づくでも自分に向けるかもしれない」
「それは……」
「例えだよ」
人のモノを奪ったところで幸せになんてなれはしないのだ。
人には”強く求められたい”という一面もあるかも知れない。しかし、それは長続きはしない。
誰だってテーブルに引っ付いた取れ辛いガムテープをはがす時は我知らず力を入れてしまうものだ。それと同じ。奪うにはそれなりに力がいる。
剥がれた後に同じ力を加え続ける必要がないのと同じで、同じ行動を取り続けることはないのだ。
自分に向けた後に落ち着くのは、愛情が減ったとは一概には言えない。
ただし、人のモノを取りたいだけの人も存在はする。
振り向いたら飽きるというのは単に奪うスリルを楽しんでいるだけで、恋をしているわけではないのだ。
「俺だって我慢しているだけなのに、酷いよなアイツ」
愁いを含んだ瞳。きっと塩田には言わないのだろうと思うと、さすがだなとも思う。
「ところでそっちはどうなの?」
皇は自分のことばかり話しているのは良くないと思ったのか、急に矛先を変えてきた。
唯野とは両想いになり、一緒に暮らしてもいるが平和とはいかない。
「最近、やたら総括が苦情係に来るのが気になりますね」
「黒岩さん、唯野さんのこと好きらしいからな」
「やっぱりそうなんですか」
唯野が離婚する前は、たまにしか顔を出さなかった黒岩。
二人が新人だったころから黒岩は唯野に気があったらしいが、唯野が結婚してからは当てつけのようにすぐに相手を見つけて結婚したのだという話は秘書室長から聞いていた。既婚者であるにも関わらず、唯野の離婚を気に再燃したのだとしたら厄介だ。
なにせ黒岩の辞書には諦めるという言葉がないのだから。
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