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12『惹かれ合って結ばれて』
1 それは浮気です
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****side■電車
「よく話し合えって言われた」
ぽつりと吐き出された塩田からの言葉。何故かとても元気がない。
「そうなの。それで、塩田はやめにしたいの?」
「いや」
”むしろ早く結婚したい”と言われ、電車は戸惑った。
「紀夫はやめにしたいのか?」
塩田に不安そうな瞳を向けられ、電車は彼の両手を優しく掴んで引き寄せる。一歩前に進む彼。
「やめたいわけないでしょ?」
優しく微笑んで見せるが、彼は瞳を揺らしじっとこちらを伺っている。
「来て」
不安にしてはいけない相手なのだ。彼はいつでも自分が望んだ道にしか進まない。それでも、選択の中心は自分なのだという自覚くらいは電車にもある。
両手を掴んでいた手を放すと彼の腰に添え、さらに引き寄せた。
すると彼は電車の膝を跨いで乗り上げ、首に腕を絡め抱きついてくる。その背中を電車は優しくゆっくりと撫でた。
「副社長がいうことは間違っていないと思うよ。ちゃんと話し合って不安を取り除いてから結婚すべきだと思う」
”でもそれは”と電車は続ける。
「塩田を幸せにするためだから」
「俺は幸せだよ」
「そうじゃなくて」
ぎゅっと抱き着く彼の腕を捉え少し引き離すと、見つめ合う。
「俺はね。塩田が副社長に惹かれてしまうんじゃないかと不安になるんだ。でも、不安だからといって逃げたりしない。この手を放したりはしない」
「紀夫……」
「大丈夫だから」
”嫌になって捨てたりなんてしない”と告げれば、再びむぎゅっと抱き着かれる。そんな彼がたまらなく愛しい。
これは彼が自分にしか見せない姿なのだ。
「だからさ、副社長のこと意識するのやめて欲しいよ」
「意識してなんか」
「ないの?」
彼は答えなかった。
──恨むよ、板井。
「気持ちがふらふらしたら、それは浮気なんだよ?」
恋愛初心者の彼には教えなければならないことがたくさんあると思う。
「浮気?」
「そう。ヤラシイことしてなくてもね」
「じゃあ、俺は浮気したってこと?」
「そうなるね」
一途でいたい彼にとっては大きなダメージだろう。
「お、俺は悪くない。板井が変なこと言うからだ」
電車は、涙声の彼の背中に滑らせていた手でわき腹を撫で上げ、首筋を強く吸った。
「痛っ」
「浮気したら、お仕置きしないとね」
「いやだ」
震える声に電車は嬉しくなる。彼がどれだけ自分を好きなのか伝わってくるようで。
「俺は紀夫だけ」
「ほんとに?」
「嘘ついてない」
抱き着いていた腕をほどき、こちらを見る彼。潤んだ瞳が電車の欲情を煽る。電車はそんな彼の顎を捉え、口づけた。
「浮気したら許さないよ」
「しない」
片腕を腰に回し、彼のTシャツの裾に指をかける。
「するのか? ここで?」
板井も唯野も皇も帰宅した後だ。この家には今、二人きり。
それでも場所を考えずに事に及ぶのは良いこととは言えないだろう。
ムードを壊すのは嫌だったが、彼のことは大切にしたい。
「ううん。ベッド行こうね」
電車の言葉に彼が少しホッとした表情をする。お仕置きと言ったことが利いているのだろうか?
それにしても……と電車は思う。
板井が余計なことを言ったために、塩田は必要以上に皇のことを意識しているように感じる。
社長の趣向で時々おかしい言動もあるが、皇は根は真面目で立ち居振る舞いは優雅という良家のお坊ちゃんなのだ。電車たちとは二つくらいしか違わないが、ちゃんと上司としての立場も重んじる頼りがいのある人物。
その上、三人兄弟の長子。面倒見も良く、仕事のできる人だ。
そんな彼が塩田をとても気にかけていることは周知の事実。本人だけが気づいていない。
──気づかないままでも良かったと思うんだけれどなあ。
板井のことを恨んではいるが、もともとは自分が不安になっているから彼がお節介を妬いてくれたのだ。文句を言うわけにもいかず、電車はどうしたものかと頭を悩ませたのであった。
「よく話し合えって言われた」
ぽつりと吐き出された塩田からの言葉。何故かとても元気がない。
「そうなの。それで、塩田はやめにしたいの?」
「いや」
”むしろ早く結婚したい”と言われ、電車は戸惑った。
「紀夫はやめにしたいのか?」
塩田に不安そうな瞳を向けられ、電車は彼の両手を優しく掴んで引き寄せる。一歩前に進む彼。
「やめたいわけないでしょ?」
優しく微笑んで見せるが、彼は瞳を揺らしじっとこちらを伺っている。
「来て」
不安にしてはいけない相手なのだ。彼はいつでも自分が望んだ道にしか進まない。それでも、選択の中心は自分なのだという自覚くらいは電車にもある。
両手を掴んでいた手を放すと彼の腰に添え、さらに引き寄せた。
すると彼は電車の膝を跨いで乗り上げ、首に腕を絡め抱きついてくる。その背中を電車は優しくゆっくりと撫でた。
「副社長がいうことは間違っていないと思うよ。ちゃんと話し合って不安を取り除いてから結婚すべきだと思う」
”でもそれは”と電車は続ける。
「塩田を幸せにするためだから」
「俺は幸せだよ」
「そうじゃなくて」
ぎゅっと抱き着く彼の腕を捉え少し引き離すと、見つめ合う。
「俺はね。塩田が副社長に惹かれてしまうんじゃないかと不安になるんだ。でも、不安だからといって逃げたりしない。この手を放したりはしない」
「紀夫……」
「大丈夫だから」
”嫌になって捨てたりなんてしない”と告げれば、再びむぎゅっと抱き着かれる。そんな彼がたまらなく愛しい。
これは彼が自分にしか見せない姿なのだ。
「だからさ、副社長のこと意識するのやめて欲しいよ」
「意識してなんか」
「ないの?」
彼は答えなかった。
──恨むよ、板井。
「気持ちがふらふらしたら、それは浮気なんだよ?」
恋愛初心者の彼には教えなければならないことがたくさんあると思う。
「浮気?」
「そう。ヤラシイことしてなくてもね」
「じゃあ、俺は浮気したってこと?」
「そうなるね」
一途でいたい彼にとっては大きなダメージだろう。
「お、俺は悪くない。板井が変なこと言うからだ」
電車は、涙声の彼の背中に滑らせていた手でわき腹を撫で上げ、首筋を強く吸った。
「痛っ」
「浮気したら、お仕置きしないとね」
「いやだ」
震える声に電車は嬉しくなる。彼がどれだけ自分を好きなのか伝わってくるようで。
「俺は紀夫だけ」
「ほんとに?」
「嘘ついてない」
抱き着いていた腕をほどき、こちらを見る彼。潤んだ瞳が電車の欲情を煽る。電車はそんな彼の顎を捉え、口づけた。
「浮気したら許さないよ」
「しない」
片腕を腰に回し、彼のTシャツの裾に指をかける。
「するのか? ここで?」
板井も唯野も皇も帰宅した後だ。この家には今、二人きり。
それでも場所を考えずに事に及ぶのは良いこととは言えないだろう。
ムードを壊すのは嫌だったが、彼のことは大切にしたい。
「ううん。ベッド行こうね」
電車の言葉に彼が少しホッとした表情をする。お仕置きと言ったことが利いているのだろうか?
それにしても……と電車は思う。
板井が余計なことを言ったために、塩田は必要以上に皇のことを意識しているように感じる。
社長の趣向で時々おかしい言動もあるが、皇は根は真面目で立ち居振る舞いは優雅という良家のお坊ちゃんなのだ。電車たちとは二つくらいしか違わないが、ちゃんと上司としての立場も重んじる頼りがいのある人物。
その上、三人兄弟の長子。面倒見も良く、仕事のできる人だ。
そんな彼が塩田をとても気にかけていることは周知の事実。本人だけが気づいていない。
──気づかないままでも良かったと思うんだけれどなあ。
板井のことを恨んではいるが、もともとは自分が不安になっているから彼がお節介を妬いてくれたのだ。文句を言うわけにもいかず、電車はどうしたものかと頭を悩ませたのであった。
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